第15話クロイモノと黒い人


グレイリー裏通り。


「はぁ、はぁ、はぁ…」

「着きましたね」

「入ろう」

「はい」


パチンッ リィィンッ


「「え?」」



私が扉を開けようとしたところ。何かに弾かれた。



ギィィッ


「お嬢さん方?どうした?」

「ラフル老師!」



戸惑っていると、中からラフル老師が焦ったように出て来た。



「それが…中に入れないんです」

「中に…それは」




「其奴が原因じゃないかのう?」




ラフル老師が指差した先、私たちの後ろ。



後ろにいたのは



「ア……アァ」



脚の長い、黒い、シルクハットをかぶった、影のようなモノ。


口と思われる白い部分からは、赤いナニカがダラダラと出ている。



「何……これ」

「逃げろ!お嬢さん方!」



ラフル老師がそう叫んだ直後



バシュンッ!


「きゃっ!?」



アメジストが、吹き飛ばされた。



ドサッ


「アメジストッ!」

「逃げろ!王女さん!」

「えっ」

「いいから逃げろ!ガードッ!」



パリンッ



ラフル老師が張ったガードも、容易く壊される。



「くっ……逃げろ!」

「は、はい!」



アルたちがいなくなったのも気になる。


アメジストも助けてあげたい。



でも



「(今は逃げなきゃ…!)」









「はっ…はっ…はっ…」


ドッ ドッ ドッ ドッ



後ろの方から、重い重い足音が響く。



「え、何この音?」

「さぁ?」

「変な音ー!」



どうやら、周りにはアレの姿が見えていないらしい。

でも、音は聞こえているようだ。



「(コレを王城に連れ込むのは危険だ…でもどうすれば……)」



というか何で私を追ってくるんだよぉぉ!!



「(怖い怖い怖い怖い!泣きたい!めっちゃ泣きたいよーー!!!)」



誰か助けてー!!!



「黒斬り。斬」


ザシュッ


「……ふぇ?」



私の願い、天まで届いた系ですか?



「大丈夫ですかー?オジョーサン」

「へ?あ、あなたは」



声が聞こえた方に目を向けると、そこには全身真っ黒な人が立っていた。


剣…というより刀を持った、男の人が。


黒い髪に黒い瞳、黒いコートに黒い刀。



「黒っ」

「ん?」

「あ、いえ、何でもありません」



慌てて立ち上がり、汚れた部分をはたく。



「助けていただき、ありがとうございました。」

「イイッテイイッテ」

「……」



棒読み感が…。



「ま、それよりも早く逃げたほうがいいよ」

「え?何でですか?」

「ソイツ、まだ君のこと諦めてないから」


ブクッ ブクブクッ


「は…?」

「やっぱ倒されてはくれないかぁ」



見ると、黒い液体になっていたソレが、また形を取り戻しつつある。



「嘘でしょ……」

「ラフル師匠って知ってる?」

「え?あ、はい」



何でこの人がラフル老師のことを…。



「そのジジイのところに向かって」

「じ、ジジイ…」



あの人、ジジイって言われてばっかだな



「ほら、早く」


ブクッ


「っ、はい!」

「カテツ坊ー!」

「「!?」」



突然聞こえた声に、驚く私と黒い人。


声のしたほう、民家の屋根の上。そこにいたのは



「ラフル老師…!?」



私が一番最初に思ったこと。



「ご老体なのに、そんなとこ登って大丈夫なんですか!?」

「ぶっ」

「なっ!?」



私の言葉に、黒い人は吹き出し、ラフル老師は驚きの声をあげる。



「こ、こう見えてもワシは(ピー)歳じゃ!そこまで年寄りじゃないのだ!」



気のせいかな、ピー音が聞こえたような気がした。



「ア…アァァァァァッ!」

「チッ、怒りやがったか」

「カテツ坊、ここじゃ人目に触る。奥じゃ!奥に行け!」

「わーってるよ!」



ラフル老師の言葉に、舌打ちをしながら頷く黒い人。多分、カテツさん。



「オジョーサンはこっちだ」

「え、うわっ!?」



腕を引っ張られ、驚く。


が、そんな暇もなく走り出す。



「おいジジイ!どうすりゃいい!」

「ワシに聞くな!」

「わかんねーのかよ!クッソ!」



カテツさんはそう言いながらも、楽しそうに笑う。



「おい、オジョーサン、スピード上げるぞ!」

「は、はいっ」









???


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

「いやぁ、お疲れさん、オジョーサン」

「なんで、そんなに余裕そうなんですか」



というか、ここはどこよー…。



「ここはアリストリー裏通り。グレイリー裏通りの隣だ」

「あ、意外と近かった」

「ホッホッホッ、相変わらず、逃げ足の速い小僧じゃて」

「ラフル老師!」



良かった、生きてたんだ!



「王女さん、今、失礼なこと考えたじゃろ」



ジト、と睨んでくるラフル老師。


ぐっ、バレたか。



「あ…アメジストは!?」

「ホホ、大丈夫じゃぞ。店の中に寝かせてある。置き手紙も書いてあるから大丈夫じゃ」

「ありがとうございます。ラフル老師」



……あ…アルディア!アサミ先生!



「あ、あの!アルディアとアサミ先生が!」

「そういえば、二人の姿が見えんな」

「知らない間に、いなくなってて」



そうだ。二人も探さなくては。



「探知魔法でもやってみるかな」

「「は?」」



カテツさんも同じ意見?らしい。



「た、探知魔法って、人やものを探せる、あの探知魔法ですか?」

「それ以外に何がある。さ、店に戻るぞ」

「「えぇ……」」











ニシック杖屋


「アメジスト…良かった」

「オジョーサンはそいつが大切なの?」

「はい。とても大切な人です」

「家族よりも?」



家族…。


母様、兄様、陛下、姉様たち。



「…家族と同等、ですかね」

「それは無し。どっちが大事?」

「大切な家族もいますし、大切じゃない家族もいます」

「大家族?」



あ、あれ?この人、私が王女だってことに、気づいてない?


ラフル師匠が、王女さん、王女さん、って言ってるのに。



「ホホッ、気づいとらんがな」

「師匠?どゆこと?」

「ほれ、自分で挨拶をしい」



あ、めんどくさがったな。老師。


まぁいいや。名前言っちゃお。



「…お初にお目にかかります。リースレット王国、第七王女、ハレイシア・レイ・リースレットと申します。よろしくお願い申し上げますわ」



っし、決まった。



「ハレイシア・レイ・リースレット…?」

「はい」

「リースレット……王女?」

「はい」



王女、王女、王女、王女と、何回か口の中で繰り返すと



「へぇ、お姫さん、ねぇ」



ニヤリと笑う、カテツさん。



「俺はカテツ。カテツの坊。アサミと同じくラフル師匠に弟子入りしてる。よろしくな、お姫さん」

「はい。よろしくお願いします。カテツさん」



私たちは、笑顔で握手を交わした。

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