14‐23「渾身の一撃」♢

 トーハさんと合流してしばらく壁に隠れながら戦っている皆と情報と作戦を共有した私達は村を守るためにそれぞれが配置についた。


「おやおや、人が増えたから囲い込もうというのですか? とはいえその程度、高度を上げてしまえば例え四方八方からの魔法も怖くはありませんよキキッ」


 吸血鬼は森側に回った魔法使いの姿を見て愉快に合図をするとともに空に昇っていく。


「そろそろかな」


「はい、『エンハンス』! 」


 吸血鬼が段々と小さくなっていくのを見ながら頃合いを見て『強化の魔法』を唱える。たちまち赤いオーラに纏われたトーハさんは私を担いで吸血鬼とコウモリの群れの真下、村と森の丁度真ん中の場所を目指す。門をくぐり橋を渡り平地に彼が足を踏み入れた時だった。


「おやおや、何かを企んでいると思ったらコソコソと何をされているのですか? キキッ! 」


 吸血鬼が突如急降下して私達目掛けて飛んでくる。私がトーハさんに吸血鬼に対して『イクスプロージョン』が発動しなかったことを、攻撃魔法が使えなくなったことを話していないと考えているからか強気にも一直線に私達目掛けて飛んでくる。


「2人を援護しろ、『ウィンディ』! 」


「『ファイエア』! 」


 風、火、雷、氷と様々な魔法が吸血鬼目指して放たれる。でも、吸血鬼は飛びながら難なくそれらの魔法を躱しながら私達目掛けて手を翳した。


「『ファイエア』! 」


「うおっ! 」


 コウモリの群れの真下を目指すのを諦め左に曲がったトーハさんは高く跳んで火の玉を躱す。


「キキキキキ、貴方大層大切に彼女を運んでいますがご存じですか? 彼女は今貴方達の頼みの綱の魔法を使えないのですよ? 」


「何だって、ダイヤ。どういうことだ」


 トーハさんが驚いた演技をするその声は真に迫ったもので私はそれにこたえるべく俯いて「ごめんなさい」と呟く。


「キキキキキ、ご存じないようでしたね、それで貴方はそのお荷物をどうされるのですか? 」


 こちらに迫りながら吸血鬼が愉快そうに笑う。その直後、トーハさんの右足は地面を蹴るのではなく力強く踏みしめるとともに身体を吸血鬼の方へと回転させる。


「行け、ダイヤあああああああああああああああああああああああ! 」


 彼の叫びと共に思いきり振りかぶった彼により宙に投げ出された私は矢のように吸血鬼目掛けて飛んでいく。


「キキキキキ、遂に捨てられてしまいましたか? それで攻撃魔法を使えない貴方はどうされるのですか? 『イクスプロージョン』以外は使えるのですか? 私と心中しようということですか? 」


 愉快そうに吸血鬼が笑う。その様子を見ながら私は隠していたトーハさんから預かったお父さんの剣を

 引き抜く。


「キキッ! ? 貴方が剣を使うのですか? 使えるのですか? どちらにしても何故そんな折れた剣を!

  キーキッキッキキーキッキッキ」


 いよいよ吸血鬼は我慢できないとばかりにお腹を抱えて笑い出す。


「……なんて引っかかると思いましたか? 」


「えっ」


 突如冷たい声が響き渡ったかと思うと吸血鬼は真下のトーハさんに掌を向ける。


「『デリト』」


「ぐっ……」


 吸血鬼の魔法によって『強化の魔法』が強制的に解除されたトーハさんが呻き声を上げる。


「貴方は囮で以前のように後ろからあのゴブリンが私を切り刻もうとしていたのでしょう? 演技までしたのに残念でしたねえ、それでどうしますか? その剣を刺しますか? 魔法が使えるのなら私と心中しますか? 」


 勝ち誇った吸血鬼は両手を広げて見せる。今の私は『イクスプロージョン』は使えるであろうけど攻撃魔法に関しては吸血鬼の言う通りだった、攻撃魔法を放つとこの距離では私も巻き込まれてしまう。

 でも、この状況でなら有効な魔法が1つだけある。ただそれには恐らく誰もやったことではないであろうことをやらないといけない。


 出来るかな?


 息を吸い込んだその時だった。


「おやおや、深呼吸までしてまだ決まりませんか? 覚悟ができていませんか? ならば死んでいただきましょうかねえキキキッ」


 吸血鬼が私目掛けて飛んでくる。この行動により吸血鬼との距離が予想よりも遥かに接近していく。


 あの時と同じ。やってみせる、皆を守るための道を、この魔法で切り開いてみせる!


 ドラゴンとの戦いを思い出して覚悟を決め吸血鬼を見据えると吸血鬼の鋭い爪が眼に迫る寸前、私は自身と共に移動する球体の魔力の流れをイメージしながら呪文を唱える。


「『シルド』! 」


「な、『盾の魔法』! ? 」


 予想外だったのだろう、それもそのはずで本来『盾の魔法』は攻撃から身を守る防御魔法で攻撃を仕掛けられる魔法じゃない、でも今みたいにこちらが相手に猛スピードで向かっているときは強力な攻撃魔法へと変化する。


「くっ……」


 吸血鬼が懸命にこちらへの接近を止めようと試みるももう遅い。私はシルドを纏った状態で吸血鬼の懐に飛び込んだ。


 ゴン!


 鈍い音とともに意識を失った様子の吸血鬼が高度を上げていたコウモリの群れまで飛ばされる。


「今だ! 『シルド』! 」


 眼下に森と村周辺に集まった人たちが展開した『盾の魔法』が広がる、これでどこを巻き込む心配もない。私はオーブを黄金から深紅のものに付け替えると杖を構える。


 皆の協力で放つこの一撃で決める。


「『イクスプロージョン』! 』


 直後、コウモリの群れの中心付近で爆発が起きた。爆心地はかなり離れているけれど爆発音も爆風も凄まじく私は風によって飛ばされてしまう。


 ああ、着地の方法考えていなかった。


 落下しながら余りにも致命的なミスに呆れながら何とかしなくてはと怖くて閉じていた目を開く。すると全速力で駆けている彼の姿が見えた。思わず頬を緩ませながらも私は風の流れに身を委ねながら彼の元へと落ちて行った。



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