11‐4「4人目の敵」♧
タアハの勝利宣言の後、残されたフードの男は懸命に男を起こそうとするも、彼は一向に起きずしぶしぶ負けを認めたようだった。
「トーハさん」
「やったなトオハ、ナイスパンチ! 」
タアハが勝ったことを称えるようにスペードとダイヤが雪の中彼に駆け寄る。ダイヤの時と同じでボクも駆け寄りたかったけどそれはできなかった。彼に託された重大な役割があるからだった。それは恐らくどこかに潜んでいるであろう4人目の弓使い。矢の刺さっている方向から逆算してそちらを見てみたけれど辺り一面真っ白い雪景色が広がるだけでなにも見つからない。
とはいっても、心当たりがないわけじゃない。それは弓使いとはいえましてやこんな雪が降る中に何もない平坦な地面に這って狙うなんてことはしないこと。必ず狙いやすくて隠れやすい木の上みたいな場所に潜んでいるのが基本。
そういった観点から周りを見ると怪しい場所が数か所見つかった。1か所は木の上、もう1か所は木の幹、そして彼らが乗ってきたであろう馬車、このポイント3つを素早く視点を移しながら確認する。向こうも弓使いならばそれを討つチャンスは一つ、それは向こうが矢を放とうと構えるタイミング。だから、こちらも見逃せない。それを逃したら、誰かが撃たれることに繋がってしまうから。
「やってみせる」
雪の中、手がかじかんで狙いが外れることがないように暖かい黒いグローブをつけている、オオカミの時は上手くいったけれど外れた時のことを考えて弱気になってしまった自分を鼓舞するために呟く。
「じゃあ、最後の戦いを始めるか」
「やってやるぜ」
男の自信満々な声とそれに負けじと張り上げたスペードの声が聞こえる。その時、あることが気になった。
「どうして、あの男はスペードを指名したんだろう」
何気ないことかもしれない、例えば剣を持って堂々としているスペードがリーダーに見えてリーダー同士の戦いがしたかったとかそんな理由かもしれない。
「でも、別にリーダーが勝ったからといってこれまでの負けが無くなるわけじゃない。どうして彼はあんな自信満々でいられる……あ」
その問いは恐ろしい答えにたどり着いた。単純なものだった。矢で仕留めるとしたら魔法使いのダイヤ、鎧を着たタアハ、そして剣士のスペード。誰が狙いやすいかだ。ボクの答えはダイヤかスペードだ。タアハは鎧を着ているから一撃で仕留められるか分からないから候補から外れる。
「それで、あの場所で指名するとしてどちらがより自然に提案を受け入れてもらえるかを考えると……」
そうだ、そうなるともう答えはスペードしかない。だとすると仕掛けてくるのはここからだ!
もう瞬きすらも惜しくどんな動きも見逃さない、そう決心をした時だった。
「それじゃあ、試合……」
「おい待て! お前が合図するなら剣を取れねえだろ」
スペードの怒鳴り声が聞こえた。それを聞いてハッとする。彼はずっとあのように合図をしてきた。一瞬の勝負となると聞き逃しが命取りだから必死に聞こうとする。そこを利用して仕掛けてくるなら、あの音が矢の合図! だとすると……あの4人はボクが弓矢使いだとは知らないはず、チャンスは一瞬! ボクは後ろに隠していた弓矢に手を伸ばした。
「へへ、じゃあよ、これでどうだ」
男がそう言うと今までの開始よりも何歩か後ろに最後下がった。
「いいぜ、その距離ならお前が合図をしてからオレがつくまで距離が十分ある」
駄目、スペード、それは罠。そう叫びたい衝動に駆られたけれど代わりに目を凝らす。すると、彼らが乗ってきたであろう馬車の窓からチラリと人影が見えた。
「なるほど、外に出なければ指がかじかんだりして矢を外す可能性がなくなる、それは例えあの馬車に暖房器具が何もなくてもこの雪の中で握るよりはマシ」
徹底して勝利に向かう向かうの弓使いを尊敬する。勝利のためには最善の手を使う、それをボクは悪いとは思わない。だけど、ボクは負けるわけにはいかない。
さり気なく目測で死角ギリギリまで身体を動かして移動させる。その理由は1つ、ボクはいつも矢を放つときは目標以外を視界に入れないからだ。ただ、自分がそうだからと言って相手もそうだとは限らない。だからギリギリまで見つかるリスクを減らしてそこから弓を構える。
その直後、馬車の窓から人が姿を現した。弓矢を構えて狙いを定めているみたいだった。
「させない、もらった! 」
人影よりも早く位置を把握していたからだろうか、ボクは向こうが矢を構えるとともに矢を放つ。放った矢は目標のただ一点を目指して進んでいく。目標は……あの人影の指だ!
「……」
人影が何かを叫びながら血を流し倒れるのがみえた。あの矢には麻痺薬が塗ってあった。それは指をかすった程度でもしばらくは身体がマヒして動かせないはずだ。
パァアアン!
それから2呼吸したくらいに男が両手で叩く。それと同時にスペードが男に襲い掛かった。次は男目掛けて弓矢を構える。でもその直後、スペードの顔が浮かんだ。
「……ううん、あの男を倒すのはスペードの役目、彼女なら大丈夫」
2人の剣がぶつかる様子をみながら、ボクは弓を下ろした。
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