11-5「重い剣」♤

 パアアアン! と開戦の合図とともにオレは刀を構えて勢いよく男目掛けて走り出す。雪に足を取られるがそんなことは気にしちゃいられねえ! 正直このままぶつかってもオレは大剣じゃない分不利だ。だからオレが今峰うちを決めるか男が早く大剣を抜くかの勝負だった。だというのに男は何故か後ろをみて心ここにあらずって感じだ。


「よそ見してんじゃねえよ! 」


 苛立ちをそのまま言葉にして刀で思いきり左下から斬り込む。何か知らないがこの一撃で決める!


「ちぃっ! 」


 キィン!


 間一髪、大剣で防いだ男が態勢を立て直す。しかし、参ったことになった。今回は向こうが間一髪で力をほとんどこめていなかったから良かったものの刀と大剣の剣戟じゃ下手するとこちらが折られちまう。


「なら、こっちだ」


 オレは刀を鞘に収め剣を抜く。厄介だが剣でどうにか相手の大剣を祓って刀で峰うちと使い分けるしかねえ。そんな器用なことをやるのに確実なのは──『強化の魔法』だ!


「手加減抜きで行くぜ、『エンハンス』」


 詠唱して赤いオーラを纏うとともにオレは男目掛けて駆け抜ける。瞬く間にオレは男との距離を詰めた。


「ほう、驚いたな」


 オレは左手に握った剣を相手の大剣に押しつけると右手で素早く腰にさしてある刀に手をかけ引き抜き斬りかかると男は感心したようにそう言う。


「それが遺言か、これでオレの勝ちだ! 」


「甘い、『エンハンス』」


 突如、男は赤いオーラを纏い後方にバックステップをした。早い!


「まさか、『強化の魔法』を使えるとはな、2番手の男が使わないものだから油断していたぜ」


「それはこっちのセリフだ」と動揺を悟られないように心で悪態をつく。その間にも男は続ける。


「となるとフードを被ると些か不利か。姿をさらしたくはなかったんだがな」


 男はそう言うとフードを脱いだ。グレーの髪色で右目から唇の左端まで剣で斬られたような大きな傷跡のある男が姿を現した。


「……おいおい、俺のことを知らないなんて悲しいねえ」


 そう言って男はがっかりしたように明後日方向を見る。酷くがっかりしているようだがオレに盗賊の知り合いはいねえしそれは皆同じだろう。


「ん、なるほど勝負に応じたのはそういうことか」


 と今度は何か一人で納得しているようだ。わけわかんねえ、なんだこいつ……

 呆れながらも視線を追うとその理由が分かった。御者が馬の脚の傷を癒している!


「バレたか……」


 横目でトオハ達を見ると苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。なるほど、全然知らなかったぜ。慎重なトオハが素直に勝負を受けたのは引っかかっていたがそういうことかよ。といっても、まあオレのやることは変わらねえけど。

 再び男と向き合う。


「何か知らねえけど今のオレのやることはただ一つ、こいつをぶっ倒すことだけだ! 」


「ま、待ってください」


 いざ向かおうとすると制止を促す声。今度は何だよ、とみると御者が男を見て腰を抜かしていた。


「あ、貴方は……女王様率いる軍隊の元2番隊隊長、大剣使いのレイグさん! 逃げてくださいスペードさん、あの方には敵いません」


「ほう、ようやく俺のことを知っている奴がでてきたか」


 男が満足そうに口角を吊り上げる。先程は顔見せたくねえとか言っといていざ自分のことを知っているのがいたら満足げに笑うなんてわけのわかんねえやつだ。しかし、今の肩書を聞いて男に少し興味がわいた。


「なんかすごいやつらしいな、その2番隊隊長様がなんでこんなことやってんだ」


「は、知れたこと命懸けの戦いなんかよりもこっちのほうが遥かに楽に金を稼げるからよ、それでどうすんだ? 俺の実力を知っても尚挑んでくるのか? 」


「勿論だ! 」


 勢いよく駆けだす。今の話を聞いて丁度いい倒し方が浮かんだ。問題は仕掛けるタイミングだ。


「食らえ! 」


 ザンッ!


