第34話影から動き出そうか
今のところ、私たちが握っている決定的弱みは、王妃の浮気くらい。
国王の散財や重税は、言い訳すれば何とでもなりそうだ。
ん?浮気の件も、言い訳すればなんとかなるのか?
というか、これ弱味になるのか?
ダメだ。私の頭、弱いから爆発しそう。
「姫さま。ミルクティーです」
「あ、ありがとう。アル」
「今、アメジストが情報を探っている最中ですので、しばらくお待ちくださいね」
要は下手に動くなってことですよね。
「わかってるわ」
「本当ですか?」
「ねぇ、アメジストもそうなんだけどさ、私一応あなたの主人なんだけど。信頼してよ」
「無理です」
即答かい。
「なんで敬意を払ってくれないかね〜」
「そんな威厳があるように見えないからですよ。姫さまは」
威厳…たしかに無いね。
って、軽く主人のこと貶しとるやないかーい
「ま、今は待ちましょう」
「そうね」
シュタッ
「はぁ、はぁ、はぁ…ただいま戻りました。姫さま」
「う、うん。無事帰ってきてくれたのは嬉しいんだけどね、アメジスト。窓から入って来られると反応に困るというか……っていうかここ、5階…だよね?どうやって登ってきたの?」
聞きたいことがたくさんありすぎる。
状況は
アメジストがリュックを背負ったまま、窓から飛び込んできた。
普通に考えて怖く無い?
土で薄汚れたメイド服(侍女の制服)を着た女の子が窓から飛び込んでくるんだよ?
叫ばなかった私を誰か褒めて。
「そ、それで?どうしたの?」
「姫さま」
「は、はい」
「情報を手に入れてまいりました」
「いや、それが目的だよね?偉い。偉いんだけどさ、その、如何にもなドヤ顔やめて?」
アメジストは一旦、リースレット王国に帰っていた。名目上は「姫さまの好きな紅茶の茶葉を取りに行く」。
しかし、実際は、兄様が情報収集を命じたのだ。
おかしいよね〜。
私の侍女なのに、兄様が命令しちゃってるよ
私の侍女なのにね〜。ね〜?
と、笑顔でそう言い続けた結果。
兄様から、一週間勉強を教えてもらえる券を貰ってきました。5枚も。やったね。
「コホン。失礼いたしました」
「いいんだよ。いいんだけどさ、その今にも舌打ちしそうな顔はやめて?」
「…これでよろしいですか?」
「OK」
完璧な作り笑顔を浮かべたアメジストに、これ以上言うと身の危険を感じた私は、とりあえずOKをだした。
「それで、持って帰ってきた情報は?」
「全部で三つ。一つ、国王が不当な金額で我が国の宝石類などを売買していたこと。二つ、秘密裏での人身売買。三つ、これまた秘密裏で無罪の者の実刑、です」
「ちょっと待って、ウチの国王邪悪すぎない?これなら魔王の方がマシなのでは?」
マジでそう思えてきた。
作中で魔王がしでかしたことといえば、自身についていた“穢れ”を世界中にばら撒いてしまったことだ。
いや、これも結構大変だけどさ、人様に迷惑かけちゃうけどさ、うん。
ウチの国王の方が邪悪すぎません?
「それは私も思いました」
「あぁ、良かったわ」
私一人だけこんな考えとか、寂しい。
仲間がいてくれて良かったわー
「話は戻りますが、この三つの件に関与しているのは全て、ラストリア帝国です」
「え、ラストリアが?」
「はい。どうやら、二国でアリス帝国を潰そうとしているらしいのです。これから四年以内に」
嘘でしょ。あの穏和な王子がいるラストリアが、国潰しをしようとしてるの?
それも、リースレットと手を組んで。
アリュート王子はどうなる?
親の勝手で、好きでも無い相手と結婚させられたりするのか?それとも、最悪…
「………」
彼は第一王子で王太子なので、有りはしないと思うが、それでも嫌な方を考えてしまうのが、人間、というか私だ。
「姫さま?」
「なんでも無いわ。アメジスト。良かったわね、1年後には国壊しができるの。その戦争が起こる可能性は少し低くなるわ」
「たしかに、そうですね」
アルが頷く。
「なんとしても国壊しを成功させましょう。ね、二人とも」
「「はい」」
何故、二国はアリス帝国を狙うのか。その理由は、“橋”にあると思う。
アリス帝国には、隣の大陸へと続く“橋”がある。
橋の向こうには、様々な国がある。
貿易が盛んなカトレア公国。
エルフが国を治めている、エルリィー神国。
薬草の栽培が盛んなファーネル王国。
姉様の母君の出身国、サラサリス共和国。
そして、魔王が君臨する魔国。
上記の五つの国が隣の大陸、クローズ大陸にある国だ。
ちなみに、アリス帝国、ラストリア帝国、リースレット王国の三国があるこの大陸は、キーズ大陸と言う。
「とりあえず、今までより強固な“理由”はできたかな」
これを国民に晒せば、クーデターくらい起きるんじゃないか。
いや、起きてくれなきゃ困る。
「そうじゃなきゃ、“お城に火をつけられない”じゃない」
誰もいない、月明かりだけが照らす自室で、私は本をパタンッと閉じながら、微笑む。
「わたしのことは誰も愛してくれなかった。兄様すら、話を聞いてくれなかった。だからわたしは決めた。私に託した」
この国を、壊すことを。
あの城を燃やすことを。
いいよ。やってやろうじゃないの。
さぁ、影から動き出そうか。
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