14-24「魔王の居場所」

「よっ……と」


 彼女の落下地点を慎重に見極め空から降ってきたダイヤを両腕で受け止める。こういう時ゴブリンの力は便利で難なく受け止めることができた。


「ありがとうございます、トーハさん」


「これくらいのことならなんともないよ、それよりよくやったよ」


「はい」


 空を眺める。先程までコウモリが飛んでいた空が今では綺麗な星空が広がっていた。


「ダイヤ! トオハ! 」


 駆け寄ってくる2人の姿が見えた。スペードとクローバーだ。


「やったんだな」


「ええ、恐らくは」


「……大丈夫、念のため確認したけど吸血鬼もコウモリの姿も見えないから」


「その子の言う通り。私も『サーチ』で確認したのだけが吸血鬼はおろかコウモリは一匹残らず潰えたようです」


 大きなトンガリ帽子と黒いローブを身に着けたいかにも魔法使いという風貌の30代近い女性がこちらに

 歩いてくる。


「ですが……」


「ですが、どうされたのですか? 」


 先が読めたので先手を打って言葉を発する。恐らく彼女は「そこの鎧の人物からゴブリンの反応が」と言おうとしたのだろう。対策は簡単だ、しっかりと人間の言葉で話してしまえばいい。セリカの時に学んだ方法だ。

 案の定、彼女は目を見開くと顔を背けた。


「どうされたのですか先生」


「いや、なんでも」


 ダイヤが声をかけると女性は首を横に振る。どうやらこの人は魔法使いではなく教師らしい、それもダイヤの先生で……


「先生! ? 」


 耳を疑う、何せ見た目はお手本のような生真面目なお役所魔法使いを思わせる服装なのだ。


「そんな驚くことではありませんよ、特にダイヤさんに対しては……私は彼女の傷を癒すことはできなかったから」


「いえ、先生。そんなことはありません、私は先生のお陰で『イクスプロージョン』を放てたのです」


「そういってもらえると少しは楽になるかな」


 彼女は照れくさそうにそう言うとコホンと一度咳払いをした。


「見事な爆発魔法でした。ダイヤさん、素晴らしい仲間に巡り合えましたね、私は貴方の成長とその出会いをとても嬉しく思います」


「先生……ありがとうございます」


 余程嬉しかったのだろう、ダイヤが眼に涙を浮かべながらお礼の言葉を述べた。その彼女目掛けて1人の男性が現れる、吸血鬼を爆発魔法で倒したのだから皆に注目されるのは当然だと思っていたのだが、意外にもその人物はトパーズさんにそっくりであった。後姿は似ているとは思ったけれどまさか本当にトパーズさんに化けたモンスターがもう1体いたとは! いや、今の彼は村を守るために戦ったのだ。そんな彼に対して何かを言うのは気が引けた。


「ダイヤ、少しいいかな」


 申し訳なさそうに彼が口を開く。ダイヤは彼を見て視線を逸らす。ここに来るまで何があったのかは分からない、けれどやはり気まずさはあるのだろう。


「そのままでいい、もう僕の身体はもたないから情報だけ伝えておく」


「それなら私が回復を」


「お気持ちだけ受け取っておきます」


 彼は先生の申し出をやんわりと断る。すると先生は俺達に会釈をするとおそらく同僚であろう人達の元へと戻っていった。彼はそれを見送ると俺達に向き直る。


「すまない、それで僕が耳にしたことだが魔王はペガサスは目覚めているといった。ペガサスを探すんだ」


「ペガサスって……」


 思わずダイヤの冒険者バッジに視線を移す。そこには長く美しい羽を羽ばたかせている天馬の姿が刻印されている。


「……でも、どうしてペガサスを」


「それは、魔王の城は飛ばないとたどり着けない場所に存在するからだ」


「それってまさか……」


 スペードが空を見上げる。それを見て彼は頷いた。


「そうだ、空だ。魔王は空にいる」


 カチリと頭の中で何かが当てはまる。これまで旅をして魔王の情報は入らないはずだ、何故なら地上にはないのだから。恐らくサイクロプスなどと言った神話のモンスターを生み出しペットと称したのも上から様子を見る飼い主気分だったからだろう。


「空……だから空を飛べるペガサスですか」


「空を飛ぶだけじゃない、ペガサスは魔王の城の位置を知っている。恐らくゴルゴーンから生まれたモンスターだからだろう」


「ペガサスの場所に心当たりなんかは……ねえよなあ」


 スペードがため息混じりに尋ねる。すると意外にもこの問いに対して彼は首を横に振った。


「場所は分かっている。ペガサスがいるのはこの世界の最西端の島だ」


「最西端というと西の国か」


「そうだ、けれども気をつけた方がいい。その島に辿り着くのは容易ではないと魔王は確信を持っているようだったから」


 彼が釘を指す、一筋縄では行かなそうだ。


「これで僕が手に入れた情報は終わりだ……あとはダイヤ」


 彼がダイヤに視線を向ける。ダイヤは未だに一言も発していない、目の前にいるのは一度襲われた兄に似たモンスターであるけれどあのモンスターとは違い兄のように村を守ったので複雑な心境なのだろう。


「母さ……いや、サファイアさんを頼むよ」


 彼が失言だったとばかりに言い直す。その声はどこか悲しげだ。

 彼の言う通りで俺達は勝ったのだけれど大きな犠牲を払うこととなった。オパールさん、ダイヤのお父さんが亡くなったとダイヤのお母さんが耳にしたらどんな傷を負うだろうか、想像するだけで胸が痛い。


「それじゃ、すまない。力を使い過ぎたらもう限界だ。皆が魔王を倒すことを祈っているよ」


 彼がそう口にした時だった。


「ありがとう、お兄ちゃん」


 ダイヤが涙を流しながら口にする。


「……お礼を言うのはこちらだ、ありがとう。元気でな、ダイヤ」


 彼は満面の笑みでそう告げるとふっと消えて液体になった。

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