13‐1「絞られたターゲット」●

 どこにあるか分からない広間で吸血鬼が片膝をつき見上げる玉座に所々にヒビの入った腰を掛けている存在は突如顔を歪める。


「グッ……これは」


「よもや、よもやそんなことは……」


 吸血鬼も様子を見て異変に気が付いたのであろう。口癖すらも忘れ最悪の予想をしてみせる。


「まさか、魔王様の力を注ぎこんだドラゴンが……」


 魔王と呼ばれた存在は答えない。代わりに一つの質問を彼に投げかける。


「貴様が話していた冒険者どもは、大賢者が作ったといわれている伝説の杖を持っているのか」


「いえ、それは……」


 思わず目が泳ぐ。彼自身、そのようなことは考えてもいなかった。しかし、フェンリルを倒したということは赤いオーブを手に入れたということは考えられる。だとするとそれは偶然によるものなのか否か……仮に偶然でもなく彼らが杖を所持しているとしたら該当者は……


「キキキキキ! キキキキキ! キーッキッキッキ! ! 」


 突如吸血鬼は魔王の前だということも忘れて口を大きく開き鋭く尖った八重歯をむき出しにしながら狂ったように笑い始める。


「どうした」


「いえ、心当たりがございましてね。この件は私にお任せください」


「だが、奴らが伝説の杖を所有しているのなら貴様だけでは返り討ちに会うのではないか」


「勿体なきお言葉、しかし問題はございません。何、人間なんて脆いものですよ」


 そう口にした吸血鬼は丁寧に着込んだスーツの内ポケットから一枚の紙を取り出す。それはアンケート用紙のようで名前、出身地、年齢、職業、特技を記入する欄の後にも幾つかの質問が並んでおり名前の欄には達筆で『ダイヤ・ガーネット』と記されている。


「それでは、行ってまいります。ドラゴンがいた付近を散策すればすぐに見つかることでしょう。キキッ」


「待て」


 踵を返し立ち去ろうとしている吸血鬼を魔王は呼び止めた。


「やはり私では心許ないと? キキッ」


「いや、そうではない。貴様の目的が分かった気がしてな。それならばもっと面白い方法があるとな」


 魔王は吸血鬼に向かってそう告げた。



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