第28話ピクニック気分


「〜〜〜♪」



いつもの題名がわからない歌を口ずさみながら、中庭へと向かう。


昼食の話をした後、授業の内容が頭に入ってこなかったくらい楽しみにしていたのだ。


授業?もちろん先生に注意されましたとも。



でもそんなことどうでもいい。兄様と初めての食事だ。



「ふふっ。楽しみだわ」









指定された場所は、中庭のアメルの木の下。


アメルの木が花をつけるのは、アメルの月だけ。今は青と紫の葉をつけている。



「見た目は普通の木だね。葉っぱ以外は」



一人そんなことをぼやく。


そういえば、アメルの木の下…何かあったような………。



「ハレイ、来てたんだ」

「ぴゃあ!?に、兄様!?」



びっくりしすぎて、変な声が出てしまった。



「ごめんね。驚かせてしまったね」

「い、いえ。大丈夫です」



申し訳なさそうに笑う兄様。



「あれ?王太子殿下と王女様だけですか?」

「君は…」

「サンディー様、でしたね」



忘れれはずねぇ、この黄色髪は。



「やだなぁ、“様”なんて。サンディーで良いですよ」

「では、私もハレイ、と」

「え?良いんですか?」

「はい」



丁度気軽に話せる友達欲しかったし…。



「じゃ、ハレイちゃん!」

「はい、なんですか?」

「敬語やめて?」



そう来るよね。うん。



「わかりました…いいえ、わかったわ」

「そ。それでいいの」



ね?、と笑うサンディー。


あぁ、少年らしくてなんか癒されるわぁ



「サンディー、ありがとう」

「王太子殿下?」

「妹は、こう見えても友達は少ないんでね」



その通り。



「仲良くしてくれるとありがたい」

「……わっかりましたー!」

「る、ルキ様っ」



マリア様の声がして、びっくりする。


マリア様、いつからそこにいたの。



「何かな、マリア」

「し、敷物を、お持ちしましたわ」

「うん。ありがとう」

「………」



マリア様は、何にそんな怯えているのだろう


気になる。



「お待たせしました」

「アリュート王太子殿下」

「アリュート殿、速すぎです」



爽やかな笑みを浮かべるアリュートに、肩で息をしているルーカス。


この二人、仲良いよね。



「はぁ、はぁ、はぁ…疲れた……」



ルーカスよりもひどく、体全体で息をしているパラメド。


半引きこもりの私が言うのもなんだけど、少しは運動したらどうだい?パラメド君



「ふ、ふふっ、汗が滴るいい男」



いや、気持ち悪りぃわ



「あとはアメジストたちだけだね」

「そうですね」



アメジストたちは調理場で、お弁当を貰ったから来ると言っていた。



どんなお弁当だろう。食べれる物、あるといいな…(←偏食王女)。


アメジストとアルのことだから…!きっと、私の食べれる物を用意してくれているハズ。



ハズ、だよね??



「………(あぁぁぁ、不安になってきた)」



ハムのサンドウィッチとか、ミズリ(水菜のようなもの)のサラダとか、パスタとか…。



ある、のかな?



「お待たせいたしました」



そんなことを考えていたら、少し小走りでアメジストとアルがやって来た。


アメジストが大きなバスケットを持ち、アルが小さなバスケットを持っている。


普通逆じゃない?



「アル。その小さなバスケットは?」

「姫さま用ですよ」

「本当!?」

「はい。ハムのサンドウィッチと、ミズリのサラダと、野菜パスタです」



私の従者、マジ有能っ………。



「それじゃあ、食べようか」

《あぁ(はい)!》











木漏れ日を浴びながら食べる昼食は、ピクニック気分。


あぁ、美味しい。ミズリのサラダ美味しい。



「くっ………」

「?」



誰の声…サファイアお姉様?



「あれ…」

「ん?………サファイアじゃないか。どうしたんだろうね」



サファイアお姉様は、通路の柱から悔しげに私たちの方を見ている。


マンガの悪役令嬢のように、ハンカチを噛みながら。



〈はぁ、いい気味…〉



んっ、んっ、んん?


マリア様〜?今なんて?



「お姉様?」

「なーに?ハレイシアちゃん」



私が話しかけると、いつもの笑顔。


さっきの悪役令嬢のような微笑みは、何だったのでしょうかね〜



パサッ


「綺麗…」



やっぱアメルの木の葉は綺麗だな。


そうだ。これを栞にして、アメジストとアルにあげよう。二人とも本を読むから丁度良い



ん?アメルの木の葉の栞?



「ぶっ」

「は、ハレイ?」

「だ、大丈夫です。はい」



これ、この昼食、イベントだよ!


スチルじゃあ、ハレイシアはサファイアお姉様の後ろにいたよ!



何で私はいつもイベントに出くわすかなぁ?


しかも今回のは自分で蒔いた種だし。



「(うわぁ、うわぁ、うわぁ!!)」



頭の中が一気にパニックになる。


私の頭の容量って少ないんだな、と感じる。



「姫さま?」

「何でもないよ。アメジスト」



まぁ、でも、いいや。




今はこのピクニック気分を楽しもう(諦め)













乙女ゲーム七色の祈り。第3章全攻略キャラ共通イベント。


『木漏れ日の昼食』。


平民上がりと陰でいじめられる中、マリアは廊下で偶然、攻略キャラと会う。


丁度昼時だったこともあり、昼食を共にしようということになる。



アメルの木の下、木漏れ日の中。


マリアは僅かな安息を噛み締めていた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る