第3話 屍姦するグールたち

 そんなわけでたった3人残った貴重なクラスメートであるオレたちは、ピアノ部屋に向かった。ピアノ部屋ってのは、おもちゃのピアノが置いてあるんで、オレたちがそう呼んでるだけだ。本当は死体安置所兼死体焼却場。


 毎日たくさん生徒が死んでいくもんだから、火葬場じゃ間に合わなくなった。死体を放置しておくと、クレーンゲームの商品みたいに積み上がってしまう。実際、積み上げてた自治体もあったそうだ。さぞかし壮観だったろう。リアル地獄絵図。

 そこで学校や公民館、市役所に焼き場ができた。でもって回り持ちで死体を回収して焼くことになったのだ。ある意味、自給自足のエコな仕組み。

 ここは高校なわけだが、高校生が死んだ同級生の死体を焼き場に運んで焼くって、シュールすぎる。しかも当番制、死体を焼く日直がいる。なんと言えばいいのかわからない。


 オレたちは死体安置所に急いだ。うどんが危ない。うどんってのは、死んだ女の子の名前。美人でスタイルもいい。この時代、美人の死人ってのは危険な目に遭う確率が高い。わけのわからない病気で死んで、死んだ後もひどい目に遭うってそりゃないだろ。せめて同じ生徒のオレたちが助けてやらなきゃ。


 ピアノ室は校舎に併設されたコンクリート打ちっ放しの建物だ。ここには扉がふたつある。ひとつは、学校とつながっている、オレたちが開けた扉。もうひとつは、外の道路に面している扉。週に1回メンテナンス業者がやってきて焼却設備を点検する。あいつらは、その扉からやってくる。

 教師の中に裏切り者がいるに違いない。だって、きれいな生徒が死ぬと決まってやってくるんだ。ぶさいくなヤツの時にはあらわれない。教師が情報を流しているに違いない。しかも堂々と扉を開けて来るってことは、裏切り者の教師から鍵までもらってるわけだ。


「あいつら、来てる」

 バングーが青い顔をしてピアノ室の中にいた。ハマちゃんに連絡してきたヤツ。隣のクラスの男子だけど、こういう時は助け合わなきゃ。なにしろ、バングーのクラスは2人しかいない。というか、今はもうバングーひとりになったわけだが、ひとりじゃうどんを守りきれない。

 うどんの遺体を納めた棺の向こうに、あいつらがいた。相手は5人。青白い顔に細い身体。上半身裸でこれみよがしに入れ墨を見せつけている。力はないが、無茶をするんであまりケンカしたくない相手だ。おそらくドラッグをやってて痛みを感じない。指の骨が折れて白い骨が飛び出してても、平気でそのまま殴ってくる。一番ひどいヤツは、自分の折れた腕をナイフ代わりに振り回した。

 グールという死体を食らう化け物がいるらしいが、こいつらはまさしくグールそのものだ。


 連中とオレたちは、うどんの棺を挟んで対峙した。特殊プラスチック製の透明な棺の中には、白い装束をまとったうどんが安らかな顔で眠っている。きれいだ。

「美人なんだってな」

 リーダーらしきヤツが、そう言って棺に手を伸ばした。

「やめろ」

 委員長は裏返った声で言うと、手に持った鉄パイプを振り回した。

「うわっ」

 隣にいたキャタピラとハマちゃんが間一髪、しゃがんで鉄パイプをよけた。ふたりの頭上を通過した鉄パイプは「ご」というひどく短い音をたててうどんに手を伸ばしたヤツの側頭部に命中した。

「あれ?」

 それだけ言うと、そいつは崩れるように倒れた。周りにいたそいつの仲間が、数歩あとずさる。委員長は、うどんの棺を飛び越えて、そいつらに襲いかかった。

「キエーイ」

 委員長は、甲高い叫び声を上げながら鉄パイプを思い切り振り回す。グールたちも、たじたじだ。オレたちだって黙って見ているしかない。だって近づくと、一緒に殴られちゃう。

 その時、グールのひとりが委員長の鉄パイプを素手で受け止めた。右手で握った。鈍い音をたてて鉄パイプの回転が止まった。でもすぐに手が開き、鉄パイプは離れそうになった。おそらく骨折して力が入らないんだろう。そいつはあわてて左手で鉄パイプをつかんだ。委員長の怪鳥音が止まり、はっとした表情でグールを見た。

「死ねよ」

 他のグールが、委員長を殴ろうとした。委員長は、鉄パイプを離すと素早い動作で、そいつに向き直り、左手をつきだした。次の瞬間、鈍い音がした。殴ろうとしたグールの顔が血まみれに変わる。

「キヒョー」

 再び怪鳥音。勝利の雄叫びだ。

 委員長は、立て続けに怪鳥音を発し、鉄パイプを持ち直してグールたちを威嚇した。残った3人のグールは、倒れた2人を引きずって後ずさりし始めた。

 やがてグールたちは、名残惜しそうにうどんの棺を見ながら、去っていった。あいつらは、最低の人間だ。死んだ女の子を屍姦するためにやって来る。人の趣味をどうこう言うつもりはないが、オレたちの学校で、そんなことさせるわけにはいかない。

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