13‐11「解けた魔法」♢

 トーハさんとの会話を終えた私はお兄ちゃんの待つ場所へと向かって地面に杖が付く度にカチャリカチャリと音を鳴らしながら木々の間を渡り歩く。100メートルくらい歩いた木々に囲まれて広場のようになっている場所に1人で黄金の鎧に身を包んだお兄ちゃんが立っていた。彼は音でこちらに気が付いたようで私の姿を見るとニッコリと微笑む。


「懐かしいね、ここを見ると昔冒険した時のことを思い出す」


 彼はそう言いながら辺りを見回す。彼の言う通りでこの場所はどことなくよく遊んでいたドンカセの村の広場に似ていた。ふとお兄ちゃんと私、そして親戚のアゲートさんと3人でいた当時の記憶が蘇る。


「アゲートさんと3人でのジュエリースリー、懐かしいなあ」


「色々冒険したけど、僕はオパール怪人を倒したのが面白かったな」


「私たちが3人だったからかお父さん本気なんだもん。びっくりしちゃったよ」


「最後はダイヤの魔法で倒したんだったね、盾の魔法と言いながら杖で父さんを叩くのにはびっくりしたよ」


「その話はやめてよ」


 他愛のない昔話をする。私はもっとお兄ちゃんに伝えたいことはあったし聞きたいこともあった。でも、その時間は終わってしまったみたいだ。


「それじゃあ、行こうか。昔話をする時間はこれからも沢山あるんだから。自暴自棄になったあのゴブリンにでも襲われたら面倒だ 」


 お兄ちゃんがそう言うとスタスタと歩き始める。恐らくあの先に村があるのだろう。しかし、私は歩く代わりにぎゅっと杖を握った。


「私は……私は今のお兄ちゃんとはいけない。トーハさんと、皆と旅をしたい」


 彼がピタリと立ち止まる。


「それは残念だよ」


「でも、お兄ちゃんがトーハさんと旅をするのを許してくれるなら、私は5人で旅をしたい。お兄ちゃんとトーハさん、スペードさんにクローバーさんと一緒に! 私達は今までもトーハさんが見つからないようにしてきたんだからこれからもきっと大丈夫だよ」


 気が付くと私の顔が熱くなっている。お兄ちゃんがトーハさんとは旅に出れないと言い出した時から思っていた私の気持ち、伝わったかな? できればこれで「一緒に旅をしよう」と言って欲しい。そんな期待を込めてお兄ちゃんを見つめる。


すると背を向けていた彼はこちらを振り向き私に近付くと私の肩にポンと優しく右手を置いた。


「ダイヤの気持ち、伝わったよ。それがダイヤなりに考えて出した結論なんだね」


「お兄ちゃん、それじゃあ……」


 彼の答えに気持ちが明るくなり嬉し涙を拭おうとしたその時だった。


「でもまあ、そんなのどうでもいいんだけどね」


 冷たい声が響き渡る。それを発したのは紛れもなくお兄ちゃんだった。突然のことに半信半疑でいると次の瞬間、私の肩に置かれていた右手が私の首を掴む。


「……お……………………て」


「お兄ちゃんどうして」と尋ねたくても声がでず言葉にならない。するとお兄ちゃんはこれまでの優しい表情が信じられないくらい恐ろしい形相でケタケタと笑い出した。


「フッフッフッフッフ、喉を掴まれたら呪文を唱えられないだろ? 幾ら伝説の杖があっても呪文が唱えられないなら意味はないよな。苦労したんだぜ、お前をここに1人でおびき出すために俺なりに頭を使ってさあ。それでどうだ? 生きていると思いこんでいた大好きなお兄ちゃんに首を絞められる気分は? 」


 私の顔を覗き込む。すると再び笑い出した。


「そうそう、その顔が見たかったんだよ。青ざめて涙を流してさ、最初に会った時の大好きなお兄ちゃんが死ぬときの顔もなかなかだったけど、今回はもっとすげえなあ。最高だよダイヤぁ。俺はすっかりお前のその絶望する顔に惚れちまった、どうだ? 兄の死と自分の死を同時に突き付けられる気分は」


 涙が止まらず視界がさざ波のように揺れる。そうか、この人はお兄ちゃんじゃなかったんだ。もうお兄ちゃんは生きていないんだ。


「ああもう意識が薄れてきたのかな? つまらないな。なら最後にこの馬鹿な男がどうやって死んだのか教えてやるよ」


 これ以上何も聞きたくはなかった。魔法は解けてしまった、だから、私も……


「な、どうしてお前がここに! ? 」


 私が決断をすると同時に、驚きの声と共に目の前に剣を構えた鎧の男性が姿を現わす。


「おおおおおおおおおおおおおお! 」


 鎧の男性……トーハさんは声を尖らせて叫ぶとともに敵に反撃する隙も与えず素早く剣を彼の左胸に突き立てた。

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