13-3「兄との再会! ? 」
円陣を組んで戦闘を始めて数十秒、俺の前のコウモリは全て討伐され動かなくなっていた。腰に掛けたランプからみえるのはコウモリの死骸と血に染まった地面ばかりでこの世界が血に染まったようにも感じる。
「ラスト! 」
スペードの声がする。どうやら彼女も目の前のコウモリは倒したようだ。そして襲われていた剣士も倒したようで剣を鞘に収める音がする。
「おかげさまで助かったよ」
剣士が俺に手を差し伸べる。
「貴方は一体……」
「マジかよ……」
スペードは今初めて彼を見たようで思わず後ずさりをする。それを見た男性は頬を掻きながら笑みを浮かべる。
「参ったな、そんな驚かれるようなことをした経験はないんだけど。そうだね、自己紹介をしないと。僕は──」
「トーハさん、スペードさん。大丈夫ですか? 」
「……良かった、2人も襲われていた人も無事みたい」
男性が名を伝えようとしたタイミングでダイヤとクローバーが現れる。しかし、2人にも男性の姿が見えたようでふと残り数メートルというところで立ち止まった。
「え、どうして」
「……ウソ」
2人も男性の容姿に驚いているようだ。それもそのはずで何と男性の容姿は今立ち止まったダイヤにそっくりだったのだ!
「お兄ちゃん……」
「ダイヤ……」
男性も彼女に気が付いた様子だった。そしてこの反応は間違いない。男性の正体は先に冒険に出た後に行方不明になったと聞いたダイヤの兄トパーズさんだったのだ!
「ダイヤ、無事だったのか」
「嘘、嘘、だってお兄ちゃんは……」
満面の笑みを浮かべて彼女に迫るトパーズさんに対してダイヤは信じられないものを見たとでも言うように震えながら後ずさりをする。
その時だった。
「ぐっ……」
一気に俺に先ほどの『強化の魔法』のフィードバックが訪れる。慣れによりしばらく動けなくなることこそなくなったが、今でも短距離走を全力で走り終えたかのような感覚に襲われ満足に動けるようにはなっていない。横を見るとスペードも同じ様子だった。
「ったく、感動の兄妹の対面ってときにオレ達は何をやってんだろうな」
笑いながら自虐をするスペードに笑みを返す。しかし、その瞬間一抹の不安がよぎった。
もし、ダイヤの反応が正しかったとしたら?
「スペード、伏せろ。ダイヤ! 」
俺がそう言うとともに自身の身体を地面に倒すとともにスペードの背中を押す。
「『シルド』! 」
ダイヤが呪文を唱えたことにより彼女とクローバーの周りにシールドが展開される。
「なんだ? どうしたんだよトオハ、それにダイヤも。兄ちゃんなんだろ? 」
「そうだ、どうしたんだダイヤ。……分かった、あの吸血鬼に何かを言われたんだな? 大方僕があの幻想の街で死んだとでも」
ダイヤは答えない、しかし杖を下ろしかけている様子を見るに図星のようだ。
「それは勘違いなんだ。僕はあの時、重傷を負ったものの死んだように見せかけて上手くあの砂漠のモンスターも吸血鬼もやり過ごしたんだ」
砂漠のモンスター、というのは恐らく幻想の街を進んだ先で出会ったあのワームのことであろう。しかし、吸血鬼とは……
「吸血鬼? 」
「『キキッ』が口癖というほうが分かりやすいか」
「それって……」
ダイヤが心当たりがあるようで恐る恐る口にする。
「そうだ、その男が吸血鬼なんだ」
「どういうことだ? 」
スペードが首をかしげ俺に囁き声で尋ねる。
「多分、船で会ったダーン伯爵が吸血鬼ってことだと思う」
「マジかよ」
彼女が驚きの声を上げる。俺にも信じられないことだけれど幻想の街を出るときにダイヤがダーン伯爵は敵と言っていたことと伯爵の特徴的な『ククッ』という笑いから近い存在であるのは確かだと思えた。
「でも、そんな情報を知っているってことは」
スペードの疑問に俺は頷く。
「確かに、敵ならそんな味方の情報を喋るはずないだろうけれど」
俺がそう言ってダイヤを見ると彼女も同じ気持ちだったようで杖を下ろしかけていた。
「お兄ちゃん、なんだよね。本物の」
「ああ、そうだよ」
男性が彼女に微笑みかけた時だった。突如草むらからザッという音と共に何者かが現れた。
一瞬の出来事だった、突如現れたその存在は剣を抜いたトパーズさんの咄嗟の右からの一振りを身を低くして躱したかと思った次の瞬間には自身の剣をトパーズさんの胸に突き立てた。
「お、お兄ちゃん! 」
目の前の兄が胸を一刺しされる残酷な光景にダイヤが悲痛な叫びを上げる。しかし、それすらも一瞬のことだった。
次の瞬間にはダイヤも、スペードもクローバーも俺も仇である者の姿を見てあっと声を上げる。
何とトパーズさんを刺した者は彼と同じブロンドヘアに黄金の鎧を着た瓜二つの男だったのだ!
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