7.outbreak

 帰ってゆく人々が、片付けられいく屋台やポスターが、夏祭りの終わりを実感させる商店街で二人、3の前にいた。透月さんを見送るためだったけど、絡めた指を離したくなくて、もっとそばにいたくて……。

 ふと、透月さんの指の力が弱くなって、手が離れた。

「透月さん?! 大丈夫?!!」

よく見ると、顔色が悪い。少し息も上がっている。


 急いで3に入って、そばにあったソファーに寝かせる。

「み、水用意するから、ちょっと待ってて!」

混乱する頭でここに来てしまったけど、売り場の一階に水があるわけない。

どうしたものかと、悩んでいると、時々差し入れを置いていく習慣を思い出し、店内を見渡す。すると、偶然にも水のペットボトルがあり、それを手に取る。

持ってきた人、画家さん、すみません!! でもこれは、人命救助なんです!!

後で、買い直しますからっ!!

 透月さんの元へ駆け寄り、何とか水を飲ませる。あと、俺にできることは……。

そういえば、和服って結構きつくしてるんだっけ……。

すみません透月さん……下心とか無い(何とか我慢する)んで!!

俺は、オオカミにはならないっ――!!

 うろ覚えながらも浴衣を少しだけ緩め、一仕事終える。

よくぞ耐えた、俺!!

髪もほどいて、もう一度水を飲ませてから、再び寝かせた。

処置の甲斐あってか、二十分も過ぎた頃には、顔色も呼吸も落ち着いて安心した。


「――こ、こは‥‥…?」

か細い声が聴こえ、目を開けると、透月さんが目を覚ましていた。

「良かった。急に倒れたけど、もう大丈夫そ――」

「……」

透月さんが自分の胸元を見て、顔を赤くする。続けて、俺も赤くなる。

「あああ違う違う!! 苦しそうだったから、ちょっと緩めただけで……。とにかく、やましいことは何もしてないから!! 断じ――んっ!!」


俺は、透月さんに抱きつかれて、キスされていた。


唇、柔らかぁ……。

――と、同時に、感じたのは鉄の味とわずかな痛み。

ゆっくり離れていく透月さんの唇からは、俺のと思われる、血。

「……透月さん?」

 にやっと笑ったと思うと、軽く額にデコピンを打ち込まれ――そこから、プツリと記憶が切れてしまった。



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