第16話アルディアとアサミの行方


「さて、自己紹介したところで、いいかの?」

「はい」

「いいぜ」

「では」



ラフル老師が、ブツブツと何かを呟くと



パチンッ



と、空中に火花が出た。


火花は長く伸びていくと、一つの建造物を模った。その外観は



「ニシック杖屋…」



そう、ニシック杖屋に瓜二つだった。



「これが探知魔法の基礎の基礎。探知魔法はまず最初に、大きな地図を頭の中で展開する。それを形にしていくんじゃ」



ラフル老師がそう言ってる間にも、どんどん“地図”は展開されていく。



「………ふむ、これで王都全体かな」

「王都…これが王都なのか」

「次に必要なのが、相手の魔力がこもっているもの。」

「魔力が?」



例えばなんなんだ?



「そうじゃ。例えばな…相手が日常的に使っているハンカチ、とかの」

「そんなんでいいんですか?」



アサミ先生とアルのハンカチなら、持ってるけど。



「えっと…はい、これでいいですか?」



パンパンになっているカバンから取り出したのは、二枚のハンカチ。



「アルとアサミ先生のハンカチです」

「おぉ、これで大丈夫じゃ。でも、どうして王女さんがこれを?」

「先程、買い食いしてたら、飲み物をこぼしてしまいまして、それで…」



あはは、と照れ隠しに笑う。恥ずかしいじゃないか。調子乗ってたらこぼしたなんて。



「ホッホッホッ、そうかそうか。何はともあれ、これは助かったよ。ありがとう」

「!…良かったです」

「なぁ、師匠」



私との会話が終わると、カテツさんがラフル老師に話しかける。



「何じゃ、カテツ」

「さっきの黒いアレ、何なの?俺の黒斬りでも殺せなかったんだけど」

「………」



カテツさんの質問に、何故か押し黙ってしまうラフル老師。


少しすると、話を再開する。



「彼奴らは、クロカゲ」

「「クロカゲ?」」



あの黒いやつの名前かな?



「彼奴らに、死の概念は無い」

「死の概念?」

「そうじゃ。生きとし生けるもの、全てには生という概念と共に、死という概念がある。それは当たり前じゃな?」

「はい」



生き物は皆、生きているからこそ死があり、死があるからこそ生きている。


命には太陽のように、永遠に近く輝いていられる力は無い。


蝋燭のようなものなのだと、兄様は言った。



「だが、彼奴らには死は無い。だから生きてもいない。彼奴らには感情も何も無い。本当に、“無”という存在なのかもしれんな」

「要するに?」



…カテツさんは、長ったらしい説明は苦手な人だな。



「彼奴らは不死。大体の人間は形も見えん。音は聞こえるようじゃがの。ごく稀に、姿形が見える人間もいるが、襲われることはないはずだ」

「じゃあ何で俺たちは追われた?」

「カテツ坊じゃなく、王女さんに興味を示したのだろう。」



いや、なんで私?最近忘れがちだけど、私は背景のモブキャラ以下のモブだよ?


そんな存在が、何で不思議な力持ってたり、不思議な体質?なのよ。おかしい。



「っと、見つけたぞ。」

「どこですか!?」

「王都の北区。王都で最も治安の悪いとされる、スラム街がある場所だ」

「ここ、南区から一番遠いじゃねぇか」



何でそこに、とカテツさんが言う。



「誰かが運んだんじゃろうて。それくらい想像せんか!」


バシッ


「いってぇ!」

「ら、ラフル老師…」

「こんの、クッソジジイが!」

「何じゃと!?」



その後十分間、言い争いに巻き込まれた。






「は、恥ずかしいところを見せたのう」

「謝罪はいいので、早くアルたちを見つけてください」

「は、はい」



これまでしたことのないほどの冷たい目で、ラフル老師とカテツさんを見る私。


多分、私は今。この二人のことを、それこそゴミを見るような目で見ているのだろう。



「その、北区とやらへ行きましょうよ」

「「………」」

「?どうしたんですか」

「お姫さん。悪いがお前は連れて行かない」



どうして…あぁ、治安がどうのこうのって言ってたな。

そんなところに、王女なんて連れて行かないか。



「わかりました。私はアメジストのそばにいます。」

「「!」」

「二人で行ってきてください。そして、必ずアルと先生を連れて戻ってきて」



私のその言葉に、二人は



「あぁ、わかった。必ずだな」

「王女さんの頼みとあらば」



と、言ってくれた。


カテツさんは私の頭を撫でながら。


いや、何で撫でるのよ。まぁ、良いけど。



「じゃ、行ってくるな」



最後にポンと軽く頭を叩いて、扉に向かうカテツさん。



「では、王女さん。店から絶対に出ないでくださいね?」

「わかっています」



またあの黒いのに追いかけられるのは、ごめんだ。



「では」


キィィィッ ガタンッ


「………アルとアサミ先生が連れていかれたのは、リースレット王国王都北区。廃教会。これが正しいとすれば…」




これは、ゲームのイベントだ。















七色の祈り、全キャラルート共通イベント。


『誘拐』。


ある日、お忍びで攻略キャラと城下町に来ていたマリアは帰り道、何者かに攫われてしまう。

捜索隊が王都全域を探すが見つからず、夜中になり、攻略キャラが助けに出る、と言うものだ。


ちなみに犯人はとある男爵家の嫡男。お披露目パーティーでマリアに一目惚れしたと言う設定だ。


まぁ、今回の犯人はわからないけども。


でもぶっちゃけ、犯人はどうでもいい。二人が無事でいてくれればそれで良いし。


それに



「最大の疑問は、何で標的が、マリア様でも無く、私でも無く、アルと先生なのか、ね」



たしか、マリア様がお忍びで城下町に来るのは明日。


犯人の内通者が城にいて、その内通者が伝えることを間違えた?



「アルと先生に何の共通点がある?」



うーん、思い出せ、私。たしか、先生が最初に言ってたじゃないか


『魔法で有名なカラロル家』


先生は魔法使いで一番の地位、王宮魔導師。



「犯人は、魔法使い目当て?」



たしかに、アルは魔力の扱いがとても上手。

アサミ先生は誰もが認める魔法使いだ。



「犯人は、魔法を使って、何かしようとしてるの?」



そんなことを考えていたら



「姫さま」

「ぴゃぁぁ!?」



後ろから声をかけられた。


前にもこういうことあった気がするのは、気のせいだろうか。

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