13-10「パーティー追放の危機」
伝説の剣ではなかったけれど勇気という人物曰く宝物という重大なアイテムを手に入れた俺達はランプで縄の焦げ目を頼りにして道を引き返し元の洞窟の入り口まで戻っていた。
「いやー、夜風が気持ちいいな〜」
洞窟から出る手前でスペードが伸びをする。数時間洞窟に入っていたので同じ気持ちだったけれどここで気を抜けない。
「まだ安心はできない、近くに縄を燃やした人物がいるかもしれない」
そう忠告しながら剣に手をかける。
「そういやそうだったな、ったくどこのどいつだ見つけたらタダじゃおかねえぞ」
一瞬で切り替えた彼女はそう言うと月明かりに照らされる木々を鋭い眼光で見つめるのであった。それから意を決して洞窟を出てみるも襲撃をされるということはなかった。
「……ざっと見渡したけど誰もいない」
月明かりを頼りに周囲を確認したクローバーが口にする。目のいい彼女がそう言うのなら心配はないだろう。
「くそ、逃がしたか」
スペードが悔しそうに岩に手を突いたその時だった。
「ちょっといいかな」
トパーズさんが断りを入れるとダイヤに声をかける。
「どうしたの? 」
ダイヤが不思議そうに彼を見返す。俺達も釣られて彼の顔を見る。というのも理由は不明だけれどトパーズさんはあの宝物を触れて以降ここに来るまで一言も言葉を発していなかったのだ。
「実は、ずっと考えていたんだけど」
トパーズさんが真剣な表情で言葉を紡ぐ。
「やっぱり、僕はダイヤがゴブリンと旅をするのを許可することはできない」
──え?
突如胸にぽっかりと穴が開いた感覚に包まれる。
「どうしたのお兄ちゃん、洞窟の中ではトーハさんのこと認めてくれるって……」
動揺を隠せない様子のダイヤに彼は淡々と告げる。
「でも、これから先は旅も厳しくなるだろう。そこでゴブリンと旅をしていることが判明するだけで不利になるかもしれない。急なことですまないけどダイヤ、彼とはここで別れよう。他の2人は問わない。100メートル先の来るときに見かけた木々のない広場で待ってる。いい返事を期待しているよ。これまでありがとうゴブリン君」
彼は言うべきことを言うとスタスタと指定した場所まで歩いて行った。
「どうしちまったんだよ急に」
「そうですよ、どうして……」
「……怖い」
3人がそれぞれが彼の提案に驚きの言葉を口にするも今の俺には遠い場所でのことのように聞こえた。
「じゃあ、これからの人生を左右することだ。俺がいたら邪魔になるだろうから向こうに行く。皆よく考えて」
俺もそうとだけ告げると幽霊のようにおぼつかない足取りでその場を離れトパーズさんとは真逆の方向へと歩いて行った。すぐにその場を去ったトパーズさんと違って俺についてきてもらうことのアピールをすることもできたのだけどそういうのを元々好まないというのもあるがあの巨大な雷の剣を操れる男性とゴブリンの俺ではもう悔しいことに俺自身が答えを出していた。
「皆、本当に強くなったからなあ」
ひとしきり歩いた後、地面に座り空に点々と輝く星々をみて呟く。ダイヤもスペードもクローバーも本当に強くなった、彼女達との冒険の記憶が星のように眩しく輝いて見え、消えた。今の彼女達ならばもしかしたら魔王すらも倒せるかもしれないのだ。
「そうだ、別に俺が魔王と戦う必要はない。ダイヤ達が戦って勝ってくれればそれでいいんだ」
そう、そのはずだ。魔王を俺が倒さなければならない、なんてことはないだろう。ダイヤ達が倒して俺が元の世界に戻る。それでいいように思えた。それならば別れるときも後腐れがない。
それまで俺は、セイが許してさえくれればゴブリンである俺を受け入れるといってくれた彼女と一緒に暮らすとかはどうだろうか。俺がそんなことを考えた時だった。
「何1人で盛り上がってんだよ」
ガサガサと物音がしたかと思うとスペードがひょっこりと顔を表す。
「何ってこれからのことを考えていたんだ」
「なるほどなあ」
彼女なりのやさしさなのか彼女はそう言ったきり何も言ってこない。少女はただ黙って横に腰を下ろして俺のことを見つめている。茶色の髪が夜風でゆらゆらと揺れる。その様子を見ていると俺の中である決意が固まった。恐らくこれが最後だから洗いざらい彼女に打ち明けてしまおうという決意だ。
「情けない話だけどさ、俺。ダイヤがドラゴンを倒した時は嬉しかったけど、一瞬考えちゃったんだ。『これでもう俺はいらないな』って……だってドラゴンを倒せるんだ! それまでも盾の魔法だけでも凄い魔法使いで誰からも誘われないって言うのはおかしいって考えていたけど今までの彼女とは違う。もう引く手数多なんだ。そんな彼女がわざわざ見つかったら大騒ぎになるリスクを持ってるゴブリンと旅をする必要なんてないだろ? 」
俺が考えていたことをつい熱くなって早口で言い終えると彼女は俺を抱き寄せた。彼女の熱が鎧を通して伝わる。
「そんなこと考えながら旅してたのか、辛かったな。ドラゴンの件はオレも同じだ。オレもあの時は驚いたよ。でもさ……」
「……ボクも驚いた」
「クローバー! ? 」
「ダイヤが私は洞窟に隠れて心配いらないからタアハのところに行って欲しいって」
「そっか、最後まで心配かけちゃったな。ごめん」
クローバーは首を横に振る。
「……むしろ安心した。タアハも自分のことで悩んでいるんだなって。でも」
「でも? 」
突然現れた逆説の単語にドキリとする。国語ばかりか英語の授業でもこういう逆説表現は今までの逆かつ言いたいことが来ると聞いて思わず身構える。
そういえば、スペードも何か言いかけていたような……
2人の顔を見ると2人は顔を見合わせる。どうやら2人の言いたいことは同じのようだった。そして暫しのアイコンタクトの末にスペードが続きを話すと決めたようで彼女が口を開く。
「でもさ、それはトオハが考えたことであってダイヤが言った訳じゃないだろ? ダイヤが一言でもトオハと旅をするのは嫌だって言ったか? 」
「……それどころか、さっきのトラップで死んでしまうかもしれない時、真っ先にタアハの元に飛び出してた」
「それは……」
「ちなみに、オレはさっき伝えた気持ちは変わってないからな」
「……ボクも」
「2人とも……」
2人が俺の両肩に手を置く。2人の手はとても温かかった。
「まあ、これで万が1、億が1でもダイヤがもう嫌だって答えたら3人で旅をしようぜ」
「……うん」
「ありがとう」
「よし行ってこい! 」
その声とともに2人が背後に回ったかと思うと俺の背中を押す。俺はそのまま先ほどいた洞窟に向かって走り出した。
「しかし、本当に何でダイヤの兄ちゃんは急にあんなことを言い出したんだろうな」
「……あの宝物に何か悪いものでも流し込まれたとか? 」
2人の会話が耳に入る。すると頭の中でカチリと何かがハマった。
「まさか、そんな恐ろしいことが……」
思わず立ち止まる。
「おい、どうしたトオハ立ち止まって」
「……ダイヤを信じて」
心配した2人が声をかける。伝えたかった。しかし、証拠がない。伝えるとしたらまずダイヤに伝えなくては……そうだ、クローバーの言うように彼女を信じよう。
そう決心した俺は再び走り出すと立ち止まることなく彼女のいる洞窟を目指した。
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