第20話少し昔のお話。


少し前、本当に少し前の話。



あるところに、鈴の大国と呼ばれる、大きな国がありました。


そこには、七人の王女と、一人の王子がおりました。


今回の話は、一番下の王女の話。



一番下の王女は、レイという名前でした。



レイ王女は、上の王女たちほど美人で無ければ、魔力量もそこまで多くない。


王様からすれば、必要の無い、いらない子でした。


父も無視。母も無視。兄すらまでも、レイ王女をいないもの扱いしました。


話し相手は、たった一人の侍女のみ。


レイ王女は頑張りました。


勉学、魔法、礼儀作法、ダンス。王族として必要なもの。

難しい計算式も、解読が進んでいない古代語も、解いて、解いて解いて、褒められるように頑張りました。


魔法がダメなら、勉学を。マナーがダメなら、ダンスを。



褒められるように。愛してもらえるように。たくさんたくさん、頑張りました



でも、結果は



ズルをしている。


気持ち悪い。


近寄らないで。



悪口を言われるだけでした。


レイ王女は疲れてしまいました。


でも、せめて、愛想だけは良いように笑っていようと考えました。


勉学も魔法も、今まで通りやれば良い。


でも、笑顔だけは、完璧に。




「で?」

「で、って、まぁ、それだけよ」

「それ、誰の話ですか?」

「……ハレイシア・レイ・リースレット」



私が名前を言うと、ユーキは少し考え



「殿下の話っすか!?」

「せーかい。意識はしてないけど、その時の名残?で、薄っぺらい笑顔になってんでしょうね」

「へぇ………」



なんだよ。



「じゃ、そんな薄っぺらい笑顔を、ホンモノの笑顔にしましょうよ」

「え?」



どう言う意味?



「俺が仕える主人がそんな笑顔じゃ嫌です。だから、ホンモノの笑顔になりましょう」

「……どうやって?」

「わかりません」



わからないんかい



「でも、頑張ってみましょう!」

「………そう、だね。うん、頑張ろう」

「それでこそ殿下ぁ!」

「あははっ」



ユーキといると、なんだか、懐かしい感じがするなぁ…。


前世の記憶つっても、ゲームの記憶しかないけど。でも、懐かしい。



『ーー!行こっ!』



あ、これだ。この記憶だ。たしか、名前は



ユウキくん。



似てんなぁ。名前だけだけど。



「ま、いいや」

「何が?」

「何でもない」

「ふーん」



いつか、記憶、全部思い出せるのかな。



「(ううん。思い出さなくて良いわ。悲しくなっちゃうもの)」



帰りたくなっちゃうものね。前世のことは、心の中。奥底に。




ユーキに話したこと、実は日記に書いてあったこととか、口が裂けても言えない。







「ただいまー」

「お帰りなさい、ってぇ!?」

「ん?どうしたの?アル」

「ぬ、濡れ、濡れて」



何に慌てふためいているのだろうか。



「濡れ?……あぁ、雨に降られちゃってね。流石雨季。」

「流石じゃありませんよ!アメジストー!!アメジストー!!!!」

「何、アル、う!?」



アメジスト、う!?って、う!?って。ウケるわ。



「ま、まさか、それで歩いてきたのですか!?」

「?うん」

「誰かに会いましたか!?」

「だーれも」

「「ほっ」」



何で安心してんだ?



「王女が濡れた姿など、してはいけません」

「だって、雨に降られたんだもん」

「他の侍女に言って」

「アメジスト以外ヤダ」



他の侍女には避けられてるし。



「ヤダって……はぁ、もういいです。湯汲みをしますよ」

「へーい」

「その返事やめてください」

「はい」




浴室


「はぁ〜、広い。あったまる〜」

「何で私まで…」



ブクブクブクっ、と鼻まで浸かり、息を吐くアメジスト。


私もそれやる。



ブクブクブク


ブクブクブク


ブクブクブクブクブクブク



「「ぷはぁ!」」



はぁ、はぁ、はぁ、疲れた



「癒されるはずのお風呂で疲れるって、どう言うことなんでしょうね」

「んー。これからまた、疲れを取ればいいよ」

「そう言うもんなんですかね」



そういうもんさ〜



「ん〜、そろそろあがろ〜。お腹空いた」

「軽食をご用意しますね」

「お願い」


ザバァ



アメジストが先に湯船から出る。


記憶を取り戻してから、半年と少し。


マリア様が城に来たのが、リストの月。

今は、アメルの月。


あー、今考えるのは止そう。



「ふぅ、私もあがるかな」










ボフッ


「はぁ」



今頃、マリア様は、どれくらいのイベントをクリアしたかな。


学園編は全部6章。1章が一年分だ。つまり6年分のシナリオがある。



今は第1章の前半。ここの大きなイベントと言えば



「全校生徒参加、学園祭と言う名の舞踏会、かな」



リースの月。日本で言う、7月に行われる舞踏会。


全校生徒で親睦を深めよう、というのが目的だ。



「マリア様がドレスを汚されるのよね」



平民上がり、と影でいじめられ、ジュースをかけられ、ドレスを汚されてしまう。そこを助けるのが攻略キャラだ。



「今のところ、兄様からの手紙では逆ハーレムルートかな」



そう。七色の祈りには全攻略キャラクターを虜にできる、逆ハーレムルートが存在する。


やり方は非常に難しいが、できなくはない。



「逆ハー目指してんのかなぁ」



学園行くの嫌だなぁ、はぁ。


ただでさえ、想定外のことがいろいろ起きてんのに、修羅場の地に自ら行くとか、自殺行為でしょうよ。



「アサミ先生と出会って、城下町に行った。ラフル老師と杖の型を作って、クロイモノに追いかけられ、カテツの坊と出会った」



それ以前に、隠しキャラであるアルディアが私の執事になっちゃってるしなぁ。



「想定外が、想定外を生む」



学園に入学するのは、再来年。後、一年と九ヶ月。





豆知識?


リースレット王国は鈴の大国。


アリス帝国は植物の大国。


ラストリア帝国は水の大国。


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