11‐2「盗賊襲来」
温まっている馬車に乗りクローバーが魔法で温めてくれたスープを受け取る。彼女が渡してくれた芳醇な香りのするスープは暖かく出汁が野菜にしみていて味もよくこれが本当の魔法瓶か……と洒落を考えられるくらいには回復していた。
「しかしなんだったんださっきのは」
スペードが吐き捨てるように言う。
「そうですね、今まで公道を歩いてあれほどのモンスターに囲まれることはありませんでした、一体どうして今回は」
「……それにあのオオカミ達、獲物が入り込んできたっていうような俊敏な動きだった」
そう、俺達は最初のころの公道を避けて森の中を歩くなどでモンスターと遭遇することはあっても今回のようにあれほどのモンスターに囲まれることはなかった。それもあれほどのモンスターにだ。
「そういえば、ここしばらくは今まで一台も馬車とすれ違わなかった」
公道とは言え利用者が少なくモンスターが迫ってきているというのだろうか? いや、記憶の糸をたどる。2時間ほど前には馬車とすれ違うことが多くオオカミに襲われたのが30分ほど前、その間に何かあったかと言うと……分かれ道だ! 確か立札があった分かれ道があったぞ!
「御者さん、どうしてこの道に? 」
「どうしてって、それは立札が見えたので……」
「立札……そうか」
額に汗が滲む。その様子を不安げに3人が見つめていた。
「どうかしたのですかトーハさん」
「いや、立札に従ってきたのならその立札が間違っていたってことになる。問題はそれが故意なのかどうかであって故意の場合は……」
先を言うのが恐ろしくつい言葉を切る。しかし、クローバーがハッと気が付き引き継いだ。
「……罠、まんまとおびき出されたってことになる」
重い空気が流れた。その原因の一つがオオカミだ。引き返そうとすると俺達を包囲しようとしていたオオカミと鉢合わせることになるのだ。恐らく敵はそこまで計算に入れているのであろう。俺達は罠だと分かっていながらその罠に飛び込まなければならないのだ。
ヒヒィイイイン!
突如馬が悲鳴をあげた、次の瞬間馬車全体がぐらついたかと思うと俺達は宙に浮き窓から外へと投げ出された。ブワッと冷たい雪に勢いよく突っ込む。幸い、怪我はないけれど兜の隙間から入ってきた雪が冷たくてたまらず跳ねるように起き上がる。
「一体何が……」
みると全員が馬車から投げ出され白い雪に身体を埋めていた。その原因となったのは馬のようだった、みると辺り一面白銀の景色の中、馬の脚の辺りが赤く染まっている。どうやら矢で射抜かれたようだった。
「へえ、あのオオカミ達から五体満足で逃げだすなんてやるじゃねえか。流石王宮の馬車に乗るだけあるぜ」
「本当は馬鹿な冒険者をはめてオオカミが残した金品だけを奪い取るつもりだったが」
「こうなりゃ俺達がやるしかねえなあ」
ふと3つの野太い声がした。声のした方向に視線を向けるとそこには剣士らしき3人の大男が立っていた。
「やはり罠だったか」
「気が付いていたのか流石だねえ、でももう遅い! そういうのは立札の段階で気が付かねえとなあ」
真ん中の男がケタケタと笑う。俺は男を見つめながらも横目で皆の安全を確認した。
「ひい、ふう、みー……4人か。まあいい。ここで提案なんだが間抜けな冒険者さん達よ。このまま戦闘してもいい、だがどうだ? 丁度こちらも4、そちらも4人だ。ここはどうせなら1VS1の3本勝負と行かねえか? 」
「3本勝負だと、ふざけんな! 今すぐここで全員」
両腕を突き起き上がりながらスペードが言う。
「おっと、良いのか? ならまだ目覚めないそちらの仲間に手を出させてもらおうか」
みるとクローバーとダイヤは突然のことで雪が目に入ったらしく目をこすっていた。
「分かった、その勝負受けよう」
俺が高らかに宣言する。
「こちらからはダイヤが行く」
そう言ってふらふらと立ち上がったダイヤを指差す。
「無論、ここまで来るのに待ってくれるんだよな。それと俺達がどの順番でいくか相談するのも」
