13‐12「意外な一言」
「ぐっ……」
俺の突き出した剣で左胸を貫かれたトパーズさんに化けていたモンスターは顔を歪める。と力なくその場に倒れた。
「が……ゴホッ……ゲホッ……」
力を失ったモンスターが放したダイヤを受け止める。彼女は激しくせき込んだ。
「大丈夫? 」
「はい……ゴホッ……何とか、助けていただきありがとうございます」
彼女が胸に手を当てて胸が上下するのを見て呼吸が再開したことを確認し安堵のため息を漏らす。彼の心臓は確かに突いた。恐らくもう立ち上がることはないだろう。これにて一件落着だ。
俺の推測通り、彼は胸を抑えているが身体は以前見たトパーズさんに似たモンスターのように身体の一部が液体に変形していた。
「ぐっ……小さくなって隠れていたか……しかし、俺が偽物だとどうして分かった」
かろうじて維持しているであろう顔をこちらに向けものすごい剣幕で睨みつけながら彼は尋ねる。モンスターの指摘通りでで俺はスペードとクローバーに見送られた後この疑惑を伝えた後ダイヤと彼の会話は絶対に聞かないからと懇願して彼女に小さくしてもらいずっとダイヤの杖に隠れていたのだ。
負けじと睨み返して答える。
「仲間を殺してみせた時に教えてくれたじゃないか、このモンスターは血が出ないって。それでオークにやられた時血が出ないのはそれが原因だったのかって思ったのが1つ、2つ目はあの宝物、あれは無差別に力を奪い取るのではなく邪悪な心とかに反応して発動するんじゃないかって、現にここに来る前にダイヤにも触ってもらったけれど何も起きなかった。そして何より……」
ダイヤに視線を移す。
「ダイヤの様子がおかしかった。念願のトパーズさんに会えたっていうのにどこか疑いがあってそれを拭おうとしても拭えないとでも言いたげな接し方だったから」
「なんだと? 」
彼も驚きの表情でダイヤを見る。すると彼女は両手を覆いながら答えた。
「ずっとおかしいと思っていました。理由は分かりませんけど、この人はお兄ちゃんじゃないって、でも、信じたかったんです。お兄ちゃんは生きていたんだって……」
「そう、だったのか」
彼はそう口にするとどういうわけかこれまでの恐ろしい形相から一転して穏やかな顔をする。
「不思議だ、任務を果たせなかった申し訳なさや欺かれた怒りはある。だがそれと同時にだがこうなってよかった。そんな気がする…………ダイヤ、死ぬなよ」
意外なことに彼は最後にダイヤにそう伝えると液体となって消えていった。
「……ごめんなさい、私がもっと早くお兄ちゃんが偽物かもってお話していれば、トーハさんを傷つけることもなかったのに」
体を起こした彼女は涙を手で拭う。呼吸は乱れておらず回復したようだ。
「俺こそ、確証もないのに突然お兄さんは偽物かもしれないとか失礼なこと言ってごめん」
「いえ、私もお兄ちゃんではないかもしれないと思っていましたから。それにトーハさんの推測は当たっていましたし」
先ほどまでトパーズさんに化けていたモンスターがいた場所を見る。液体は地面に染み込んでしまったのか既にそこには何もなくなっていた。
「ダイヤ、歩ける? 」
「はい、ご心配には及びません……きゃっ」
不意に彼女が倒れた。やはり先ほどまで首を絞められていたのと兄の死を突き付けられた心労は計り知れないものだろう。
「少し休んでいこうか」
「いえ、問題ありません、早くスペードさん達と合流しましょう」
「わかった、じゃあ乗って」
彼女に背を向け足を曲げ姿勢を低くする。
「いえそんな、トーハさんを
「いいから、この身体になって力だけは自身あるからさ」
そう俺が彼女の説得して彼女を背負い出発しようとした時だった。
「……トーハさんはいなくなりませんよね」
不意にダイヤがか細い声でポツリと呟く。
「いなくならないよ、魔王を倒すって約束したじゃないか。といっても、ダイヤがよければだけど。トパーズさんじゃなかったとはいえ彼の言うことも事実ではあるから……」
俺は振り返らずに正直な気持ちを彼女に伝えた。
「ありがとうございます。大丈夫ですよ、先ほどもお話ししましたがこれからもトーハさんと旅をしたいと思っていましたから」
「先ほど? 」
何のことだろうと俺が首をかしげると彼女がクスリと笑った。
「トーハさん、本当に聞いていなかったんですね」
もしかして俺のことを試していたのだろうか。そんな考えが頭を過ったけれどその疑問よりも俺にはダイヤが俺と旅をしたいといってくれたことが嬉しかった。
一刻も早くスペードとクローバーにお礼を言おうと歩き出そう、と脚に力を込めた時だった。
パチパチ、パチパチパチパチ
上空から雨あられが地面に当たった時のような音がする。ゲリラ豪雨だろうか? 神経を集中させるも雨が身体に当たる感覚はない。そもそも雨あられは何かに当たった時に音が出るのに上空に何もないこの場所で音が聞こえるというのも妙な話だ、と考えながら上空を見上げる。
「良い見世物でしたよダイヤ・ガーネット、キキッ」
見上げた空の先には大きな羽をバサバサと広げて空を飛ぶ八重歯を光らせたスーツ姿の男がいた。
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