違う世界の彼

@kaaaam-1

出会い

「じゃあね、唯!また帰ってくるから。」

 そう言って親友の愛実が新幹線に乗り込む。高校卒業後から都会に住むようになった彼女は、時々こうして地元に帰ってくる。大抵はなにか悩みがあって帰省することが多い。今回の帰省も彼氏との喧嘩が原因だ。

「彼と仲直りしなよ。またいつでも帰っておいで。」

「分かってるよ。帰ったらすぐ会う!話聞いてくれてありがとね。」

 ♪~♪~♪

 新幹線の発車の音楽が鳴る。

「唯も早く彼氏出来るといいね!」

 扉がしまり、私は煩いよと笑顔で呟き手を降った。新幹線がゆっくりと動きだし、数秒でホームからいなくなる。

「さて、帰ろうか。」

 ホームからでて、駅構内を出口に向かって歩き出す。ここは地方だが、人は多く、駅前はたくさんの店が立ち並び賑わっている。普段私は西口から出て家に帰る。歩いて10分くらいの距離。今日ももちろん西口に向かっていた。歩きながらすれ違う人のショップバックや袋を見ていると、自宅のシャンプーが空になったことに気づく。

「そうだ。シャンプー買って帰らないと。でもここからだと…」

 西口を出て自宅までシャンプーが売ってる店はない。一番近い店は東口のマツモトキヨシである。しょうがないかと東口へ向かう。シャンプーを買い、時間を見ると16時03分。まだ明るい。

「家に帰っても暇だし、少し散歩でもしながら帰ろうかな。」

 東口には滅多に来ることはない。今日みたいな日に東口から駅の周りを北に向かって歩き、西口にある自宅へ向かうのが通常だ。今日はなんとなく南経由で帰ってみようと思った。駅の南側は全く知らない、未知の世界だ。発展してる西口に比べ、東口は自然が多い。少し歩くだけで、田んぼや畑が見えてくる。自然に囲まれ気分がよくなって、つい夢中になって歩いてしまった。気付くと16時25分。20分も歩いていたのだ。西口にある大きいビルが見え始める。

すると脇道から車が来る。白く長いリムジンだった。

「うわ。すご…。」

そう呟いて、私はスッと横によける。すると後部座席の窓があく。

「お前、こんなところで何してる。」

同い年くらいで、髪を肩にかかる位に伸ばし外はねにしてる男が声をかけてくる。

「え、家に帰ってるだけですけど。」

そう答えると、今度は進行方向から黒のセダン系の車が近づいてくる。するとリムジンの後部座席の扉が開き、これまた同い年くらいの短髪黒髪ツンツン頭の男が私の手を引く。

「え?は?ちょっと。」

急な出来事に戸惑う私。

「ちょっとおとなしく待ってろ。」

外はね男がそう言って、ツンツン男と外に出ていってしまう。セダン系の車からも男が3人出てくる。私は何が起きてるのかまだ整理がついていない。運転席にはきれい目な白髭のおじいさんがハンドルを握っている。

「あの。これってどういう…」

恐る恐る声をかけてみる。

「まあ、しばらくお待ち下さい。外は危険ですので。」

おじいさんは鏡越しに笑顔で答えてくれる。

危険ってどういうこと?

男たちの声が聞こえ、もう一度外を見ると男たちが殴りあいをしている。しばらくすると外はねとツンツン男が車に戻ってくる。外には男3人が転がっている。私は言葉を失ってしまった。

私は何かに巻き込まれてしまったのか。これはやばい。早く逃げないと…。そう思ってはいるがなかなか体が動かない。

「ああああ、もう帰ってきちゃうよー。」

小声でそう呟くのが精一杯だった。

ガチャっと後部座席の扉を開けて二人が中に入ってくる。

「……。」

二人の視線を痛いほど感じる。怖すぎて私の視線は、自分のスカートの小さな染みにしか目がいかない。

すると外はね男が口を開く。

「葛西、車出して。」

運転席の白髭のおじいさんが「はい。」と返事をし、車が動き出す。

「え?いや、ちょっと待ってよ!降りたいんだけど。」

やっと声が出て二人に訴えるが無視。少し気の短い私は、カチンとしてしまった。

「ちょっと!車止めてっていってるでしょ!無視しないでよ!」

外はね男に向かって大声で怒鳴ると、目を伏せてしまった。

「うるせぇ女だなあ。ちっとは大人しくできねぇのか。黙って座ってろ。」

いやいやいや、別に乗りたいなんていってないし。無理矢理乗せたのもあんたでしょーが!という言葉が喉まででかかったが、無理矢理飲み込んだ。

「悪いようにはしねぇ。あとで説明はするから。今は座ってな。」

ツンツン男がやっと口を開く。こっちの男の方が話は通じそうだ。私はムッとした顔で、窓の外を眺めることにした。

それにしても南口と西口の間って変な空間。少し行けば人で賑わってるのに、ここはなんか暗いというか静か。お店もないし、家もまばら。倉庫みたいな所はあるけど…。昔工場でもあったのかな…なんて関係ない事を無理矢理考えてみる。しばらくすると車が停まる。目の前には立派なお屋敷のような家。こんなところに何の用なの?と考えていると、

「おい。もたもたすんじゃねぇ。降りるぞ。」

すでに反対側の扉から男二人が外に出ている。

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