第2話 先端技術開発第7センター
なんでこうなったのか……簡単な話だ。
一昨年の初夏の夕方、埼玉県にある先端技術開発第7センターってとこが爆発した。煙は全然でなくて、音もどかーんとか、ぐわーみたいな映画やアニメで慣れたアレじゃなかった。シュワーっていうコーラとか炭酸飲料の泡がたつような音。妙によく響く音で東京二十三区内ではほとんど聞こえたって話だ。閉めきった高層ビルの中でも聞こえたっていうんで、なんか特殊な音だったらしい。
それから真っ青な光が空いっぱいに広がった。光は、埼玉、東京、千葉、神奈川、栃木、茨城、群馬などで確認された。静岡や福島でも見えたという話もある。
しばらくすると、「見えない雨」が降り始めた。雨音はするんだけど、見えない。身体に触れると、すぐに蒸発して消える。そして当たったとこに青い斑点が残る。
1時間くらいして、テレビに臨時ニュースが流れた。
「ただちに健康に影響はありません」
「科学的に検証されておりません」
と何度か繰り返された。爆発した研究所の様子も映ったが、普通の建物が壊れただけのように見えた。
だからオレたち、というかほとんどの日本人は、たいしたことないじゃん、と思って、それ以上なにも考えなかった。だってそうだろ。日本政府が、大丈夫って言ってるんだから。
でも、アメリカをはじめとするほとんどの国は、自国民を全員日本から脱出させた。全く科学的根拠のないことだ、とテレビ番組で科学者は笑い。オレたちも、外人って頭悪いよな、と学校でネタにした。
でも頭が悪いのは、オレたちの方だった。
日本政府は、なにが起きたかを各国に連絡していた。なにも知らなかったのは、日本国民のオレたちだけだった。あとで、そのことがわかった時、政府は平然と言ってのけた。
「危険性については科学的に検証されているわけではありません」
じゃあ、なんで外人には知らせたんだ。なんで外人はそれを知って逃げたんだ。
「無用な混乱を避けるためです」
無用じゃないだろ。必要だろ。だってほっとけば死ぬんだから。
「パニックを避けるためです」
完全に子供扱いだ。いや、オレは子供だけど、大人の国民も子供と同じで怖がらせちゃいけないと思っているらしい。
混乱やパニックやいけないけど、破滅はいいのか、死ぬのはいいのか、と言いたい。
結局、全てが手遅れ。その後の三日間で全てが決まった。未だに解明されない謎の毒素に汚染された空気と水は、日本全土に広がり、その後1か月で自然消滅した。
オレたちは、政府と科学者の発表を真っ正直に信じて、普通に外を歩き、水道を使い、野菜や魚、肉を食った。そして、その3日間、日本にいた人間は100%の確率で死ぬことが確定した。
もっとも政府も全員死ぬとは思っていなかったんだろう。だって国民が全部死んだら、税金払うヤツもいなくなる。それに自分たちも死ぬんだし。ほんと救いようのないバカだ。
でもって、なにごともなく3か月が過ぎた。たまにあの事故の検証番組みたいなものが放映されたけど、誰もなんの関心も持たなかった。ごくごく一部の人だけが、なぜ未だに外人は戻ってこないのか不安に思って、さまざまな陰謀説を繰り広げていた。
3か月を過ぎると、各地で奇病がはやりだした。
『赤手病』。
右手か左手の掌に、あざやかな紅い文様が浮かび出るとめでたく発症だ。そして一週間以内に眠るように死ぬ。死の予兆はない。体調にも変化はない。ただ手に紅い模様があるだけだ。でも、気がつくと終わってる。痛みや苦しみがないのが不幸中の幸いだ。
最初、この病気は原因不明だと発表された。でも政府と科学者は最初から知っていた。この病気があの事故のせいだってことを。
でも認めたくないもんだから、ずっっっっっとウソをつきっぱなしだ。もう誰も信じちゃいないのに、いまだに病気と事故の因果関係を否定している。科学的に立証されていないんだそうだ。
当たり前だ。過去にそんな毒素は存在しなかったんだから、過去の科学的データがあるわけがない。実験データはあるかもしれないが、出すわけがない。
科学的な検証は、オレたちの死をもって行われる。因果関係が立証される頃には、日本人は絶滅している。それとも絶滅危惧種扱いで、どっかの病院に隔離されて観察されて、つがいで繁殖させられて、生まれてくる子供も病人で一生隔離されて生きるとか、そういうことをされるのか?
急速に広がっている謎の病気の実態を把握しようということで全国的な調査が行われた。それが事故の半年後。何度かの調査の結果、日本人は、ほぼ全員感染しているってことになった。つまり、オレたちは全員手が紅くなって死ぬってことだ。あの3日間、日本に居住していた全員に確定死亡フラグがたった。
幸か不幸か、この病気は、感染しないらしい。汚染されたものを飲み食いしたオレたちだけ死んで他の連中は平気ってわけだ。
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