第3話 救済

「救済、天使?」


ええ、と彼女――アビスは、にっこり微笑む。


「地球に存在する数多の神様のうち一人から遣わされた、救済天使のアビスです」


神様って、実在したのか。


「いないとは思ってなかったけど、まさか本当にいるとはなぁ……」


「もちろんです。神様がいなければ、私もいないんですし。救う命令を出してくださった神様に感謝してくださいね?」


「あ、はい」


いろいろ分からんことが多すぎるけど、まああきらめよう。


地球が滅んだとかいう時点で処理が追いついていない。





「ところで、ここ、どこなの?」





純粋な疑問。





「世界線転移システム搭載型艦、『ノア』です。神々の国の最高技術を結集して造られた、救済天使の『足』なんです!この艦があれば、どんな世界にも移動できるんですよ?」


「宇宙船みたいなもんってこと?」


「まあ簡単に言えば。もっと高度ですけどね」


神々の国ってもんがあるのか。


神様の科学力ってすげー。


というか、いつのまにかそんな代物に乗っていたのか。


もう驚く気も起きない。





地球が、滅んだ。





その事実だけで頭パンク気味なのにさ。





ははは、と笑いがこぼれてくる。


「緊張は、ほぐれてきましたか?」


「ああ、うん。ところで確認も取らず悪かったんだけど、タメ口でもいいかな?そっちもタメで話してくれると、個人的にはうれしいかな」


「そうですね、長期戦になりますもん。分かりました、善処します」


「ありがとう」


なんて他愛もないやりとりを続けていたとき、俺は世界唯一の生き残りであることを実感することになる。





「見えてきましたよ!」





彼女の指す方向を覗きに行く。


彼女が指した方向に、一つの星が見えてくる。


しかし、


「……う、わ。なんだよ、これ」





目の前にあったのは。


炭と化し、所々ひび割れているもの。星であって、星でないような。


黒く、黒く、ただ黒い。





「ここが、あなたのいた地球です。信じてもらうために戻ってきたんですが、信じてもらえましたか?」





「こ、れが、地球?」


何だこれ。


何だこれ。


「もっと青くて、もっと緑のある星だったぞ、地球は。もしかして、コレが戦争の影響?」





「ええ。もう地球には、生命と思えるようなものは何一つ残っていません。残念なんですけどね……」


目を見張る俺の肩に手を置き、


「そこで」


彼女はすたすたと歩いていった。


俺はそれについて行く。


ある部屋にたどり着いた。


そこにあったのは、青い光の筋が通る操舵輪のようなもの。ふわふわと宙に浮かんでいる。


前方には先程の黒い星――元地球。


彼女は操舵輪に手を掛けると、グルグルグルっと三回転ほどさせる。


するとぱっと目の前の黒い星が消え、





艦が加速した。





「うおっとっと!」





「つかまっててくださいね!」

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