第6話いや、出てたわ。



日は暮れ、大広間の灯りがつき始めた。


城門の前には、たくさんの馬車が並んでいる。



「こんなパーティーの、どこが楽しいんだか」

「大人の方々は楽しいのですよ。きっと」

「ふーん…」



楽しいのか……。



「さ、出来ましたよ。鏡で確認してください」



アメジストに言われて、姿見の前に立ってみる。



「おぉ……」



姿見に映っていたのは、青色のドレスに、サファイアの装飾が施された髪飾りをつけた、私だった(あたりまえ)。


そういえば、サファイアお姉様って「サファイア」って名前なのに、全然青じゃないよなぁ。黒髪赤目だし。



「とても綺麗ですよ、姫さま」

「あはは、ありがとう、アメジスト」



私はそんな可愛くもないのに、アメジストは毎回毎回「可愛い」、「綺麗」と言ってくれる。


とても嬉しい。



「さ、パーティー会場に行きましょう」

「ふへぇ、行きたくないよ〜」

「行くんです。ほら」

「ふへぇぇぇ!」



私が叫ぶと「王女がそんなアホな声出さないでください」とアメジストに怒られてしまった。


つか、アホな声って。



そんなことを考えてる間に、大広間の入り口に着いてしまった。



「あぁ、入らなければならないのね」



この時から、すぐに王女さまスイッチを入れる。これで誰と会っても大丈夫だ。



「…………あっ」

「どうされたのですか?」



ドレスの柄を見て思い出した。


出てた。出てたわ。スチルに。



ドレスの、端のほうだけ、スチルの隅っこに出てた。


何回も見返して、悔し泣きしてたから覚えてる。



「出てたやん…」

「姫さま、素が出てますよ。何かあったんですか?」

「アメジスト、出てた、出てたのよ」

「何に?」



出てたんだよ〜



「スチル、絵の端っこに、ドレスだけが出てた」

「………そうですか。今はとりあえず入場しましょう」

「……そうね」



今は、パーティーの時間だ。



「第七王女、ハレイシア姫!」



名呼びの兵士が私の名を呼ぶ。


気を引き締めて、足元に気をつけながら



「………」



ふわっとお辞儀をして、自分の席に行く。



「………しっ」



ここまで順調に出来た。これで一安心だ。





「第一王女、マリア姫!」


ざわっ



マリア様の名が出ると、一気に周りが騒めく。



「第一王女が別にいるとは、本当なのか!」

「真の第一王女となると…ルナリス様の…」



ルナリス・ラナ・サラサリス。聞いたことはある、元王妃の名。



「(たしか、マリア様をお産みになった際に亡くなったのよね)」



古参の家臣なら、知っている人もいるか。



「お、お初にお目にかかります。第一王女のマリア・リズ・リースレットと申しますわ!よ、よろしくお願いいたします!」


パチパチパチッ



王宮に上がってから二週間ほど。それにしては上出来な挨拶だと思う。



「あれがルナリス殿下の……」

「なんとお美しい…天使のようだ……」



ゆるふわな金の髪に、大きな青色の瞳。全てのパーツがバランス良く、肌は色白。手足は細く庇護欲をそそる。


これを天使と言わず、何と言うか。



「(って!何を考えてるんだ、私は!)」



これが…これがヒロインの力なのか…!?



「(だから何を考えてるんだ私はっ!!)」

「姫、大丈夫ですか?」



状況説明。


考えすぎて手で頭を支えていたら、体調が悪いのかと勘違いされたのか、兵士に声をかけられました。



「大丈夫ですよ」

「左様ですか」



これで御退場になったら、あのスチルが見れないではないか!


それは困る。



「皆の者。よくぞこの場に集まってくれた」



そうこうしていると、陛下の挨拶が始まった。



「今日は、娘のマリアのお披露目パーティーだ。皆の者、存分に楽しむが良い!乾杯!」

《乾杯!》





「初めまして。マリア姫。私の名はアリュート・ソル・ラストリア。隣国から留学している者です」



青色の髪の毛の青年がマリアに挨拶をする。


あれは確か、隣国・ラストリア帝国の第三王子だ。



「マリア姫、私と一曲、踊っていただけませんか?」

「あ、わ、私…嬉しいのですけど、ダンスは苦手で」

「私がリードします、なので、ご安心を」



何が何でもマリアと踊りたいんだろうな…。


そんな思いが伝わってくる。



あ、攻略キャラが違うだけで、スチルはこのシーンだ!


私は、丁度



「隅っこにいた…」



……さて、何か食べに行こうか。








今回のお披露目パーティーは、ゲームでは一番最初のイベント。


プレイヤーが、ミニゲームを三回クリアすると発生するイベントだ。



「お、さっそく人だかりができてる」



あの人混みの中心は…ん?



「血の臭い?」



まさか、怪我人!?



「ちょっ、お退きなさい!そこを退きなさい!」

「王女殿下!?」

「痛い、痛いよぉ!!!」

「リク、大丈夫、助かるからね!」



親子だろうか。母親の方は息子の方を抱きしめながら「大丈夫、大丈夫」と大丈夫を連呼している。


息子の方は…足から出血している。酷いな…



「医者は?」

「今、呼びに行っています!」



ダメだ。それじゃ間に合わない。


とにかく、止血をしなくては。



「王女さま!汚れてしまいます!」

「いいの!どうする…どうする…」



すぐ近くに来たけど、考えてみれば、私にできることは無い。正しい止血の仕方もわからない役立たずだ。



「お願い…!治って……!」



無駄だとわかっていても、祈る。祈ってしまう。


こんなことをしても無意味なのに…。



「何だあれは!」

「聖なる癒し…!?」



え、え、何騒いでるの?


ちょっと覗いて、えぇ!?



「光っ、てる?」



目を開けたら何と!


私の両手が青色に光ってましたー。



「え、何で?」

「おい!見ろ!治ってるぞ!」

「え?治ってる?」



男の子の足に目を向けると、傷が塞がっていった。



「嘘ぉ…?」

「姫さま!」

「アメジスト〜、助けて〜!」



これは本当に、助けて。

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