14‐14「残酷な提案」♢
「どういうことだ、娘を殺せだと? できるわけがない」
目の前の吸血鬼のあまりにも残酷な提案にお父さんは叫びを上げる。
「でしたら、あなたの奥さんには死んでいただきましょうキキッ」
吸血鬼が空からお兄ちゃんの姿をしたモンスターに目配せする。すると彼は剣をお母さんの喉元目掛けて下ろす素振りを見せる。
「ま、待て」
「ようやく覚悟が決まりましたか? キキッ」
「それは……」
お父さんが言葉に詰まる。この状況、どうすればいいの?
杖を力いっぱい握り締める。剣はまだ届く距離になく向こうには魔法を無効にできる吸血鬼がいる。こちらが何かをしても無効化されて終わってしまう。
「流石にこのままでは時間がかかりそうで面白くありませんねえ。どれ、こうしましょう。キキッ『ファイエア』! 」
吸血鬼は魔法を唱えると炎がお母さんが植えた花を導火線のように伝ってあっという間に家を囲んだ。
「ほらほら、早く決めないと貴方のお家が無くなってしまいますよ。キキッ」
吸血鬼が額に手を当てて笑う。
どうしてここまで吸血鬼は残酷なことができるのだろう?
ふと沸き上がる怒りを必死に抑え込む。今感情に身を任せて下手なことをしてしまってはそれで全てが終わってしまう。
固唾を飲んでお父さんを見つめる。すると再び吸血鬼の声がした。
「ほらほらダイヤさん、黙っていないで命乞いをしたらいかがですか? そこは意識のある貴方のアドバンテージなのですよ? キキッ」
でも、私は答えない。思い通りになるのが癪だったしそれ以上にここでお父さんが私を斬るというのならそれに従おうと決めたから。
「面白味がありませんね、それでいかがいたしますか? キキッ」
舌打ちをすると次は目を閉じ考え込んでいるお父さんに声をかける。するとお父さんは静かに目を開いた。
「吸血鬼よ、それならば私の命で手を打ってくれないだろうか、私はこう見えても昔は名有の冒険者だった」
「おやおやそうでしたか、ですがそれは受け入れられませんねえ。どちらを取るか一生懸命考えていると感心していましたが、そんなことを考えていたのですか。もういいでしょう、やっておしまいなさいキキッ」
吸血鬼の号令と共にお兄ちゃんの姿をしたモンスターが剣を再び動かそうとする。
「止めてくれトパーズ! 」
お父さんが叫んだ時だった。ピタリ、と剣が止まる。
「どうかしましたか? キキッ」
「ううっ、僕は……僕は……」
偶然かと思った、でも偶然じゃない。今お兄ちゃんは吸血鬼の命令に必死に抗おうとしている。そういえば、前回も最後に遺した言葉は私の身を案じた言葉だった。
だとしたら……
「やめて、お兄ちゃん! 」
彼の目を見て訴えかける。あり得るかもしれない。お兄ちゃんが、モンスターの支配に打ち勝つことが。
「『コントロール』早くしなさい、思い出せ! 貴様の主は誰だ、私だ! 魔王様だ! 」
「グ、グググググググマオウサマ……」
吸血鬼が呪文らしきものを叫ぶと同時に手を動かすと彼が苦しみだす。そのまま、剣が振り下ろされるかと思われたその時だった。
「うううん、トパーズ……トパーズなのね? 聞いて……ダイヤも帰ってきたのよ、お父さんと一緒に出掛けているけど、帰ってきたらパーティーをしましょう……せっかくまた家族が揃ったのだから……」
寝言だろうか、お母さんの口が動いた。
「母さん、母さん! 」
彼がお母さんに呼びかけるとともにカラン、と剣が落ちる。
「クソ、こんな時に錯乱をして。この馬鹿が」
吸血鬼は高速で彼の元に来ると彼を突き飛ばした。そのままお母さんに迫る。
「もういい、私が見せてあげますよ。よく見ていろ、ダイヤガーネットオオオオオオオオオオオオオ! 」
思わず駆け出すけれど間に合わない、吸血鬼の長い爪がお母さんの首に届くと思ったその瞬間。
「やめろ、母さんに手を出すな! 」
突然、彼が落ちた剣を拾うとともに吸血鬼を真っ二つに切り裂く。
「貴様あああああああああああああああああああああ」
吸血鬼が雄たけびを上げコウモリの姿になる。すると事前に隠れていたのだろう、突然コウモリが飛び出し彼の身体の負傷したコウモリと入れ替わる。
「ぐっ……」
たちまち健全な吸血鬼の姿に戻った吸血鬼は彼の首を締め上げる。
「貴様のせいで予備のコウモリを使う羽目になったじゃないか。まあいい、『ペインマックス』よく見ていろ貴様ら。真っ先に息子に、兄に似たこのモンスターを今殺してやる。ハハハハ、抵抗できないだろう。何故なら貴様の痛みはマーックスなのだからな! 死ねえ! 」
吸血鬼が爪を心臓目欠けて突き立てる。グシャッと言う音と共に辺り一面に赤い血が飛び散った。
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