「ああ、いいぜ。だがよ、1つ言わせてもらうと俺はそこの茶髪の剣士の姉ちゃんが気に入った。できればその娘を3番目にしてくれるとありがたいねえ」
ボスらしき大きなフードを被り大剣を鞘に収め背負っている男が言う。
「上等だ」
スペードは剣を引き抜いて応じる。
「残るは俺達の誰が出るかか、相談させてくれ」
「いいだろう」
男は腕組みをして言う。どうして彼がここまで俺達に譲歩するのか。それは恐らく善意などではなくただここに先ほど振り切ったオオカミがたどり着くまでの時間稼ぎなのであろう。それならそれで俺達もたっぷりと利用させていただくことにしよう。
「ごめんなさい、私たちのせいで勝負を受けることになってしまって」
申し訳なさそうにシュンとしてダイヤが言う、クローバーも気まずそうな顔をしていた。
「いや、2人のせいじゃないよ。俺達もこの勝負で時間稼ぎがしたいから」
そう言ってこっそりととある木の影を指差した。盗賊達からは死角だろうそこには馬の傷を『回復の魔法』で癒している御者の姿があった。
「それから、2人にやってもらいたいことがあるんだ」
「はい」
「……何でもする」
頼もしいことに2人は力強く答える。
「まず、ダイヤ。一戦目を引き受けて欲しい、相手は剣士だから多分あの戦法でいけるはずだ」
「わかりました。やってみます」
彼女は笑みを受かべる。
「次にクローバー、問題なのが相手が剣士だという点なんだ。でも……」
そう言って少し離れた場所に突き刺さっている矢を指差す。
「……あ、全員剣士で弓を持っていないならあの矢を打てる人がいない」
「そう、だからどこかに4人目がいるはずなんだ。2番手は俺が行くからそれをみつけて、できれば迎撃して欲しい」
「……分かった」
彼女は答えて一度深呼吸をする。砂漠からコンタクトレンズを探すような途方もない作業になるだろう、しかし向こうがいつ仕掛けてくるのか分からない以上彼女が見つけてくれるかどうかは俺達の生死を左右するといっても過言ではなかった。
「よろしくお願いします、クローバーさん」
ダイヤはそう言うとスペードを通り過ぎて3人の前に歩いて行った。
「お、おいまさかトオハ」
スペードが驚いてこちらに駆け寄る。残念ながらスペードには順番を決めるという体のため作戦を話すことはできなかった。しかし、今回は却ってそれがうまくいきそうだ。
「私が行きます」
「へえ、お嬢ちゃん可愛いねえ。じゃあ、俺が行こうかなあ」
顔に眼帯をつけた片手剣を持った男が舌なめずりをしながら前に出る。
「それでは死ぬもしくは気絶したら勝ちの第1戦開始! 」
フードを被った男はそう言うとパンと両手を叩いた。しかし、両者動かない。というのも当然で両者の距離は2メートルほど、魔法使いと剣士ではどちらが有利とも言えない双方ともに相手が隙を見せたら一撃を与えられる距離だ。相手は動かなくてもこの勝負に勝つ必要がないのでこの状況で続けば続くほど有利と言うことになる。対するダイヤの戦法は敵を小さくしても一寸法師みたいになることを懸念すると恐らくカウンター。故に今回彼女には素早く敵に攻撃をさせるということが必要になるのだ!
ダイヤの動きを固唾を飲んで見つめる、するとすぐさまダイヤが動いた。彼女は素早く男に杖を向け口を開く。
「フェイエア! 」
しかし、何も起こらなかった。それもそのはずだ。彼女は呪文を間違えたのだから……
「ハハハハハ、お嬢ちゃんビビっちまったのか。大丈夫殺さないであとで可愛がってあげるからねえ」
困惑の表情を浮かべるダイヤに男は素早く彼女の懐に入り込もうと剣を構えて駆けだす。なるほど、気絶ルールはそのために。だが、それはこちらにも好都合でこの突撃こそが彼女の狙いだった。
「『シルド! 』」
ガン!
「がっ……え……?」
男は突如出現したダイヤの透明なシールドに勢いよく衝突、そのまま気を失ったようで力なく倒れた。
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