13-4「変幻自在のモンスター」
俺達が呆然とする中、男性はトパーズさんに突き刺した剣を引き抜くと「危ないところだった」と言うとともにこちらを振り返る。言葉が出ない。しかし、俺の眼は刺されたトパーズさんに未だ釘付けだった。それは悲しみとかではなく不可思議な異変が起こっているからだ。
驚くべきことに胸を貫かれたはずのトパーズさんから血が一滴も流れていないのだ! それはトパーズさんを刺した剣にも起きていて本来なら赤く染まるはずの剣は未だに銀色の輝きを放っている。
「トオハ、これは夢じゃねえよな」
「うん」
俺はそう言いながら彼女の顔に書いてあるように彼女の頬を軽く摘まむと彼女は痛みに顔を歪ませる。それとほぼ同じタイミングで男性が剣でトパーズさんの死体を剣で指す。
「いきなり驚かせて申し訳ない、ただ今は何も言わずにこれを見て欲しい」
男性がそう言い終えるタイミングでトパーズさんの身体に異変が起こった。それは僅か数十秒の間の出来事であった。
まず、苦悶の表情を浮かべている顔がドロリと溶けたかと思うとそれに続くように身体が溶けていき彼が倒れていたところには謎の液体が広がっているだけだった。
「これは一体……」
「名前は分からない、ただこのモンスターは人に擬態することができるみたいだ。驚いたよ、謎のモンスターが突然僕そっくりの人間に変わったのだからね。それで後をつけると負傷したフリをしてコウモリと戦ったかと思ったら君たちが助けに来てくれて今に至るってわけさ。しかし、僕があの吸血鬼を巻いたことを知っているなんて変身した人の記憶も取ることができるのかな? 手強いモンスターが現れたものだ」
「それじゃあ、本当に、お兄ちゃんなの? 」
涙を滲ませるダイヤに対して男性は微笑む。
「勿論、正真正銘のトパーズ・ガーネットさ。大きくなったなダイヤ」
「お兄ちゃん! 」
ダイヤはそう言うとともに『盾の魔法』を解除してトパーズさんにとびかかると彼はそれを笑顔を浮かべながら難なく受け止めた。
「良かった、生きていて良かった」
「心配かけてごめんな」
久方ぶりの兄との再会、しかもそれが命を落としていたと思っていたのだからダイヤの喜びは計り知れないなあ。そんなことを考えながら俺はハグをしている2人をずっと見守っていた。
♥♢♤♧
「改めまして、こちら私のお兄ちゃ……兄のトパーズです」
「トパーズです。宜しく」
2人はしばらくハグをした後、突然ダイヤがまるで俺達がいることを思い出したかのように彼から離れるとこっそりとクローバーと合流していた俺達にトパーズさんを紹介してくれたと今度は回れ右してトパーズさんの方を見る。
「そして、こちらが右からトーハさん、スペードさん、クローバーさんです」
「よろしく」
トパーズさんが俺達に手を差し伸ばす。
「よろしくお願いします」
「よろしくな」
「……よろしく」
俺達はそれぞれがトパーズさんと握手を交わす。
「ダイヤをありがとう。彼女がここまで無事だったのは君たちのお陰だ」
「いえいえ、ダイヤさんがいたからこそ我々はここまで無事に旅をしてこれたわけで」
「だな」
「……うん、ボク達は何度も彼女に助けられた」
「そんな、皆さんやめてください」
顔を赤くしてあたふたするダイヤ。その様子を見てトパーズさんが笑う。
「ハハハ、面白いね君達は」
「そういえば、どうしてトパーズさんはここに? 」
あわよくば共に洞窟に行ってもらえないだろうか、なんて期待も込めて気になっていたことを尋ねる。
「それがね、実は吸血鬼を巻いたのは良いのだけれど行く当てもなくなってしまってね、こうして魔王の情報収集のために国という国を歩いていたってわけさ」
「それでは、宜しければ一緒に来てくださいませんか? 魔王を倒せるかもしれない武器が手に入りそうなんです」
俺がそう言うとトパーズさんが目を見開く。
「魔王を倒せる、それは本当かい? 」
俺は彼に今回の事情を説明した。すると彼は
「分かった、そういうことならば僕も同行しよう」
と快諾してくれる。こうして洞窟に向かって心強い仲間がまた増えたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます