徒花逃避行
かもめ・みどり
#001 ¶ 君がここにいてくれたから
「やあ、目が覚めたかい」
目を開けると、知らない天井があった。
「いやぁびっくりしたよ。まさか人が
腹部には包帯がキツく巻かれており、血が滲んでいた。
起き上がろうとするが、腕や腹筋に力が入らない。
「まだ安静にしておきな。三日くらいはまともに起き上がれないだろう」
そう言って少女は切り分けた薄黄色の果実を私の口元に運んできた。
少し警戒したが、甘酸っぱい匂いが鼻を
「……美味しい」
「だろう?この辺りの特産品で『パヤル』って呼ばれてるんだ。
煮たり焼いたりしても美味しいが、生でもイケるぞ」
そう言いながら少女も自らの口に運ぶ。
私の食べかけを。
「おっと、自己紹介を忘れていたよ。
私は
綽名は『ティティ』だけど、好きに呼んでいいよ」
笑顔が眩しい。
「……私は、サモラ。
イゼンフルーという街に住んでた」
「“イゼンフルー”…?聞いたことないな……。
ここはヴァレンシュタット。小さな街だよ」
そう言って彼女は戸棚から地図を取り出した。
机に広げ、地図と睨めっこを始めた。
「イゼン…イゼン…イゼン…おー…?どこだろう」
ここからは地図の縮尺は見えないが、多分無いだろう。
「ここの近くに湖か大きな池はある?」
首を傾げたままこちらを見る少女。
「……ヴァレンという湖なら街のそばにあるよ。でもそれが?」
「なるほど。私は地図を湖の位置で覚えているから。
だとすると、ここから遙か西に存在するはず。
小さな村だから名前が無いならブリエンツという
ベーニゲンと言う少し大きな街が近くにあるよ」
少女は驚きながらも、地図に視線を戻す。
そして漸く見つけたらしい。
「あった、ブリエンツ
「そこから少し南西」
視線を少しずつずらしていく。
「イゼン…イゼン……あった!イゼンフルー!」
喜びを全身で表現している少女。
「ここからイゼンフルーまでかなり距離あるね」
私は9日かけてこの辺りまで来ていた。
中間にはベッケンリートとゲルサウを結ぶ渡し船がある。
だけども、これに乗れるほどのお金を持っていなかったので遠回りをした。
それでもお金は足りず、食べ物も
「でもなんでこんなところに?」
「秘密。」
「まぁそうよね。誰にだって言いたくないこともあるよね」
意外とあっさりしていた。
「サモラ……だっけ?まぁここに居る間は安心していいよ。
落ち着くまでは、拾ったからには面倒見るから」
「……ありがとう」
鼻の下を擦り、自慢気な笑顔を見せる。
視線を天井に戻し、これからのことを考える。
暫くは衣食住に困らなさそうだけど、いつまでも甘んずる積もりはない。
目的地はあるが、蓄えも必要だ。
何が先決かと言われれば働き口だろう。
こんな幼い体でも出来ることはある。
実際、家を出るまでは商店の会計係をやっていた。
あまり動かなくて良いし椅子に座るから身長も殆ど関係ないし。
いずれにせよ、体の自由が戻るまでは体力回復に徹しよう。
ティティも悪いヤツではなさそうだし、寝るか。
目を瞑り、寝返りの打てない
おやすみ。
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