第14話城下町へ!(後)
グレイリー裏通り・ニシック杖屋室内。
「いやぁ、本当、すまんかったな」
「いえ」
出されたお茶を飲みながら(アメジストが無理矢理味見(と言う名の毒味)をした後)、私はラフル老師と会話をしていた。
このお爺さん、結構面白い。
「まさか、アサミの教え子の、王女さんとは思わんかったんじゃ」
「それは一発でバレたら逆に困ります」
バレないための変装だからね。
「アサミ、王女さんの腕前はどうだ?」
「この間、宝石のタネがついた花を咲かせました」
「なんと!」
宝石のタネは、魔法使いの間では有名なのかな?
「しかも、姫はそれを日頃のお礼だと言って、私にくれたのです!」
「「「はぁ!?」」」
ちょ、待っ、なんでラフル老師だけじゃなくて、アメジストやアルまで一緒になってんの!?
何故!?
「ひ、姫さま、それは本当ですか?」
「え、えぇ、本当よ。私、宝石のタネの使い道すらわからないし、だったら使える人の元にあった方が、良いじゃない?」
「「……はぁ」」
おい、従者二人組、どうしてそこでため息をつく。
「そ、それで、ラフル師匠」
「何じゃ?」
「宝石のタネを、この子の杖に使いたいのです。」
私の方を抱き寄せ、ラフル老師に真剣にお願いをする、アサミ先生。
「宝石のタネを、とな。王女さんは植物魔法が得意なのかね?」
「あ、はい。アリスティアの血を継いでいます」
「なんと、あのアリスティアの…」
「となると、王女さんはあのティアドール様の…」と呟くラフル老師。
「は、母を知っているのですか?」
「あぁ、ワシはこう見えても、元王宮魔導師なのさ」
「「「!?」」」
王宮魔導師。魔法使いの中で最も地位が高い魔法使いのことだ。
今はアサミ先生がその座に就いている。
「まぁ、王女さんが産まれる、ずーっと前の話じゃがな」
といって、ホッホッホッ、と笑う。
「さて、杖の話じゃったな」
「は、はい」
「良いだろう。ティアドール様と同じく、植物魔法が得意と来た。宝石のタネは丁度良いじゃろう」
「!、ありがとうございます!」
これで、私の杖ができる…!
「少し型を取るか。王女さん、おいで」
「はい」
「あ、従者のお嬢さんたちはアサミと待っていなさい」
「「………」」
そんな不満そうな顔をするなよ、二人とも。
「行ってくるね」
「はい…」
作業部屋。
「わぁ……」
「物珍しいかね」
「はい」
部屋には鉄でできた“型”がたくさん壁にかけられていた。
部屋の中央には、竃のようなものがある。
「ほれ、この棒を利き手で持ってみなさい」
「…重っ」
見た目軽そうなのに、持ってみると意外と重かった。
「………うむ。もう良いよ」
「ふぅ」
「これで、持ち手の部分の型が取れたぞ」
私から棒を貰い受けると、ラフル老師はそれをすぐに熱する。
「………よし、これで持ち手の型は完成じゃ」
「おぉ…」
見た目、私が握ったところが窪んでいるだけだ。
これが原型になるのだろうか?
「後は、お楽しみじゃ。な?」
「はい!」
どんな杖ができるのだろうか。楽しみ!
「姫さま、どうでしたか?」
「面白かった」
素直にそう思う。
「そうでしたか。それは良かったです」
アメジストに続き、アルが微笑みながらそう言う。
「えぇ」
「そうだ、アサミ」
「何ですか?師匠」
ラフル老師が先生に声をかける。
「せっかくなのだし、城下町を回ってから城に帰ったらどうだ?」
「「え」」
「回って帰る…」
何故にアメジストたちは固まった?
「何、王女さんには優秀な護衛が付いているようだし。大丈夫だろう」
ラフル老師、知ってます?
そういうのを、多分
フラグって言うんですよ。
「あ、アメジスト!見て、綺麗な髪飾り!」
「あまり下手に動かないでください!」
「良いんじゃないの?」
「良く無い」
私を少しは自由にしても良いんじゃないかと言うアルと、お淑やかにしてほしいアメジスト。
残念だったな。アメジスト。私は元からお淑やかなど、柄じゃないのだ。
「まぁまぁ、アメジストさん」
「アサミ様は甘すぎです」
「うっ」
アメジストがアサミ先生を叱っているうちに、飾り屋さんのショーウィンドウを見る。
目に入ったのは、青い水晶の花の髪飾り。
「………」
何だろう。吸い込まれるような気がする。
「……………」
「…ま!ひめさま!姫さま!」
「え、あ、うわっ」
肩を叩かれ、後ろを振り返る。
アメジストがいた。
「もう、どうされたんですか?」
「い、いや、綺麗だなー…って」
「ふーん?」
いや、何ですか。その反応の仕方。
私がそう思っていると、アメジストはポケットから時計を取り出す。
「…」
少し見た後、カチャンと蓋を閉め(蓋つきの時計だった。懐中時計?)、ポケットにしまう。
「もうそろそろお昼なので、帰りましょう」
「はーい」
名残惜しいが、帰らなくては。ここで問題を起こしたら、次が無くなってしまうもの。
「……あれ?アルは?」
「え?」
辺りを見回してみると、アルとアサミ先生がいない。
「嘘…」
アメジストがありえない、と言うようにそう呟く。
だが、私を心配させまいと思ったのか、すぐにいつもの表情に戻る。
「レイ様、ラフル老師のところへ行きましょう。何か助けてもらえるかもしれません」
「えぇ」
私とアメジストは走り出す。
後ろを、つけられているとも知らずに。
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