第19話お見舞い


救護室


「へっ、どうだ、殿下」

「素晴らしい試合でした。まさか、魔剣を持っていたとは。それに、魔剣を使いこなしていましたしね」

「だろう?ってぇ!」

「おいユーキ。王女殿下に向かってその言い方はなんだ」



ユーキの傷を手当てしていた、先輩騎士と思わしき人が、消毒液を傷口に練り込む。


それは痛い。



「別にいいだろ!」

「良くねぇから言ってんだ!すみません、殿下。コイツ、敬語とか不慣れで」

「良いんですよ。徐々に覚えていくものですから」



ここは寛大な心で受け止めよう。なんたって私は王女だからねー。



「殿下もこう言ってるんだし、いーだろ?」

「………はぁ」



先輩騎士が深くため息を吐く。



「敬語、勉強しろよ」

「りょーかいっ!」

「…(軽いなぁ)」



笑顔を貼り付けたまま、そんなことを考える私だった。










【兄様へ。


お元気ですか?胃に穴は開いてないですか?

それが心配でお手紙書きました。


他にも話したいことあるんですけどね。


実は、私に近衛兵が付くことになりました。

アルとアメジストで十分だと思っていたけど、模擬戦をしたら、アメジストが負けました。


あのアメジストが負けたのです。


もしかしたら城の中では弱いのかもしれませんが、私からしたらとても強かったので驚きました。


さて、近衛兵の話ですね。


近衛兵の名前はユーキ・リテモ。リテモ男爵家の三男坊だそうです。

アサミ先生と同い年で、茶髪に緑目のノリが軽い青年です。


敬語は身についてないらしいので、これから身につけさせていこうと思います。


私で良ければまた、相談してください。

兄様の胃に、穴が開かないことを祈っています。


第七王女、ハレイシアより】



「………よし、書けた」



後はこれを封筒に入れて、封をして、アルに渡すだけだ。



「んー!アメジスト、大丈夫かなぁ」



今日、結構な距離吹っ飛ばされてたけど。



「大丈夫ですよ」

「ぎゃあ!?」



だからその、後ろから突然声かけてくんの、やめてくれない!?


もはやテンプレと化してるんだけど!?



「あ、アメジスト。体は平気なの?」

「万全です。」

「そ、そう。なら良いわ」



いやでも、ホント、びっくりした〜



「王太子殿下に、お手紙ですか?」

「えぇ、そうよ。明日、アルに渡すの」

「私でも良いですよ?」

「え?」



城の奥の方にあるこの部屋から、城門近くにある魔法配達屋まで、歩けるまで回復してるのか?


…いや、回復していても、ここはアルに任せよう。少しくらい、アメジストには休んでもらわねば。



「平気よ。アルにも経験が必要でしょうし、明日はアルに頼むわ。アメジストはゆっくり休んで。ね?」

「は、はい…わかりました」



さて、寝るか。明日はユーキあいつのお見舞いでも行ってやろう。











翌日。


「お見舞いに、クッキーで平気よね…?」



調理場で、シェフから貰ってきた、高そうなクッキー。


ユーキ、食べてくれるかしら。



「いや、アイツ、なんでも食いそうだな」



ま、シェフの味は私が保証できてるし、一応は平気よね。




騎士団宿舎門前


「すみませーん」

「はーい、って、王女様!?」



なんでわかっ…王家の紋章のペンダントか。


これ、目立つんだよなぁ。



「お、王女様が、何故このような場所に」

「ユーキのお見舞いに来たの」

「お一人で?」

「えぇ」



お一人でって、私これでも11歳だぞ。


あ、でも、まだまだ子供か。



「ユーキ、と申しますと…首席のリテモ男爵三男ですね」

「はい」

「お通しします」











コンコンッ


「失礼します」

「どーぞー」


ガチャッ


「あれ?殿下?」

「お体の方は、大丈夫ですか?」

「ダイジョーブ、ダイジョーブ。念のためのお休みもらってるだけー」



体が早く動きたいと物語っているな。



「あ、これ、お見舞いです」

「お見舞い?」



はい、とクッキーが入った、小さなカゴを渡す。



「うお!何これ、美味そー!」

「美味しいですよ。とても」

「いっただっきまーす!」



凄い勢いで無くなっていくクッキー。


甘いものが好きなのかな。

いや、美味しいものが好きなんだろう。



彼の…ユーキの周りには、なんだかんだ言って、いつも人がいる。

それはきっと、彼の人柄が良いからだろう。


幸せな時も、悲しい時も、全ての感情を全体で表してくれる。

嫌う人もいるかもしれないけど、好きになる人の方が多いんだ。



羨ましい羨ましい。


人に囲まれている彼が。


幸せそうな彼が。


見捨てられても、手を差し伸べる人がいる彼が、羨ましい。



「殿下ー?」

「え?あ、何でしょうか」

「あのさ、その敬語やめてくんない?」

「敬語?」



敬語っつーか、丁寧語?、と聞いてくる。



「とにかく、あの侍女と話す時みたいに、砕けて」

「は、はぁ」

「かしこまって話されると、こう、ムズムズするっていうか、なんというか」



あ、わかったぞ、照れ臭いんだろ。多分。



「……じゃあ、わかったわ。これで良い?」

「!……そうそう!そんな感じ!」

「ふふっ」



砕けて話せる相手がいるのは、私も助かる。



「なぁなぁ」

「なーに?」

「前から思ってたんだけどさ」

「えぇ」




「どうしてアンタ、そんな薄っぺらい笑顔してんだ?」




「……………え?」

「だってそうだろ?本心から笑ってない、あれ、えーっと……そう!エイギョウスマイルってやつ」



たしかに、営業スマイルの時だってある。


今もそうなの?


無意識にそうなってるの?



「あー………自分じゃ気づいてなかった?」

「え、えぇ、恥ずかしいけど、うん」

「殿下、いつもエイギョウスマイルだぜ?」

「そんなに?」



自分じゃ、上手く笑えてると思ってたんだけどなぁ



「何でそんな笑顔なんだ?」

「うー、んー………そうですねぇ」

「………」



「少し昔の話をしようか」



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