13‐2「手負いの剣士」

 氷の城を後にしてエントの街まで馬車で送ってもらった俺達はそこから馬車を拾ってひたすら夜の森を進み西を目指していた。


「いやーまさか連日パーティーなんてびっくりだぜ、ドンドコがあったエルフのパーティーも女王様のパーティーも最高だったな」


「そうだね、俺も2日連続大きなパーティーを開いてもらうなんて初めてだよ」


この世界では太鼓のことをドンドコと呼ぶということも学んだ俺はスペードの言葉に頷く。


「更に伝説の剣の情報も手に入ってありがてえんだが、西といってもなかなか曖昧だな」


「父の情報によると最西端はルトゥエブという村だそうですが現地の人にお話を伺ってみるのがよさそうですね」


「……ルトゥエブ」


 クローバーが意味深に繰り返す。


「クローバー、もしかしてルトゥエブは……」


 俺が言いかけると彼女が頷く。


「……隠していても仕方がないけれど、ルトゥエブはボクの故郷なんだ」


「そうか、最西端ってなるとかなり遠いところからあの港にいらしたのですね」


「……うん」


「洞窟があるかはともかくとして寄ってみようか? 」


 俺がそう言うと彼女は不安げに俺を上目遣いで見つめる。


「……いいの? 」


「勿論」


 俺は笑顔で答えた。


「駄目なわけがあるかよ、ところでクローバーはその洞窟に関しての心当たりとかはあんのか」


 一同の視線が彼女に集まる。彼女は目をつぶって記憶の糸を一生懸命にたどり始めたようだ。


「……そういえば、昔一度だけお父さんから聞いたことがある。村から東に行ったところに洞窟があるけれどそこに入った冒険者は誰一人として帰らなかったから入っちゃダメだって」


「そっか、話してくれてありがとう」


 情報と共に亡くなった家族との思い出を話してくれた彼女にお礼を言うと「大丈夫」と彼女が微笑みかけてくれた。


「じゃあ、そこの洞窟に行ってみるか。御者なら詳しいかもしれねえ。なあ」


 スペードが窓を開いて御者に声をかけるのを見守りながらダイヤがポツリと呟く。


「でも、誰も生きて帰った人がいないとはどういうことなのでしょう」


「時期を考えると魔王が生み出した強力なモンスターはいないはずだけれど」


「……罠、かな」


「そうですね、神話のモンスター以外にも大型のモンスターは存在しますけれどそれですと誰一人帰らないというのもが少し引っ掛かりますし」


 俺達が洞窟に待ち受ける存在について考えていた時だった。


「おい大変だ」


 スペードが剣に手をかけるとともに大声をあげてこちらを振り返る。


「敵? 」


 俺が尋ねると彼女が頷く。


「ああ、コウモリの群れだ。それに1人戦ってる」


「コウモリか、急ごう」


 ダイヤの『光の魔法』で目をくらませてその隙に突っ切ろうとも考えたけれどそれは馬の目もくらませてしまうばかりか人を見捨てることになるので真っ向からぶつかることになった。


「馬車を止めてください」


 俺がそう言うや否や馬車はすぐさま急停車した。危うく崩れ落ちそうなところを堪えて外へ出ると1人の剣士がコウモリと戦っているのだが、その男は様子がおかしかった。右手しか動いていないのだ、手負いのようだ。


「まずい、ダイヤ! 『強化の魔法』を! 」


「はい、『エンハンス』! 」


「いくぞ、『エンハンス』! 」


『強化の魔法』で赤いオーラを纏った俺とスペードが木々をかき分けコウモリの場所へと向かう。暗闇でクローバーがあまり狙いを定められないであろうこと、敵の数が多いこと、手負いの剣士がいることを考えるとここは速攻勝負だ!


 ブン! と1匹目のコウモリに斬りかかる。上がる血しぶきを気にせず次は横から2匹目、3匹目と切り捨てていく。俺の隣ではスペードが剣と刀で同じようにコウモリを切り裂いていた。そうしてコウモリを切り裂くとようやく男の元にたどり着く。


「大丈夫ですか? 」


 黄金の鎧に身を包んだブロンドヘアの男性に声をかける。


「助けてくれるのか、ありがとう」


 こちらを振り向き爽やかに微笑みを浮かべるその男性の顔を見て呆気にとられる。


 キィーッ


「オラぁ! 」


 その隙を狙ったのであろうコウモリの喉元にスペードが剣を突き立てた。


「トオハ、しっかりしろ。気を抜くとやられちまうぞ」


「ごめん」


「君たち、かなり強いんだな。3人ならなんとかなりそうだ」


 男性が口にする。そうだ、今この場には3人いるのだ。それならば……


「円陣を組みましょう。背中を預ける形になりますがお互い前の敵に集中できます」


「なるほど、それは名案だ」


「異論無し! 」


 作戦は決まった。俺達はコウモリ達の隙を作り円陣を組むと囲んでいるコウモリを見て背後を気にせずそれぞれが目の前のコウモリを斬り始めた。

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