第4話 地球

「うっ、わぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

グワングワンと船が揺れる。アビスは慣れてるのか、ただ単に平衡感覚が抜群なのか、全くもってピクリともせず操舵輪を握りしめている。

対して俺は船の揺れに合わせてゴロゴロ床を転がっている。あっちにごろごろ、こっちにゴロリ。捕まるところなんてないだろ。どこに捕まれと。何度も壁にぶつかって全身打撲(軽傷)。痛いわ。


ピタッと、揺れが収まった。

急に揺れが収まったから、俺は吹っ飛ばされる。

ゴッ。

「痛ってえ……」


なんでこんな目に……。


「つきましたよ」

こっちを振り返ってアビスが笑いかける。

「そのうち慣れますよ」

その笑いは慈愛の笑みだったか。

くそう。

「こっち、見てください」


「えっ」


「これ……。地球か……?」


「ええ。これが、もう一つの地球です。何千もの地球があるんですけどね。その内の一つです」


「無事じゃねえか」


目の前に現れたのは、


青く、青く、ただ青い。

俺の知っている、地球だった。


「あなたにこれを見せれば、信じてもらえるかと」


こんなの信じるほか、ないだろ。


「俺がいた世界以外に、同じように危機に迫られている地球は、あるのか?」


アビスが答える。

「ええ。いくらでも。今見てるこの地球も。

「私や、私のお姉ちゃんみたいな救済天使が、なんとか救おうとはしているんですけど……。

「何かの陰謀か……。わからないことも、多いんですけど。

「こんなにも多くの世界が滅びかけるのは、明らかに異常な事態なんです。

「この地球たちがすべて滅びれば、地球は、無くなります。

「無かったことになります。

「あなたは特異点なんです。

「あなたがいるだけで、地球が救われる確率がかなり上がるんです。

「どうか、私に、私たちに力を貸してください」


こみ上げる言葉を口から吐き出すアビス。

前にも聞いたような、それでいて新たな決意を感じる言葉。

救済天使としての使命感か、それとも。

俺にとってはただの真実でも、彼女にとっては荷が重いのかもしれない


「分かったけど、俺何もしなくていいんだろ?」


「ええ、そうですね」


「なに今のシリアス」


「雰囲気です」


「なんだそりゃ」

ふふ、とアビスから笑いが漏れる。


「とりあえず、地球が救われるまでの間、よろしくお願いしますね?」


「おう」


差し出された手を握る。


実感は湧かないけど。



地球は、滅んだ。

この俺がいた、「地球」は。

真っ黒焦げになって、

滅んだ。




これから僕らは、世界を巡る。


地球が救われるまで。


きっと、僕は。

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