1.abrupt

 翌日。タイムカードを慣れた手つきでかざし、自分のデスクに向かう。

入社から早くも四年。仕事を一人でこなせるようになり、後輩にも指導したり、仕事終わりに飲みに行ったりもしている。一度決めたら諦めないど根性と、何とかなる精神で、何とかやってきた。


「失礼します。広報の透月とうつきです。こちらの書類の確認をお願いします」

俺の所属している企画部のドアを開き、一人の女性が顔を出した。一瞬目が合った。気がした。が、視線を戻し、仕事再開。透月さんは何事もなかったかのように部長の元へ進み、書類を差し出す。

 確認が終わり、退室する透月さんの姿にもう一度目をやった。ドアが閉まり、少ししてから、「ああ、いつ見てもきれいだなぁ、透月さん。あんな人が彼女だったらなぁ」と隣の同僚が呟いたのが聴こえ、内心ビクリとしつつ、相づちを打つ。


 透月雅斗とうつきまさとさん。男性のような名前だが、広報部に所属する入社二年目の新米女性社員。入社当時から、社内で癒し系と評され、トリコになっている男性社員は少なくない。俺もその一人である。けど、さっきの同僚みたいに、周りと透月さんの話はしないようにしている。

 理由は二つ。

一つ、既にフラれた男性社員がいるから。これは、相手が社内でイケメンの人気男性社員だったこともあり、当分話題になった。原因は不明だが、これにより透月さんは"癒しキャラ"となっていった。

二つ、それでも俺は彼女が好きだから。それも、周りとは違って、本気で。多分そのことが周りに知れたら"みんなみたいに眺めるくらいがいい”とか何とか言われるに決まっている。ゆえに、この恋心は胸に秘めているのだ。

 とは言ったものの、部署も違うし、年齢も少し離れていて、何よりあの透月さんと話せば、目立ってしまう……。

しかし!

俺はど根性と何とかなる精神の持ち主!

どうやって接点を作ろうか頭を抱えつつ、たまに見かける透月さんを、誰にもばれないようにチラリと見つめる日々を送っていた。



 そして、春――。それは突然やってきた。

「本日付けで企画部に異動となりました、透月雅斗です。ご迷惑をおかけするかもしれませんが、どうかご指導のほどよろしくお願い申し上げます」

挨拶と朝礼が終わり、仕事に取り掛かろうとイスを引いた時、透月さんが俺の隣に来た。

「本日からご指導よろしくお願いします」

「こちらこそよろしく。何でも聞い――」

「あ、君、透月さんの教育係だから。後はよろしくね」

部長が振り返り、俺に告げた。

「え」

「だ、そうです。改めてよろしくお願いします」

えええええええええええええええええええええええええ??!!!!


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