第32話王族3人貴族2人平民1人


夕刻


「………」



日が沈むのを眺めながら、考えごとをする。



あの、のほほんとしたマリー姉様が、実は国崩壊エンドが好きだったことについて。


あと、国壊しをした後について。



「うーん、どうしよっかな」



ヒュゥゥッと風が吹き、私の髪を撫でる。


少しくすぐったいが、気持ちいい。



夏始めの、少し切ない香りがする。



「まぁ、季節の匂いはどれも切ないけどね」



自分の言葉に、自分でつっこむ。



コンコンッ


「はい」

「ルキ王太子殿下方が来ました」

「どうぞ」


ガチャッ


「来てくださりありがとうございます。兄様、マリー姉様。久しぶりね、ユーキ」

「はい!」

「話とは何かな?ハレイ」



普段集まって会話することがないため、兄様は不思議そうに聞いてくる。



「まぁまぁ、中に入ってください。アル、防音結界」

「了解」



話の内容を聞かれるとマズイため、防音結界を張ってもらう。



「そんなに重要な話なのかい?」

「えぇ。ユーキには話したことがなかった話だと思います」

「………もしや」

「えぇ、国壊しの件よ」

「えっ、国壊し!?」



私の言葉に、驚きの声を上げるユーキ。

ていうか、あんた本当に久しぶりね。また背伸びたんじゃない?


ま、それは置いといて。



「それ、本気なんですか!?」

「本気よ」

「んなっ……バレたら即刻死刑ですよ!?」

「そんなのわかってる。ならバレないようにするまで」



ユーキ…“国壊し自体には否定しない”のね。


あくまでも、ユーキが言っているのは“バレたら”のこと。



「ユーキ、あとで話しましょう」

「…わかりました」

「ありがとう。…アメジスト」

「ここに」



ねぇねぇ、アメジスト。ハレイちゃん、一つ聞いて良いかな?



「いつからそこいた?」

「今さっきでございます」



………まぁいいや。そんなことを思いつつ、アメジストから紙を2、3枚受け取る。さて、王族の汚点探しはどんな感じかな、と。


・王妃の浮気

・国王の散財


王族を動揺させるのはこの一つでいい、と。


・重税


うーん、たしかにこの国、物価が高かったような…あれ、それって重税に関係ないっけ?



「(まぁ、それは後で)」



国民にクーデターを起こさせるには、なんかまだ足りない気がするな。



「アメジスト、ありがとう」



紙をアメジストに渡す。



「じゃ、話の続きだね。」

「…」



「私たち、国壊しをしようと思ってるの」



「それ、本当?」



マリー姉様が、いつもと変わらぬ顔と声調でそう聞いてくる。



「本当だよ。決行は4年後の建国記念日」

「そっか……」



反対、するかな…どうだろう。



「それ、最っ高ッ!」

《…へ?》



うん、予想してた。そんな感じの返答が返ってくるかもって、思ってた。


それにしても、アメジストでもこの答えは予想できなかったみたいだね。兄様たちと同じように、驚いてる。



「何、私も協力させてもらえるの!?」

「もちろんです。マリー姉様が良ければ」

「全然良いよ!可愛い妹のためですもの!」



ギュッと抱きついてくるマリー姉様。


そしてそれをガン見してくる兄様。



この2人、明らかにシスコンですね。

ほれみろ、アメジストとアルが引いてるよ。


ユーキは気づいてないみたいだけど。



「とにかく、姉様も加担するわけですね」

「えぇ!」

「………」



否定していたことで、居たたまれなくなってきたのか、ユーキがプルプルと震えている。



「……あーもう!わかりましたよ!俺も入りますッ!」

「ユーキ、ありがと」



最後は私の視線に負けたのか、大声でそう言う。

別の目的とは言え、防音結界張っといて正解かも。




さて、これで協力者が増えた。


私を含め王族3人。

アルとユーキ貴族2人。

アメジスト平民1人。



こっからどうなってくかな〜











王城


「アサミ殿。客人ですぞ」

「通してください」


ギィィッ


「久しぶりじゃな。アサミ」

「ら、ラフル師匠!?」






私はアサミ。平民上がりの王宮魔導師だ。

そんな私は今、魔法の師匠である、ラフル師匠とお茶をしてる。何故だ。



「師匠、どのようなご用件で来たのですか?」



おずおずと私は聞く。



「そうじゃなぁ…アサミ」

「はい」

「お主の大好きな者が、もし、この国を“とある理由”から壊そうとしていたら、どうするかな?」

「へ?」



私の大好きな人が、“とある理由”から、このリースレット王国を“壊す”?


そんなことがありえるのだろうか。

そもそも、私の大好きな人というのが限られている。


弟弟子であるカテツ。

師匠であるラフル師匠。

教え子であるハレイシア姫。



ラフル師匠はまず無し。

カテツは放浪者だから国に関心無いし。

ハレイシア姫がそんなことするわけない。



「なんでそんなこと聞くんですか?」

「老人の気まぐれじゃよ、ホホ」

「はぁ…」








私はこの時、“疑う”なんてこと、言葉では知ってるけど、頭ではわかってなかった。


疑っていればよかったと思う自分もいるし。

疑わなくてよかったと思う自分もいる。




何が正しいかなんてわからない。

それが人生。


国が終わるその日。私は燃え行く城を見つめながら、ラフル師匠が言ったその言葉を思い出した。



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