14‐22「戦う理由」♢

 トーハさんの後について村の門を目指して進む。


彼は吸血鬼を倒す方法があると言った。それは一体なんだろう? それは私がお父さんの仇を討てる方法だろうか?


頭の中で懸命に吸血鬼を殺すためのシミュレーションを何度も何度も行う。できるだけ残酷に、惨めな様子で何度も何度も吸血鬼を頭の中で仕留める。


 シミュレーションの中で両手足を動けなくされた吸血鬼は許しを乞うている、でも私はその言葉に耳を貸さずに短剣を突き刺す。吸血鬼がコウモリになった、でも盾の魔法シルドで逃がさない。

 2匹……3体……一体ずつコウモリに短剣を突き刺し殺していく。幸運にも最後まで生き残った吸血鬼、でも逃げ場はなくコウモリの姿では何もできない。

「ギエエエエエエエエエエエエエエエエエエ」

 私の一突きで吸血鬼は断末魔の叫びと共に動かなくなった。


 ああ、これが現実だったらいいのに……


 剣士でなく魔法使いという道を選んだことすらも悔やみながら歩を進める。トーハさんは何も言わずに歩いて行く。


 彼が見せたいものってなんだろう?


 ふと考える。これまでの経験からするとそれは多分吸血鬼を倒せる大事な何か、もしかしたら吸血鬼がコウモリになれない様に封印を凝らした剣かもしれない、それを私に渡してくれるのかもしれない。

 期待して彼の身体を改めて見つめると右手はお父さんの身体を担いでいるけれど左手にはどういうわけかスペードさんの剣、腰には折れてしまったお父さんの剣を鞘と共につけていてそれらしいものは見当たらない。


 草むらに隠してあるのかな? それとも何か別のもので……


 他の可能性を探る、するとすぐにそれは浮かんだ。


 もしかして、トーハさんが洞窟にいなかったことと関係が? だとすると凄い魔法使いと合流していて吸血鬼の最期を見せてくれるのかもしれない。でも、それは少し残念。私の手であの吸血鬼を葬りたい。


 吸血鬼の顔が頭に浮かび力の限り杖を握り締める。するとふと彼が立ち止まった。


「お待たせ、これがダイヤに見せたいものだ」


 彼が私が見やすいようにと右側に避ける。いつの間にか門まで歩いていたみたいでそこには……


「グッ……」


「肩が、その身体では無理です。治療しますからこちらへ」


「だが私には命に代えてもこの村を守る責務が」


「無理すんなよおっさん、今はオレ達に任せて、傷が治ったらまた駆けつけてくれ」


「ああ……すまない」


「先生の『イクスプロージョン』で一掃はできませんか」


「分からない、でも駄目だ。最小に威力を調節しても計算をしたが我々の盾では村を守るには僅かに足りない。村に影響がでてしまうだろう」


「……あの吸血鬼は魔法を無効にする魔法を使うから魔法が効かない。でも矢なら、皆魔法を撃って。それに紛れてボクが矢を放つ」


「了解した、教師になってまで魔法を極めた身としては少々癪だが仕方がない……皆一斉に行きますよ、『ファイエア』! 」


 そこには……皆がいた。スペードさんにクローバーさん、村の人に兵士さん、駆けつけてくれたであろう軍の人に懐かしい学校の先生、前方には1人コウモリと戦うお兄ちゃんに化けたモンスターと村を懸命に守ろうとする皆が。

 涙が溢れる。私はこの人達のことを、村を守ろうと戦っている人達のことを忘れて吸血鬼と一緒に巻き込もうとしてしまったんだ。


「ダイヤ、相手を殺したいほど憎みたい気持ちは分かる。怒りや憎しみは時に凄い力を引き出すこともあるけれど、それと同時に気が付いたら大事なものを失ってしまうなんて危険もあるんだ」


 彼は左手をポンと私の肩に置く。


「つっ……」


 すると直後苦しむ声と共にその手を戻して右手で優しく包み込んだ。


「大丈夫ですかトーハさん、どうかしたのですか」


「いや、やっとダイヤが戻ってきたなって」


 堪らずに声をかけると彼はそんなふうに答えるので試されたみたいで気恥ずかしくなる。


「今のダイヤなら、多分攻撃魔法も使えるんじゃないかな。何かを思い出したみたいだから」


 ハッと気付く、そうだ。私は今まで怒りに捕らわれてお父さんの仇を討つことだけを考えていて誰かを守ることなんて考えてもいなかった。だから、『イクスプロージョン』は発動しなかったんだ。彼はそれを思い出させるために……


「はい、もう大丈夫です! でもどうしてトーハさんは『イクスプロージョン』は守りたい気持ちが強くないと発動しないということをご存じだったのですか? 」


 彼が『イクスプロージョン』のことを知っていたのが気になって尋ねる。どこか恥ずかしかったので私はそのことは説明していなかったのだ。すると以外にも彼はびっくりした様子で言う。


「あの爆発魔法なのに意外だ、知らなかったよ。俺はただダイヤの様子がいつもと違ったから何かできないかなって思っただけで……」


「それって……」


 思わず恥ずかしくなって目を逸らす。同じタイミングで何故か彼も私と同じ方向に顔を向けた。


「ダイヤちゃん、戻ってきたのか」


 ふと声をかけられる。視線を向けると門の側で1人の治療を受けている兵士さんだった。


「今のダイヤなら大丈夫だ。吸血鬼を倒して村を守ろう」


「はい」


 私は頷くと彼の横に並んで門を目指して歩き始めた。

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