5.twilight
夏祭り当日、午後五時。待ち合わせ場所の3の前。もちろん、待ち合わせ時間を間違えたわけではない。落ち着かなくて、思わず来てしまったのだ。しかし、ずっと店の前で突っ立っているのもアレなので、店内で時間を潰すことにした。
3――商店街の一番端にある、画家(誰も見たことが無く、性別年齢不詳)の店兼家兼アトリエ。店はいつも開いており、出入り自由で絵を買うこともできる(そしていつの間にか絵が増えている)。なんとも謎に包まれているが、それを悪く言いう人はおらず、むしろ店内に差し入れの野菜や手紙を置いている人もいるらしい。町の景色や自然などの風景画しかないが、結構人気だ。
絵を眺めていると、店の窓がコツコツコツと鳴った。顔を上げると、あの夕焼けに反射した赤いピアスが見えた。店内の時計を見ると、六時をちょっと過ぎていて、急いで店内から出た。
「ご、ごめ――」
謝ろうとして、透月さんに釘付けになってしまった。
――白地に赤やピンクのアジサイが咲き誇るきれいな浴衣。小物は水色で統一されていて、シンプルながらも上品な着こなし。
「ど、どうですか? 髪型はうまくできなくて、いつもと同じになってしまいましたが……」
照れているのか夕焼けなのかわからないが、頬があの時以上にピンクに染まっている。
「……」
「何とか言ってください……」
「に、似合ってる……。すごく」
口を手で隠しながら、精一杯伝える。本当にそれしか出てこない。モニョモニョしていると、透月さんは、もう、と言いながらも笑ってくれた。予想外の浴衣姿に、自分も和服を着てくるんだった、とちょっぴり後悔しつつも、ワクワクとドキドキの夏祭りが始まった。
わたあめ、焼きそば、かき氷やベビーカステラ、射的にヨーヨー釣り。どれも懐かしくて、つい童心に帰る。明かりと活気と笑い声と熱気と美味しそうな匂いに溢れかえる商店街、お互い気になる屋台に寄っていく。普段見ない、子供のようにはしゃぐ透月さんの姿を、微笑ましく想いながら。
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