第37話僕の宝石
僕の名前は、アルディア・ルリ・カラロル。
元五大貴族の一人。魔のカラロル家の子供。
まぁ、全てに“元”が付くけどね。
突然だけど、僕は今、身動きが取れない状況下にある。
何故なら
「ひっ……うぁ………えっ……っ………」
僕の憧れで、相棒で、好きな人に、抱きつかれているから。
何でこんなことになったのか?
そんなの一番、僕が知りたい。
部屋にいたらノックされて、扉を開けたら抱きつかれた。
その間僅か5秒ほど。
いつもはしっかり者のアメジストだけど、今日は何かあったのだろう。
「アメジスト。何かあったの?」
「…」
「アメジスト。黙ってちゃわからないよ」
泣くのは収まったが、まだ僕に抱きついたままだ。
「姫さまがね…」
「姫さまが?」
「お城を燃やすんだって」
「…はい?」
イマナンテイッタ?シロヲモヤス?
「え、えぇ!?マジで!?」
「国壊しの日に…それは良いの」
何故か僕の膝に座るアメジスト。体格は同じくらいなので、僕は、アメジストの肩から顔上半分が見えている感じだ。
「それは良いんだ」
「うん…」
それが良いなら何故泣いた。
それを聞きたいが、ルキ王太子殿下曰く
『女性には直球に聞いちゃダメ』
らしいので、我慢する。
「で、どうしたの?」
「前に話したでしょ、姫さまは今、別の姫さまなんだって」
「あぁ、言ってたね」
「10歳から前のことは朧げにしか覚えてないはずなのに、お城を燃やす計画を」
「うん」
「もう8年も前から考えてたって言うの」
「…それはある意味すごい執念だね」
「うん。でも…何でそのことだけ覚えてるのかしら」
うーん、たしかに、気になる。
「徐々に思い出してる…とか?」
僕が言う。
「…」
「「それか」」
二人で互いを指差し、顔を見合わせる。
姫さまには、何故だか双子みたい、と言われる。それはこの、シンクロ率にあるのだろうか。
まぁ、それはともかく置いといて
「何で泣いてたの?」
あ、やべ、直接聞いちゃった。
「…あれ、何でだろ」
「え、まさか、無意識?」
「かもね…ははっ」
乾いたその笑いと笑顔は、どこか寂しげだった。
僕は、まだ姫さまとアメジストの側に、5年ほどしかいない。
姫さまの過去は知らないし、アメジストの過去も知らない。
こんな時、僕は痛感する。
自分は、なんて無力なのだろうか
パシッ
「痛っ!?」
「今、無力だって思ったでしょ」
泣いたせいか、目元が赤く腫れながらも僕を睨んでいる。
つか、どうしてわかった。何でデコピンした
「何でわかったのか、でしょ?」
「あー、うん」
「…実験No.0014、アメジスト」
「それ、って、ネスト教の…」
ネスト教。
この世界、
平和主義を掲げているが、子供を使った非人道的な実験を繰り返しているらしい。
アメジストが言った“実験No.”とはその子供たちにつけられる名称のようなもの。
そんなことを考えていると、アメジストが僕の足元に座る。膝を抱えてうずくまる感じだ
「私ね、私ね、本当の名前は」
「アメジスト・アールリンテ。アールリンテ男爵家の娘だ」
「なっ」
アメジスト。まさか“あの”アメジストだとは思わなかった。
初めて会った頃は、同名なのかな、なんて緩いことを思っていた。
それほどまでに、噂で聞いていた容姿とはかけ離れていたからだ。
噂では、黒い髪に、赤い瞳。いつも黒いドレスを着ている、という感じだった。
それがどうだ。
実際は、紫髪に紫の目、いつも侍女の制服をきっちり着こなしている。
噂とは違いすぎるだろう。
「知ってるんなら、いいや。話そうか」
「…うん」
「私、私ね、アールリンテの名を剥奪されてるの」
「え」
アールリンテの名を、剥奪されている。
つまりは、男爵家の娘ではないと言うこと。
「髪色が変わったからだってさ。目の色も」
…彼女は気づいているだろうか。
自分の話し方が変わっていることに。
笑いながら、涙を流していることに。
これが、本当の君なのかな。アメジスト。
「…好き…」
「は?」
「アメジスト。僕、アメジストが好きだ」
無意識のうちにそう呟いていた。
言い終わった後に、ヤバッ、と思う。
このことに、アメジストは怒らない。多分。
問題なのは
「(多分。何に対しての「好き」なのかわかってないと思うんだよなぁ〜)」
と、10秒くらい前まで、思っていた。
ボッ、という効果音が聞こえてきそうな勢いで、アメジストの顔が真っ赤になった。
「あ、え、やっ、す、好き?何が?」
「アメジスト。君が好き」
「あ、え、は、はぁ?」
わかっていそうだけど、わかっていなさそうな反応をするアメジスト。
そんなアメジストを他所に、僕は立ち上がり床に跪く。
「アメジスト、宝石の君よ」
「ッ!」
ビクッとアメジストが固まる。
が、そんなこと御構い無しに言葉を続ける。
「あなたの笑顔は花。あなたの瞳は星。あなたの心は宝。御身に我が全てを差し出しましょう。どうか、我が妻になってくれぬでしょうか」
「…っ〜〜〜〜〜!!!」
顔を真っ赤にしたまま、うつむき、無言で悶えているだろうアメジスト。
「どうでしょうか」
そして笑顔のまま話を続ける僕。
側から見れば、無理強いしているように見えるのだろうか。
「アル、ディア…魔法の君よ…」
「!」
「あなたの笑顔は太陽。あなたの瞳は宝石。あなたの心は宝。御身に我が全てを差し出しましょう。…どうか、我が夫になってはくれぬでしょうか…」
驚いた。アメジストが…あの仕事一択のアメジストが!
「告げる言葉を、言った?」
「これで満足でしょう。手を離して」
「あ、あぁ、ごめん」
手を離すと、イスから立ち上がり、トコトコと少し離れたところー丁度部屋の真ん中ーにで止まる。胸の前で手を組み、そして
「我が名、アメジスト。ここにアルディア・ルリ・カラロルの一生涯の妻となることを誓う」
静かに、そう言った。
って
「ま、待ってよ!それ、絶対破らない誓いじゃ」
「私、あなたのこと、好きだった」
「へ?」
「あなたも好きでいてくれて、嬉しい」
アメジストはそう言うと、ふわりと笑った。
「っ〜〜〜〜!!!もう!惚れ直した!」
「わっ」
アメジスト、僕の宝石。
僕の、宝。
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