14‐10「絶望を希望に」♢
「早く兵士を集めて、村の皆を避難させてくれ! 責任は私が持つ! 」
「オパールさん、一体何を」
村に戻り私の話を信用してくれたお父さんが守衛の人に要求するも守衛の人は首を縦に振らない。話が分からず困惑した様子だ。それを悟ったのだろうお父さんは夜空を覆う影を指差す。
「あれをみてくれ、コウモリの群れだ。こちらに向かってきている。あの数がこちらに向かってくるんだ」
「いやなあに、コウモリですよ。例え何匹いようが我々からすれば恐れるに足りませんよ。それよりも今はダイヤさんの帰還を祝いましょうよ。せっかくオパールさんの家族全員が揃った夜なのですから」
「君は何を
お父さんは発言した守衛の人を叱りつける様にぴしゃりと言うと辺りを見回す。
「誰か、視力強化ができるものはいないか。安心だと思うのならばそれで見てみてくれ、仮に飛んでいるのが全てコウモリだったとしたら私は大人しく引き下がろう」
「分かりました、確認します」
お父さんの提案に1人の守衛の人が手を挙げて答えると1歩前へ出た。
「『アイズ・エンハンス』! 」
彼は呪文を唱えて強化された視力で空を見上げる。するとたちまち「アッ」と声を上げて尻もちをついた。
「おい、どうした」
「います、1人。翼の生えた正装の男が、空を飛んで」
恐る恐る答える彼を見て胸が苦しくなる。
この予想が外れてくれたらどんなに良かっただろう、吸血鬼だ。あの吸血鬼がやってきたんだ。以前、私に良い知らせができると言っていたのはこのことだったんだ。
目の前でアタフタしている守衛の人たちを見つめる。
これが絶望の1歩手前に陥った人たちの反応だろうか?
恐怖のあまり目の前のことが全て別の世界のことのように思えた。
いや、まだだ……
ふとトーハさんの顔を思い浮かべて杖をギュッと握り締める。まだ、終わっていない。私は戦える。
「まだ諦めるのは早いです、お父さんの言う通り、戦える人を集めてください。戦いましょう。最後まで」
明らかに絶望の状況だった。でもそれは、折れた剣だけで魔王と1人だけで向かい合うこととなった彼と比べると何でもない。村を救って、スペードさんとクローバーさんと一緒にスーノに向かって胸を張って彼と再会しよう。そんな想いを込めながら私は守衛の人に語り掛けた。
♢
それからというのも村は大騒ぎとなった。逃げようと荷物をまとめようとする人、戦おうと武器を取る人、人々が突然の襲撃に怯え震えたっていた。
「では行ってまいります」
1人の兵士さんが御者に扮してもう1人のお客さんに扮した兵士さんと馬車に乗り込むと馬車を走らせる。2人はニンビギへの援軍要請のために村を出発した。仮に吸血鬼がこちらの意図に気がついたらコウモリを仕向けられ命を奪われかねない命がけの勇敢な任務、それを引き受けてくれた。
「皆さん集まりましたか、それでは出発しましょう」
一方では別の兵士さんが村の人を集めて森を通って人々を避難させるために準備をしている。コウモリが村に来るのが早いか彼らが森に向かうのが早いかの時間との戦いの中見事勝利したであろう兵士さん達は人々と共に森へと向かっていく。
そうして森へ向かった人々の姿が見えなくなった時だった。コウモリが次第に大きくなって遂に村の手前の野原のにたどり着いた。
「来たぞ! 皆くれぐれもコウモリだからと油断しないように! 」
お父さんが戦うために村の門の前に残った私達に号令をかける。
こちらは何人か村の人も残ってくれたけれど前述の通り兵士さんを全てコウモリとの戦いをしてもらうわけにもいかず、数十人とコウモリとはいえざっと数えて数百、ひょっとしたら千体以上を迎え撃つには戦力差が絶望的に思えた。
でも、絶望的だからこそ、もし私が皆と協力してあの吸血鬼からこの村を守ることが出来たら、トーハさんも生きているかもしれない。
そう祈りながら白いブレスレットを見つめると気のせいだろうかブレスレットはいつもより輝いて見えた。
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