14‐9「星空を覆う影」♢
「見つけた! 」
トーハさんのいた洞窟を探し始めた私達はようやく森の中に洞窟の入り口を発見した。日が沈みかけていて辺りは既に闇を黒く染まりかけていた。
急いで中へ入ろうとする私をお父さんが肩を掴んで引き留める。
「待ちなさい、彼のいた洞窟とは限らないんだ。仮にそうだとしても既にモンスターが住処にしているかもしれない」
父にそう指摘されて、私は自分の軽率さを恥じた。彼の言っていることは間違いではないのだ。私が立ち止まるとお父さんは私よりも前に出て洞窟と向き合う。
「ダイヤ、『光の魔法』を」
「『フラッッシュ』! 」
言われるがままに『光の魔法』を放つと丁度杖の先辺りに光球が出現し辺りを照らす。これで洞窟の中も見ることが出来そうだ。
「誤って彼を斬ってしまわないと良いのだが」
お父さんはそう心配そうに剣を構えると洞窟内へと足を踏み入れた。
洞窟に入ってしばらく岩肌に沿って進むと大きな広場にたどり着いた。
「用心するんだ、何かがいるかもしれない」
慎重に一歩一歩踏み出しながら中を照らして回る。所々に松明をさすための場所があったけれど、どこもしばらく使われた形跡はない。探索を続けると何か黒い物体が隅にあるのが見えた。何だろう? とそこを照らすべく杖を動かす。
「あっ……」
思わず照らされたものを見て気分が悪くなる。そこには腐敗したゴブリンの死体が存在した。
「これは、こうなってからしばらく経っているな。共食いか。安心していい、彼ではない」
お父さんは冷静に私を励ますように口にする。思わず、杖を動かすと困ったことに幾つも通路があることが判明した。
「ここに、死体がそのまま放置されているということはモンスターがここにいることはなさそうだが、これだけあると彼を探すのに骨が折れそうだ。1つずつ向かってみよう」
お父さんの言葉に頷くと私達は左の通路から順番に探索を始めた。
♢
「空振りか」
お父さんが残念そうに口にする。すると考えないようにしていた最悪の推測が頭を過る。
「まだ、隠し通路があるのかもしれない。探してみよう」
私はその推測を認めまいとお父さんに訴えるもお父さんは首を縦に振らない。
「残念ながら、その可能性も考えて隠し通路がないか探ってもみた、しかし見当たらなかった」
「それなら、きっと今頃トーハさんはこの洞窟を出てどこかに……」
「確かに、その可能性はある。ただそうだとするとまず彼ならダイヤのように真っ先に仲間の1人であるダイヤと合流しようとするのではないか? 」
ズバリと言われてしまい俯く。お父さんの言う通りだ、トーハさんなら魔王の魔法の正体を見抜いて洞窟を出たら近くにいる私に何とか接近しようとしてくれるはずだ。そうなると、もう残った答えは1つしかない。
「改めて確認させてくれ」
お父さんが真剣な顔で私を見つめる。それだけでもう次に何を言うのか想像できてしまい思わず息が詰まる。
「ダイヤは、トーハ君が魔王にどこかへ跳ばされるところを見ていないんだね」
遂にこの時が来てしまった。答えたくない質問だった。でも答えないといけない、答えてそれを認めないと今後の行動を決定することができない。
決意をするも言葉にならず、私は何とか頷いて同意を示した。
「そうか、それならば……非常に言いにくいのだが、トーハ君はまだスーノにいるということになりそうだな」
私が考えていた最悪の推測、それをとうとうお父さんが口にしてしまった。私は彼のことを信じている。でも、心配なのは彼が無傷なのかどうか、魔王に勝つために自分の身を顧みない方法で戦って重傷を負ってはいるかもしれない。今頃1人で起き上がる力もなくて森の中に倒れているかもしれない。
「トーハさん! 」
私は堪らずに駆けだす。
「待ちなさいダイヤ、どこにいくつもりだ」
お父さんが私の肩を掴む。私は振り返るとお父さんの顔を見つめ手を放してもらうように訴える。
「スーノに、トーハさんの所に行かないと」
「待つんだ、今から馬車を掴まえても今日の船には間に合わない。それにそこからスーノへ向かうには……」
お父さんは続きを言わなかった。でも、何が言いたいのかは伝わった。私が今から向かっても数時間どころか1日でもスーノに着くことはできない。もう、間に合わないかもしれない。
「トーハさん……トーハさん……」
ふいに身体の力が抜けてがっくりと地面に膝をつく。洞窟内のひんやりとした冷気が身体に伝わって段々と体温が奪われてしまうけれど起き上がる気になれない。
「しっかりするんだ、ダイヤ。とにかく今日は家に帰って休もう、それで明日早朝に出発だ」
お父さんは私を優しく起こすと何度もそう私に語り掛けた。
♢
どれほどの時間が経ったかは分からないけどようやく起き上がった私は何も言わずにお父さんの後ろについて行って洞窟を出て森を出た。
「ダイヤ、とりあえず今日はゆっくり休みなさい」
お父さんが優しく私に語り掛ける。これ以上、お父さんに心配かけるのも辛いので私は何とか笑顔を作って微笑んで見せた。既に日が沈んで周囲は暗くなっている中で月と星だけが世界を照らす。
もしかしたら、トーハさんは無事でこの星をどこかで見ているのかもしれない。
ふとそんな気持ちになって空を見上げた。綺麗な星空だった。
「あれ? 」
でも、その星々を覆うような小さいけれど数が多い何かがと森の向こう、ニンビギの方向辺りに見えた。
動いているみたい、何だろう?
目を凝らしてその何かを見つめる。次の瞬間私は「あ! 」と声を上げた。コウモリだ。無数のコウモリがこちらに、トータスに向かってきているんだ。吸血鬼の姿が浮かぶ。
「どうしたんだ、ダイヤ」
「お父さん、戻りながら説明するから村に戻ろう! 早く」
声を張り上げたのに驚いて尋ねるお父さんにそう答えるとともにお父さんの手を引いて村へと目掛けて駆けだした。
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