第36話私とわたしは弱いから


・王妃ソフィア様の浮気。

・国王陛下の散財。

・散財による重税。

・不当な金額での宝石類の売買。

・秘密裏での人身売買。

・無罪者の実刑。



これ、公表すれば、国民の不平不満の声が上がると思うんだよね。


上手く促せば、クーデターを起こしてくれるかも。



「姫さまは何故、クーデターにこだわるのですか?」

「え?そっちのが楽だから」

「……聞いた私がバカでした」



私は人生を損得で考える人間じゃあ無い。


私は人生を楽不楽で考える人間なのだ。



「チッ…どうしてこんな方を主人にしたんでしょうか…」

「アメちゃんアメちゃん、聞こえてるで」

「チッ」



最後の舌打ちもばっちし聞こえてんで。



「それよりも、後2年…いえ、後1年ちょっとですよ?本格的に、どうするんですか?」



アメジストの言っていることは尤もだ。



「わかってる。私に考えがあるの」

「考え?」

「えぇ。ルーカスルートの悪役令嬢…リティア・ファ・リースレット。リティアお姉様は、騎士のアルテス・ミリュートに恋をしてるの」

「…だから?」



うん。そうだよね。色恋沙汰に興味が無い、それよりも仕事一択なアメちゃんはそう言うと思ったよ。



「乙女ゲーム、七色の祈りの最終イベントはね」

「はい」

「建国記念日に行われるパーティーの時、お城の庭園のバラのアーチの下で、攻略キャラにプロポーズされる、って言うやつなの」

「…それが?」



アメジストこの子、頭の回転は速いけど、色恋沙汰に関しては本当に鈍いのね。



「だーかーらー、リティアお姉様と、アルテスをくっつけるのよ。…まぁ、マリー姉様は誰ともくっつく気は無さそうだけど」

「そうなんですか…あ、そろそろですね。テスト」



時計を見ながらそう呟くアメジスト。

今日は特別に学校は休み。何故なら



「色の勇者を決めるテストねぇ…」



勇者認定試験なるものがあるらしいからだ。


テストと言っても、勉学のテストでは無く、魔法のテストだ。


水晶玉に、魔力を流し込む。

通常ならば、魔力は透明無色。属性魔法を使った時だけ、その属性の色に染まるからだ。


まぁ、それは置いといて。



色の勇者。

物語の本筋のストーリーに出てくる、言の葉の巫女と行動を共にする七人の勇者たち。



王太子のアリュート。

平民出身のサンディー。

生徒会長のルーカス。

博識本の虫のパラメド。

チャラ男のリジーラ。

ザ・王子様のルキ。

元貴族のアルディア。


上記の7名が色の勇者となる。勇者は男児のみと決められており、リースレット国内にいる男子は(入れ替えで)ホールに集められている。



「今頃発表されてるかなぁ…」



アルは元々魔法の才能があったし、兄様だってそうだ。


私がどれだけ精霊に愛されていようとも、魔力が少ないので、どうにもできない。



家系の植物魔法が強く出ようと、氷属性がどれだけ適正しようと、魔力が無い私は



「(無価値だ…)」



そう感じてしまう私はいけないのだろうか。


無意識にグッと手を握ってしまう。



ギュッ


「???」



待て…私は今何をされてる?



答え。アメジストに抱きしめられている。



「大丈夫です。姫さまは無価値ではございません。少なくとも、私やアルにとっては価値のあるお方でございます。」

「アメジスト…」



普段敬う気の無いアメジストが、敬語(日頃から使ってる)&敬う姿勢だと!?



「今、失礼なこと考えたでしょう」

「ねぇ、今更だけどさ、7年の付き合いだけどさ」

「はい」

「なんで考えてることがわかるの?」



私の質問に、アメジストはうーん、と少しの間悩むと



「仕草です」

「仕草?」

「目の動きだったり、落ち着き方、座り方、手の置き方、全てが情報源です。昔、そう言う訓練をさせられまして」



そう言い終わるか終わらないかのうちに、少し目を伏せるアメジスト。


そういやぁ、最近思い出してきてるけど、アメジストと初めてあった時、私よりも暗い子だったな。



「………人って変わるもんなのね」

「は?」

「何でもないよー」

「ふーん」



私が笑顔になったからなのか、今度は、まぁいいかと言うように、聞き流すアメジスト。



「さ、それよりも話を戻しますよ」

「えー」

「国壊し決行は来年の建国記念日、リストの月、第15日。夜のパーティーで、ですね」

「うん」



淡々と話を進めていくアメジスト。



「今のところ、私が陛下たちに今持っている情報を喋る、ということですね」

「うん」

「何か他に御提案はありますか?」

「あ、うん。ある」



私が…“わたし”が物心つき、自分の状況を知って8年。

この時まで、温めてきたこと。



「何ですか?」

「あのね」




「王宮に火をつけようと思うんだ」




「………………姫さま?」

「あ、もちろん他の人たちが逃げられるように、一番上の天の塔に火をつけるから、時間はたっぷりできると思うよ」

「姫さま?」

「もし逃げ遅れた人がいたなら、アルとアメは転移魔法が使えるから助けられるし」

「姫さま!」



嬉々として話していたら、アメジストに肩を掴まれた。



「どうされたのですか!」

「どうもしてないよ。ただ、7歳の時から温めてきたことを話してるだけだよ?」

「7歳っ…」



あれ、もしかして、引かれてる?



「っはぁ…」

「…」

「良いですよ」

「え?」



今、なんて?



「良いですよ。…国、壊して、王宮、燃やしましょう」



その言葉は




震えていた。




いつものアメジストじゃない。



「……うん。そうする」



私は慰めることも、叱ることも、一緒に泣くこともできない。


王女という立場が邪魔をしていると言ってしまえば、それまでだけど。でも違う。


私は、それを建前にして逃げているだけだ。


慰めてしまえば、アメジストを弱くしてしまうかもしれないし。

叱ってしまえば、アメジストを責めているようになってしまう。



一緒に泣けば、私が弱くなってしまう。



だからごめんね、アメジスト。



私と、わたしは、あなたを、アメジストを、助けてあげられない。





私は弱いから、国壊しを他人任せにする。

私は弱いから、後ろにいるだけにする。


私は弱いから

私が弱いから


わたしが弱いから。




私とわたしは、もうあなたたちの側にはいられない。

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