14-11「コウモリの襲撃」♢

「御機嫌よう、トータスの村の皆さん。どうやらお集まりのところを見るとこちらの接近にお気付きのようでしたか。早速で申し訳ないのですが貴方方には死んでいただきます。恨むのなら私に、魔王様に楯突いたガーネットの者を恨むのですね キキッ」


 吸血鬼が夜空に浮かび両手を広げて高らかに宣言する。完全に油断している今、『イクスプロージョン』ならコウモリ毎倒せるかもしれない。でもあの魔法は盾も何もない状態だと村や森を巻き込んでしまう恐れがあり使えない。


「ガーネットって……」


「もしかして、あいつは魔王の幹部なのか? 」


 吸血鬼の言葉にある者は私とお父さんを見つめてある者は吸血鬼を見つめる。村を守ろうとする人々に動揺が走る様子を楽しみながら吸血鬼は笑った。


「ええ、やはりガーネットの者はこちらにいらっしゃったようですね。ご安心ください、きちんと娘さんにはご家族の死をおしらせしておきますから」


 遠いからだろうか? まだ私のことは気が付いていないみたいだ。吸血鬼は愉快そうに私達に向けて右掌を翳す。


「さてさて、この小さな村に果たして私のこの最高火力の魔法を受け止められる方がいらっしゃるでしょうか? 『ファイエア』 ! 」


 吸血鬼が呪文を唱えると巨大な火の玉が出現する。その火の玉は私達を焼き尽くすべく勢いよく私達目掛けて飛んできた。


「な、何だあれ。幾らダイヤちゃんがいてもあんなの1魔法使いの『盾の魔法』で防げる威力じゃない」


「魔法だ! こちらも攻撃魔法で相殺するんだ」


「そんなの無理だ! 」


「大丈夫です、皆様はこの後の攻撃魔法の用意をお願いします」


 動揺する皆を励ますように私は声を張り上げると共に杖を構える。


 確かに今まで見た中でも強力な魔法、でも守ってみせる!


「『シルド』! 」


 呪文と共に火の玉を阻むべく『盾の魔法』が出現する。


 ドォン! という衝撃音とともに吸血鬼の魔法と私の魔法はぶつかり合った。


「皆攻撃魔法の準備を! 」


 目の前に迫っている火球に怯まずお父さんが声をかける。すると人々が掌を空へと向けた。


 そうだ、ここで終わらせない。この攻撃を耐えて反撃に繋いで村を守るんだ。


「はあああああああ! 」


 少しでも魔力を振り絞ろうと杖を握る。その甲斐あってか火球は吸血鬼の魔法は私の魔法を打ち破ることなく消え去った。


「私の魔法を……今の盾の魔法はもしや……キキッ、魔王様は粋な計らいを」


「今だ! 皆、『ファイエア』! 」


「『ウィンディ』! 」


 火球が消えたのを見届け私が魔法を解除するとともにお父さんの号令で一斉に攻撃魔法が夜空に放たれる。


 ギエエエエエエ!


 その魔法は次々とコウモリに命中していくつもの断末魔が響き渡った。


 吸血鬼の様子を見る。彼は攻撃魔法を翼を駆使して右へ左と交わしながら一点を、私を睨みつけていた。


「まさかここにいるとは、驚きですよダイヤ・ガーネット キキッ」


 上空から私に笑いかける彼を見て脳裏にある疑問が浮かぶ。


 どうしてこんなに魔法が飛び交う中で吸血鬼は『デリト』、どんな魔法も打ち消す魔法を使わないのだろう? もしかして使えない?


「『ウィンディ』! 」


 使えないのだとしたら好機だ、私は『風の魔法』を吸血鬼に向けて放つ。鋭い音を立てながら魔法が吸血鬼を目指して突き進む。するとその様子を見て吸血鬼は右掌を翳した。


「『デリト』! 」


 吸血鬼の魔法により私の魔法は消え去った。合点がいった。あの吸血鬼は私の魔法だけを消し去るために今まであの魔法を使わなかったんだ。


 でも、どうしてだろう?


 疑問が頭をよぎる。でも、そのことをよく考える前に吸血鬼の声が耳に入ってくる。


「あの魔法使いの魔法さえ抑えればあとは一斉に葬る手段はないでしょう、さあ行きなさい! キキッ」


 吸血鬼が右手を大きく上げて振り下ろす。すると何十匹といったコウモリがこちらに恐ろしい形相で向かってくる。

 再び杖を構える。しかし呪文を唱えるか躊躇った。私の攻撃魔法は消耗も『イクスプロージョン』ほどではないけれど激しい、数発が限界というわけではないのだけれど吸血鬼にたどり着いたら消されてしまった千体いる中の数十体しか倒せないとなると長期戦になるであろうこの戦いで不利に感じた。


 それなら──


 私は目の前に落ちている小石を拾うとコウモリの頭上目掛けて全力で投げる。狙い通り、小石は綺麗な放物線を描きコウモリの頭上手前に至る。


「『マキシマァム』! 」


 私が魔法を唱えると共に小石がみるみる大きくなり丁度コウモリの頭上に位置した時に巨大な岩となりコウモリを巻き込み地面にズシン! という音と共に落下した。思っていた通りで攻撃魔法よりこちらのほうが体力の負担は少ない。


「おのれ、ダイヤ・ガーネット」


 吸血鬼が怒りに身を任せて叫ぶ。コウモリ達の司令塔である吸血鬼が取り乱してくれたお陰でこちらに余裕が生まれた。吸血鬼の魔法の謎を解くべく頭を働かせる。


 どんな魔法も打ち消すことができるという吸血鬼がこうして私の魔法を警戒するのはこれで2度目だ。1度目はトーハさんと2人で対峙した時。あの時も私の魔法を防いで自らの魔法を誇らしげに語りながらも私が追撃できないように森の木のてっぺんギリギリ辺りを飛行していた。

 それは一体どうしてだろう?


 考える。すると1つの仮説が浮かんだ。丁度その時、お父さんが私を見つめていることに気が付いた。


「ダイヤ、いつの間に攻撃魔法を……しかしせっかくダイヤが立ち直って来てくれたというのにダイヤの魔法が効かないというのは痛いな」


「ううん、お父さん、もしかしたら私吸血鬼のあの魔法の秘密が分かったかもしれない」


 吸血鬼の姿を見ながらお父さんにそう返した。

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