12-16「伝説の剣」
エルフの森を出た後に御者と合流した俺達は再び雪景色を通り過ぎ氷の城へとたどり着いた。
「女王様、只今戻りました」
俺が口にするとセイが数時間前の御者のように目を丸くする。
「皆様、ご無事で何よりです。それで本当にあのドラゴンを? 」
「はい、といっても僕ではなくこちらの彼女が……」
そこまで言って口籠る。セイはともかくとしてどこに魔王の手下がいるかもしれないなかでダイヤが狙われるようなことを言う必要がないのだ。
「……機転を利かせて宙に巻いた小麦粉を使い『盾の魔法』で密閉状態にしたドラゴン自身が吐いた炎で粉塵爆発を起こすことで倒すことができました」
咄嗟に口から出まかせを言う。後でセイにだけ本当のことを伝えるとしよう。
そんな俺の考えを知らない彼女は目を輝かせて言う。
「まあ、小麦粉で爆発が起こせるなんて知らなかったわ。ダイヤさんって本当に賢いのね」
「試さないでくださいね」
念のために釘をさすと彼女はペロリと舌を出した。
「それで、申し上げにくいのですがその際に起きた爆発があまりに強力で洞窟付近が更地になってしまったのですが……」
「更地に! ? そんなに凄いのね! コホン……元々あの辺りはドラゴンに荒らされていたのでそのドラゴンがいなくなったことと比べると問題はありませんよ」
セイがそう言うとダイヤがホッと胸を撫で下ろすのであった。
「ありがとうございます。それを聞いて胸が軽くなりました。それから、こちらはエルフの村長から預かったものですが」
忘れてはいけないと俺は村長から受け取り大切にしまっていた手紙を取り出すと彼女に手渡す。それを彼女は綺麗な細長い指で切り取ると読み始めたかと思うと1分と立たずに声を上げた。
「エルフの皆様が再び果物を譲ってくださるなんて、貴方達は一体何をしたの! ? 皆さんが下さる果物はとても美味しいのよ。国民の皆様も喜ぶわ! 今夜はパーティーね! 支度をしましょう」
彼女は上機嫌な様子で口にした。
♥♢♤♧
数時間後、有難いことに今日は他に参加者がいないので鎧を取った状態で参加した俺は3人と仲良く豪勢な料理を見たこともない料理を前に立ち尽くしていた。
「どうぞ皆様おかけになって」
セイに促されるまま彼女の前に並ぶ4つの椅子に腰かける。
「セイ、これどれも見たことがないんだけど」
「丁度美味しい食材を頂いたところなの」
「すげえなあ」
とスペードが感嘆の声を上げる。
「いえいえ、ドラゴンを倒した皆のためだから」
そう笑顔で言い切った後にはと彼女は俺を見た。
「ところでタオハ」
彼女と目が合う。途端汗が全身から噴き出る。彼女は一見笑っているように見えるもその実目が全然笑っていないのだ。
「な、何でしょう」
「何か私に嘘をついていないかしら? 例えばドラゴンの倒し方について」
彼女には俺の隠し事がお見通しだったのだ。
「どうしてそれを……」
「分かるわよ、タオハが突然あやふやなことを言い出したかと思えば3人とも目を丸くしているし、そこからは女の勘ってやつね」
「全てお見通しだったんだ。恐るべき女の勘」
「……確かにタアハが突然粉塵爆発なんて言い出した時にはびっくりした」
「だな、いきなりだったからオレも顔に出ちまったんだろうな」
「でもどうしてトーハさんは突然あんな嘘を? 」
「そうよ! それよ! どうしてタオハは嘘をついたのかしら? 」
4人に詰め寄られる。観念したように俺は両手を挙げた。
「それは、ダイヤが魔王と戦う時の切り札だからあんなに強力な魔法が使えることをそんなに広めたくないなって、勿論セイにはどこかで話すつもりだったけど」
「なるほどね、確かにドラゴンを倒せるほどの魔法を使えるとなったら……え? そんな強力な魔法が使えるの! ? 」
セイが頓狂な声を上げてダイヤを見つめる、
「いえ、私が再び攻撃魔法を放てるようになったのは皆様のお陰です」
「ごめんなさいね、以前より顔つきがたくましくなっていたものだから何かあったのだろうとは思っていたのだけれどそんなに素晴らしい魔法使いだったなんて」