 男のほうが大剣でリーチも長く振りかぶってもいないのに右からすくうように強烈な一撃を放つ。大剣は避けることができたものの剣にすくわれた雪が容赦なく押し寄せる。


「ぐっ! 冷てえ! 」


 たまらず目をつぶると男の勝ち誇った声が聞こえる。


「残念だったな、大剣のカウンターでも狙ったか? だが雪が降るこの場所ではその弱点は無いに等しい」


「くそっ! 」


 やべえ、こいつそこまで考えていたのか。伊達に2番隊隊長とやらをやってねえな。ハラハラと落ちる雪を眺める。

 すっごい今更だけど、オレの吐く息が白くなってやがる。寒いからか……何でも白く染めちまうんだな雪ってのは……まてよ、そうか! その手があったか!


「行くぞ、『ウィンディ』! 」


 オレは剣に掌を翳して呪文を詠唱する。たちまちオレの剣の片側の刃が風を纏う。オレも男も『強化の魔法』が消えかかっているようでオーラは薄くなっていた。恐らくこれが最後の勝負だ!


「あれは、ギルドでスペードさんと戦った方が使っていた」


 ダイヤの声が聞こえる。そうだ、これはラッドが使っていた戦法だ。といってもオレにはこれを飛ばすなんて真似は出来ねえが──


「これでオレの勝ちだ! 」


「なるほど、風を纏って剣の切れ味を上げて俺の大剣を受けられるようにしたか……面白い芸当だ、だがそれで受けきれるか」


「うおおおおおおおおお! 」


 男がオレが避ける気がないと判断したのだろう。パワーが落ちる雪を切ることを避け左上から渾身の一振りを仕掛ける、オレはそれに右下から剣を差し込み答えた。


 キィン!


 大きな音とともに互いの剣が弾かれる。しかし、この瞬間、リカバリーは剣が軽いオレのほうが早い!


「もらったあああああああああああああああああ! 」


 オレは男の手元目掛けて剣を振る。しかし、剣は空しく空を切った。


「ハア……ハア……今のは肝が冷えたぜ。だがよ、残念だったな。パワーは互角みたいだったけどよ、リーチの長さでは俺の大剣のが勝ってた」


「いや、勝負はもうついた。オレの勝ちだ」


「なんだと……くっ……」


 負けじと再び大剣を構えようとした男が苦痛に歪む。狙い通り男の左手親指に深い切り傷が出来ており血が流れていた。


「馬鹿な、どうして……くそ」


「目に見えるものが全てじゃないってことだ、雪のお陰で気を逸らせた」


 そう言いながらオレは剣を取り先から少し上をつまんで見せる。


「なるほど、風の魔法で剣の先に透明な風を纏いリーチを伸ばしたというわけか」


「そういうことだ」


 説明を終えたオレは剣を鞘に収め刀を抜く。


「一本取るとは見事だ。だが、これしきの傷で……ぐあっ……」


 男は再び大剣を構えるも剣を落とす。


「そんな……」


「分かってんだろ、親指にまともに力が入らねんだ、片手でその大剣は触れねえよ。盗賊にまで落ちたあんたには異名も剣も重すぎるんだ」


「何を言ってやがる、この程度の傷なんて治れば……」


 ドンっ!


 これ以上何かをされるのは面倒だ。オレはすかさず刀の峰を腹に叩きこむ。


「ぐ……ああ……」


 男は力なく叫ぶと崩れ落ちた。


「よし、オレの勝ちだ」


 そう宣言すると素早く俯いているダイヤのところへと向かう。トオハの顔は分からねえが何も言わないところをみるとダイヤと同じ顔をしているんだろうな。


「悪いけど、ダイヤ。あいつを縛ったらさ、指を治してやってくれ」


「はい」


 彼女は何も言わずに微笑みを浮かべるとそう答えてくれた。





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