3.boon

 その日は、偶然透月さんと会社を出るタイミングが一緒で、傘を並べて駅まで歩く。二人で飲むようになって初めて知ったのだが、ラッキーなことに、家が同じ方向にあるのだ(少し離れており、透月さんは途中の駅で降りてしまうが)。


 席が空いていなかったので、二人で立ちながら、他愛たあいない話をする。電車に揺られていると、透月さんの肩に、ちょっぴり俺の左肩が当たってしまいて、あたふたする。しかし、透月さんはそれを見てクスリと笑うだけで、何も言わなかった。気をまぎらわしたくて、周りも見ていると、一つの広告が目に入った。

「見て、夏祭りだって」

透月さんに声をかけ、それを指さす。

「ちょうど、今日と明日ですね。あ、明日は花火も上がるそうですよ」

明日は土曜日で会社は休み、場所も俺達の家の近くの商店街だった。花火は海の方で上がるようだ。それなら全て徒歩で行くことができる。引っ越して四年が経つのに、初めて知った(きっと、仕事やら一人暮らしやらで大変だったから、気付かなかったんだと思う)。

 少し間を開け、透月さんを夏祭りに誘おうと勇気を振り絞り、声をかけようとしたその時。

「一緒に行きませんか、夏祭り」

透月さんから誘われた。

衝撃で固まってしまったが、数秒後言葉を理解し、二つ返事。

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