第11話ウォーターボール!からの破裂


「では、いつでも良いですよ」

「はい!」



魔力を手のひらに集中させて……



「ウォーターボールッ!」



シュゥゥゥッと何もないところで、小さい水の球体が生まれる。


それは徐々に大きくなり、私の頭一つ分になった。



「………ふむ、上出来です。合格ですね」

「本当ですか?やったー!」



私が笑顔になったその瞬間



バシャンッ!



ウォーターボールが、破裂した。


当たり前だが、部屋は水で濡れてしまった。



「「………………」」


コンコンッ


「失礼いたします!大丈夫です、か…」

「「………」」



アメジストが焦った様子で部屋に入ってくるが、なんとなく状況は読めたのか、呆れた顔になる。



「一応聞きます。何やってたんですか?」

「「魔法の試験……」」

「何で爆発したんですか?」

「た、多分、ハレイシア姫のテンションが一気に上がったから、魔力が乱れたんだと思う、思います」



あ、先生、咄嗟に言い直したな。


怒った時のアメジストは怖いですもんね。



「アサミ様」

「は、はい」

「火属性の魔法もお得意でしょう?この部屋を乾かしてください。さ、姫さまはお召し替えをしますよ」

「はーい」



生きる教訓。その1。


怒った時のアメジストには逆らわないこと。









「姫さま」

「なーに?」

「王太子殿下から、お手紙が来ておりますよ」

「兄様から?」



今年に入ってから初めての手紙だな。



「何が書いてあるのかしら」

「ゆっくりとお読みください。私はアサミ様の方を見て参りますので」

「わかったわ」



先生はどうやら、アメジストを本気で怒らせてしまったようだ。


あぁ、アサミ先生、あなたは良い人でした…



まぁ、それはさておき。


引き出しからペーパーナイフを取り出し、封筒を開ける。



「ハレイシアへ………」



【元気にしていたかい?手紙を送るのはアカデミーに戻ってからは、初めてだね。

生徒会の仕事があるこの生活にも、だいぶ慣れてきたよ。


さて、さっそくだけど、僕の愚痴を聞いてくれるかな?妹にこんなこと話すのも、少し引けるけど……実は】



「マリア姫とアリュート王子が、デート!?」



【他にも、四大貴族の子息と仲良くなったり。その四人と買い物に行ったり………ハレイシア、助けて。僕の胃に穴が開きそうだ。


兄、ルキ・メルディア・リースレットより】



に、兄様…。



「………返事、書くか」









「コホンッ、それでは気を取り直して」


(さっきと同じ部屋)


「次は、植物魔法を見せてもらいましょう」

「はい」

「このタネを成長させ、花を咲かせてください、いいね?」

「わかりました」



それならできる…できる…できる、はず。



「(えぇい私ならできる!)咲いちゃえ!」


ボンッ


「え?」

「…おぉ」



そこに咲いていたのは、キラキラしたタネをつけているひまわり。


もしかして、さっき私が部屋で咲かせたやつと、同じタネだったりするのかな?



「綺麗ですね、先生!…先生?」

「宝石のタネ……」

「はい?」



今なんて?



「宝石のタネだわ!ハレイシア姫!出来したわ!」

「は、はぁ、そうですか、良かったです」



宝石のタネってアレだよね、本に載ってた、割とレアなものだって。


魔法で咲かせるのは難しくて、自然のものの方が入手確率が高いっていう。



「こんなにたくさん…はぁ」

「先生、良かったら差し上げますよ?」

「えぇ!?!?」

「日頃のお礼です」



私が持ってても価値ないし、使い方わからないし、無駄にしちゃうからね。



「ほ、本当に良いのですか!?」

「じゃ、じゃあ、この5粒だけもらいます」

「そ、それ以外本当に!?」

「はい」



私がそう言うと、先生は「ほわぁ…」と呟きながら、宝石のタネがついている花に頬擦りをした。


そこまでのものなのか。あげて正解だな。



「本当に、良いんですよね!」

「はい。先生に差し上げます」



私が再度、そう言うと、先生は子供のように「うきゃー!」と叫びながら、花に抱きついた。



「そ、そうだわ。ハレイシア姫」

「何ですか?」

「今度、城下町に行きましょう」



城下町?



「何故ですか?」

「姫の杖の寸法を測りに行くのです」

「杖!?」

「はい」



もう測っちゃって良いのですか!?



「姫には最高のものを作って差し上げたいのです。そうだ!せっかくだし、この宝石のタネも使いましょう!」

「宝石のタネも?」



どんな風に使うんだ?



「姫は植物魔法が得意ですからね、相性が良くなると思いますよ」

「そうなのですか」



うーん、そういうものなのか。



「そうと決まれば、アメジストに言わなきゃ」

「陛下には言わないのですか?」

「ん?んー…大丈夫じゃない?」

「そ、そうですか…」



いつも何したって何も言われないし。陛下が愛してるのは母様と兄様くらいだし。あ、後マリア様。


私は末の第七王女。上にはもっと美人な姉様たちがいるから、私は保険のようなもの。



「(あぁ、私って…何のために生まれてきたんだろう。何のために記憶を取り戻したんだろう)」



最近、そう考えることが増えた。


私が、前世の記憶を思い出したのには、何の意味があるのだろうか。


本当に愛して欲しい人に、愛してもらえないハレイシアは、何のために生まれてきたのだろうか。



「(わからないことだらけだ)」

「姫?ハレイシア姫?」

「あ、はい、何でしょうか。アサミ先生」



いけないいけない。先生を無視してしまうところだった。



「大丈夫ですか?気分が優れないのですか?」

「大丈夫ですよ、アサミ先生」

「なら、良いのですが…」



アサミ先生は、はっきり言って過保護だ。


それは、私が王女だからなのだろうか。

大切な、教え子だからなのだろうか。


わからない。けど



「では、城下町に行くこと。アメジストさんに言いに行きましょう」

「はい!」



とりあえず、今はこのままの関係でいいや。


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