セイは即座に優雅さを取り戻すと笑顔で微笑みかける。
「いえ、私はセイさんみたいに強くありませんしまだまだですよ」
「そんな謙遜して可愛いわねえ、でもそういうことなら納得だわ。噂が広まっていらない戦闘が増えたりしたら大変だものね」
深刻な表情でそう言った後彼女はハッと何かに気がついたように声を出す。
「噂といえば貴方達がドラゴン討伐に向かった後に私なりに調べて回ったのだけれどこの国の西側の洞窟に伝説の武器が眠っているそうよ」
「伝説の武器? 」
「そう、大賢者様が作ったという剣よ」
「剣か」
剣という単語にスペードが反応を示す。剣を扱う者としては伝説の剣という言葉を聞くとワクワクするのだろう。現に俺がそうであった。
「でも待ってください。大賢者様が作ったと言われる武器は1つだったはずでは……」
ダイヤが自分の杖を見る、そうなのだ。大賢者様が作ったと言われている武器は今俺たちの目の前にある。その事実とダイヤの耳にしたことは矛盾している。
「あらそうなの? となると確かにおかしいわね」
察していたのであろうセイが首をかしげる。
「……偽物とかの判別ならできると思うけどそれは現物を見ないと」
「でも剣が本当だったら戦力にもなるよなあ」
皆が一斉に俺を見る、確かに皆の言うことは最もであって罠だとしたら危険で本当だったらこちらの戦力も上がることだろう。
決断の時だ。
「……よし、行こう。スペードの言うように噂が本当ならこちらは伝説の武器が2つと戦力になる、仮に罠だとしても俺達なら大丈夫だよ。それで剣が本物かはクローバーに見て貰えばいい、妖刀とかの可能性もあるから」
「決まりだな」
「確かに皆がいれば罠でも大丈夫かもしれませんね」
ダイヤが言うとクローバーも小さく頷いた。
「それじゃあ洞窟までは馬車で責任持ってご案内するわ」
「いえ、それは遠慮しておきます」
せっかくのセイの誘いだったけれどキッパリと断る。
「どうして? 」
「そうだぞトオハ、せっかく送ってくれるっていうのに」
「……何か理由があるの? 」
「理由、そういえば盗賊に襲われたそうね、確かに馬車に乗ってその時のようにいらぬ敵を作る結果になってしまったら手間が増えてしまうわね、ごめんなさい。配慮が足らなかったわ」
「いやいや違うよ」
そんな風には全く考えていなかったので否定するべく慌てて椅子から立ち上がる。
「ただ、こうして一眼で北の国の女王の馬車だと分かるものに乗りながらモンスターを何体も倒しているとセイが魔王に目をつけられないかなって」
「え? 」
セイが瞬きをする。
「トーハさんの言う通りかも知れませんね。彼らは何を仕掛けてくるかわかりませんし」
ダイヤがどこか確信があるように力強く言う。
「そんな……私のために……」
突然雪のように真っ白な顔を赤く染めた彼女は顔を両手で覆う。
「ごめんなさい、嬉しくって。でも責任を持ってエントまでは送らせていただくわ。そこから来てもらったんだもの。それならばそこまで送り返すのが自然よね」
彼女の言う通りかもしれない。その方が普通の冒険者と国王の関係を演出できそうだ。
「お願いします」
「それと、また会えるわよね」
「それは……」
分からない、冷静に考えれば俺は魔王を倒したら恐らく元の世界に帰る存在だ。エルフの村長とも約束をしてしまったけれどこの戦いは1年以上続くのだろうか?
「……大丈夫、エルフの村長と来年のこの時期にはエルフの森を訪れるって約束したからその時には」
「だな、絶対会いに来るぜ」
「ええ、約束です」
俺が思い悩んでいると3人が女王様に再会の誓いを立てる。
そうだ、先のことを悩んでいても仕方がない。俺が今またセイに会いたいと思ったのは本当なのだから。
「そうですね、遅くても来年には必ず会いに行きますよ」
俺達がそう言うとセイが「ありがとう」と微笑んだ。
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