初心男ヰ

逢柳 都

~Prologue~

 寝ている俺の顔に、彼女のさらりと肌触りのいい毛が触れる。

俺はいつものように、背中まで優しく撫で、頭をポンポンとする。彼女は俺の胸に顔をうずめ、ぺろりと俺の輪郭や頬を舌でなぞり始めた。

あ、ヤバい。早く止めないと、俺の顔が大変なことになる。今日は日曜日。本当は、もう少し寝てたかったけど……仕方ない。重いまぶたをこすり、彼女に微笑む。

「……おはよう、マーサ」

ワン、と元気な返事が返ってきた。



 マーサ(彼女の名前で、ゴールデンレトリバーの女の子)と俺は、朝食を済ませ、散歩に出た。彼女はちぎれんばかりの勢いでしっぽを振りながら、元気に先へ先へと歩いていく。俺はあまりの冷気に身を震わせ、こっそり散歩ルートの短縮を試みた。が、マーサにすぐ気付かれた。

「マーサは本当に海が好きだな」

つぶらな瞳に負け、海へ走った。


 海風が頬を撫でる。相変わらずの寒さだが、俺もここが好きだ。砂浜でマーサを走らせている間、目を閉じ、深呼吸を繰り返す。

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