#002 ¶ 呪術医
目が覚めると、そこは見知らぬ天井が。
「……ああ、そうか。私は死んだのか」
「死んでないよ!」
ティティが叫ぶ。寝起きの耳に良く響く。悪い意味で。
「うるさい」
「サモラが変な事言うからでしょ」
「……ここは?」
「病院だよ。家だけだと手当てし
なるほど、と軽く頷き辺りを見回す。
「知り合いに君の事を話したら空いてる病室貸してくれるって言うから」
「お金は?」
「いらないって」
「太っ腹だねぇ」
そんな都合の良い話があるのかと感心しながら雑談していると、
誰かが病室に入ってきた。
「
「お蔭様で」
眼鏡を掛けたスレンダーな女性だった。
「私はドクター・エルヴィグ。ただの獣医師だよ」
「私はサモラ。よろしく」
獣医師とは言うけれども、外見はどう見ても魔女。
「ティティから話は聞いてるよ。
傷口を精査したけど感染症などの疑いは無かったから安心するといい」
エルヴィグから一枚の紙を渡された。
細かい文字で色々書かれているが、専門用語ばかりで読む気にならない。
「……そういえばティティ、一つ聞きたい事があるんだが」
「ん?なぁに?」
「ティティが私を見つけた時、流血する程の傷を負っていたんだよね。
私は確か空腹で倒れただけのはずなんだが……」
ティティの表情が少し曇る。何か良くない事が起きていたのだろうか。
「……ティティからは話し難いだろう。私が代わりに話しても?」
でしゃばる魔女。
「お願い」
「分かった……サモラ、君は空腹で倒れた後『ガブ』という怪物に
「ガブ?」
「正式名称は『ガルシェット・グリーブ』。体高80cmくらいの、ケモノのような四足歩行の怪物。我々は略して『ガブ』と呼んでいる」
なるほど、私は怪物に食われそうになっていたのか。いや、食べかけか。
「普段は温厚なんだが、この時期は
可哀相に。いや、こんな傷を負わされたのだから畜生と言うべきか。
「でも傷口は縫って残ってた牙も摘出してるから、縫合痕は残るだろうけど後遺症や感染症は全く心配いらないからね」
胸を張る魔女。殴りたい。
「しかし、何しにこんなところへ?」
聞かれたくない事を聞きやがった。案の定ティティは渋い顔をする。
「……目的地はここじゃないどこか。それだけ」
「ふぅん……まぁいいけど」
勘繰るような視線は止してくれ。
「じゃあ、ごゆっくり。私は仕事があるからね」
手を振りながら戸を閉めるエルヴィグ。
邪魔者が早々と退散してくれたので私は安堵の溜め息を
「……そんな事があったんだね。ありがとうティティ」
面と向かってお礼を言うのは小恥ずかしい。
耳まで紅潮して照れるティティ。かわいい。
「こっ、これ、薬。傷口の痛み止めと栄養剤。飲んでおいてっ」
脇の机に
私は微笑んで心を落ち着かせ、薬を飲む。
「苦っ?!」
茶色い粉末は酷く苦かった。言い表せない独特な苦味。
コップ一杯の水では足りないので慌てて栄養剤を流し込む。
「甘っ!?」
恐らく甘味料で風味付けされているのだろう。
しかし甘い。はちみつ漬けのような甘さ。
なぜこんなものに躍らされなければならないのか……
ふと、飲み干したコップの横に折り畳まれた紙があるのに気がついた。
内容はこうだ。
〜正しい飲み方〜
①栄養剤の入ったビンの栓を抜く
↑こぼさないコト!
②薬の入った薬包紙の角を切り落とす
③溢さないように切り口を宛てがい粉末を注ぐ
↑こぼさないコト!
④全部入れ終わったら栓をして良く振り混合させる
⑤水またはぬるま湯で2倍希釈すれば完成
下には注意事項が長ったらしく書いているが敢えて読まないでおこう。
少し茫然としつつ、呼吸を調える。
「寝よ」
布団に潜る。いつの間にか寝返りが打てるようになっていた。
傷口が少し痛む。しかし気に留めずそのまま眠る。
明日は外を歩けるように。
おやすみ。
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