王立アカデミー編

第21話時が過ぎ去ってしまった


「………」


ガタッゴトッ


「姫さま。その笑顔貼り付けてるの、やめてください」

「仕方ないじゃない、アメジスト。こうしなければ、あなたの主人の精神は崩壊するわ」

「はぁ」



初めましての方は初めまして。


リースレット王国第七王女の、ハレイシア・レイ・リースレットと申します。


結論から申しますと、私の精神が崩壊しそうです。


何でわかるかって?脳内でこんなこと喋ってる時点でヤバいでしょ、察して。



ていうか、誰に向かって初めましてなんて言ってんのよ。


怖っ、私ってば怖っ。



「殿下〜、もうそろそろ着きますよ〜」

「ありがとう、ユーキ。アメジスト、アル、そろそろ着くってさ」

「「聞こえてました」」



あぁ、そうですかそうですか。聞こえてましたか。

えぇ、わかってますとも。わかった上で声をかけたんだもの。



「あぁ、時が過ぎ去ってしまった…」



現在、カトル歴168年。シューラの月。


日本で言う、4月です。



今にも精神崩壊しそうな私は、馬車に揺られてトットコトットコ。王立アカデミーへ向かっています。



私が記憶を取り戻してから、2年近くの月日が経ちました。


城下町に行ったあの日以降、あのクロイモノを見ることは無く、結構平和に過ごしていました。



そうそう、王立アカデミーに向けて出発する前だから、一週間くらい前になるけれど、アサミ先生から〈杖〉を貰った。



丸い輪っかの中に、雫の形をしたクリスタルのようなものがぶら下がっていて、持ち手の部分は、パールのような装飾が付いている。一番下には青い石がはめられていて、とても綺麗だった。


そんな杖も、トランクの中。



「本も読み飽きた。外も見飽きた。すること無し。」

「魔法は?」

「それも見飽きた」

「はい」



はいってなんだよ、はいって。



「あ、殿下ー」

「何、ユーキ」

「王立アカデミー、見えてきましたよ」

「え!ホント!?」



ここ、リースレット王国は広大な土地が広がっている。

王立アカデミーはそんな広大な土地に建っていて、とても広い敷地がある。


校舎も大きく、生徒たちの成績も優秀。他国からの留学生も絶えない。


美点はあるが、難点が一つある。




遠い。




それだけだけど、結構大きな問題。


転移魔法を使えば一瞬だけど、許可取るのがめんどくさいし、最初の一回は、必ず馬車で行って申請をしなければならない。


道のりが辛いんだよね。往復二週間だもの。



「窓から見てみてもいい?」

「良いですよ」


バンッ


「良いって言いましたけど、もっと丁寧に開けてください!」

「ごめんなさい!」



黄色っぽい石造りでできた塀。

大きな時計塔。

自然豊かな森。


あれが、王立アカデミー。


ゲームの、舞台。



「………アメジスト、アル、ユーキ」

「なんでしょうか、姫さま」

「何ですか?」

「ん?」



「一緒に、頑張りましょうね」



「…はい!」

「もちろん」

「わかってますよー!」



あぁ、私は頼もしい仲間を見つけたものだ。











大講堂


「楽しみですわね」

「えぇ、本当」


「リア様!会えて嬉しゅうございますわ!」

「エミリ様!わたくしもでございますわ!」


「リンダ伯爵殿、お久しぶりです」

「これはこれは、リーシャ公爵殿」



「………」



「ねぇ、あの銀髪って」

「王族の方かしら」

「さぁ?」



おいそこの女子集団。さぁ?って酷くない?



ハレイシア、入学式が行われる大講堂にて、ただいま絶賛のボッチ中。



私、何で避けられてんだろ…ははっ。



「初めまして。わたくし、フィーラ公爵家長女、ララ・フォン・フィーラと申しますわ。あなた様は?」



あぁ!声をかけてくれた!



「あ、わたくしは、リースレット王国第七王女、ハレイシア・レイ・リースレットと申します。よろしくお願いしますわね、ララ様」

「王女!?こ、これは失礼いたしました」

「良いのですよ。これからは同級生なのだし、そんなにかしこまらないでください」



ね?と微笑みかける。



「……はい!」



ふぅ、なんとかお友達第一号(候補)ゲット









「皆さま、席にお着きください」


ガタガタッ



上級生が舞台の上から声をかける。



「……生徒会長のお言葉です」



上級生がそう言うと、舞台の袖から生徒会長らしき人が出てきた。


赤髪の男の人。言わずもがな、攻略キャラの一人。



「(ルーカス・テラ・サリシャ)」



サリシャ公爵家の嫡男。真面目で冷淡な性格をしているが、その実、かなりの甘やかし。



「(こいつはこいつで厄介なんだよなぁ)」



ルーカスルートは、選択肢をミスれば、ルーカスがヤンデレになり、襲ってくる。


あのスチルは恐ろしかった。夢に見るほど。



「君たちにはここでの学園生活を、楽しく過ごしてほしい。以上だ」



あ、いつのまにか終わってた。生徒会長の言葉。


生徒会長ってことは、18歳?あれ、でも、ネクタイの色は、三年生の緑だったよね?


まぁ、いいや。そこらへんは後で調べよ。



「次に、学園長の言葉」

「……皆さん、初めまして。王立アカデミー学園長のラズリテマ・スノースです。」



学園長はラズリテマ・スノースか。ゲームには出てこなかったキャラだな。

純粋に、ここに存在している人間だろう。


金の髪に、翠の瞳。美人さんだ。


それにしても、スノースか…聞いたことないな。



「皆さんには、心地良くこの学園を過ごして欲しいです。よろしくお願いします」



おっと、こちらも終わってしまった。


話聞くのと覚えるの、苦手なんだよね。



「起立。気をつけ。」

「これにて、第46回、王立アカデミー入学式を終わります」

「礼。着席」



学園長と生徒会長のお言葉だけかい。日本のより楽だな。



「各自、リストバンドはつけていますか?」



うん、付けてる。一年生の青色と、雫マークが付いたリストバンド。



「雫マークが付いている方は私に。星マークが付いているものは書紀の…」



とにかく私は、あの綺麗な黒髪の上級生さんに着いて行けば良いんだな。よし、覚えた。



「では、雫マークの方、私に着いてきてください」



さて、このマークに何の意味があるのだろうか。気になる。



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