11‐1「雪道での戦闘」
翌日、カラカラカラ、という車輪の音を聞きながら馬車の中で寛いでいた。もう少しで村に着くらしい。
「しかし、有難い話だよな、こうして行き帰りの馬車を出してくれるなんてよ」
「そうですね、このような広い馬車を借りるとなると手続きも必要ですし」
「……ドレスを着て、こんな広い馬車に乗るなんてお姫様になったみたい」
クローバーの一言を合図に3人は一斉に顔を赤らめる。車内では辺り一面雪景色を眺めてる俺を除いてこういったガールズトークとも言うべきものが繰り広げられていた。たまにこうして聞き耳を立てているというのは意地の悪いことだろうか? それにしても、スペードもお姫様には反応してやはり女の子なんだなあ
「なんだよ、何見てんだよトオハ」
「いや、なんでもない」
うっかり彼女のほうに視線を向けてしまったようだ。とっさに取り繕って再び景色を見ようとする。しかし彼女はそうさせるつもりはないみたいでニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながらこちらに近寄ってくる。
「盗み聞きとは感心しねえなあ」
「そういうわけじゃないから……」
目で必死に味方を探すも2人とも俺が聞いていることが意外だったのか恥ずかしさのあまり脳がショートしてしまったというように顔を真っ赤にして俯いている。悪運尽きたか、と観念したその時だった。スペードの背後にハラハラと降り落ちる雪とは違う黒い点のようなものが雪の上に幾つも見えた。
「スペードちょっと、タイム! クローバー、頼むアレを見てくれ」
眼の良いクローバーの身体を軽くゆすり彼女をこちらに呼び戻そうと試みる。その甲斐あって彼女はすぐに目覚めた。
「……タアハ、盗み聞きは良くない」
「悪かった。後でもう一度謝る。とにかく今は外を見てくれ」
「……分かった」
彼女を説得して心なしか前よりも大きくなっている黒い点方向に彼女の視線を誘導する。すると直後反対方向の窓に視線を向けて叫ぶ。
「……まずい、オオカミの群れだ、囲まれている」
その直後、馬車が急停車した。
「お、オオカミです! 」
時すでに遅し。彼女の言うようにすっかりオオカミに包囲されてしまったらしい。
「くそ、なんたってこんな」
「とにかく迎え撃とう、とにかく前のオオカミだけでも倒さないと」
ダイヤの肩を掴み揺らしながらそう告げる。
「……タアハの言う通り、囲まれてはいるけど今なら前のオオカミを倒して道を作ればそこから全速力で振り切れる」
「行こう」
防寒着を羽織り俺の言葉を合図に4人で外に出る。すると目の前には8匹のオオカミが馬車を遮るように前のめりになり威嚇をしていた。今にもとびかかってきそうな勢いだ。
「ダイヤ、シールドで馬車を! 」
「はい」
「トオハ、何が起きるか分かんねえ。ここで『強化の魔法』は使うなよ」
刀を抜きながらスペードが忠告する。
「了解! 」
俺とスペードは一斉に前方のオオカミ目掛けて走り出す。単純計算で行けば1人4体だ。オオカミのほうへ距離を詰めようと足を動かすとズボッ! と勢いよく雪に足がめり込むお音がする。こう自由に動き回れない中で早く正確にっていうのは厳しいかもな。そう考えた直後、一本の矢がオオカミの脳天を貫いた。クローバーだ、振り返ることはできないけれど彼女もどこかで矢で援護をしてくれているようだった。
ウオオオオオン!
直後、雄たけびを上げて一体が俺目掛けて跳びかかってきた。これは僥倖だ。こちらから動く必要がないのだから。俺は足に力を入れ踏ん張りながら剣を構える。
「そこだ! 」
グルアアアアアア
勢いよく突き刺した剣はオオカミの腹に突き刺さった。追撃を防ぐべくすかさず突き刺したオオカミをスペードが倒し残り5体となったオオカミに投げる。体制を崩すオオカミ、そこを狙ったかのように再び一本の矢がオオカミの脳天を捕えた。これで残り4匹だ。
ウガアアアアア!
ここでどういうわけか4体のオオカミのうち俺のほうに3体が向かってきた。もう1体は馬車にとびかかるもダイヤの『盾の魔法』に弾かれて怯んでいる所をスペードに仕留められた。
「トオハ! 」
スペードが駆け寄ろうとするのを左手を突き出して制する。
「スペードは馬車に戻って戻ったらすぐに馬車を出してくれ」
「トオハはどうするんだ」
「窓を開けておいてくれ、窓から飛び乗る」
俺がそう言うとスペードが頷き馬車へと後退する。今回はこの8体を倒せばいいというわけではなく周囲から迫ってくるオオカミもいる時間との戦いなのだ。
直後、再びクローバーの矢が突き刺さりオオカミは2体になった。有難いことだ。
雪が俺達を覆う中、背後で仕掛けるタイミングを待った。オオカミもこちらの様子を窺っているようだった。こちらに剣は1本に対し向こうは2体。こちらが仕掛けたらもう1体が俺を捕えるという作戦なのだろう。
ヒヒィィイィン
馬の鳴き声が響き馬車が出るということを知らせる。俺はそれを合図にまずは左のオオカミの目を目掛けて左手で掴んだ雪を投げた
グルぁッ! ?
突然視界が奪われ混乱しているオオカミを他所に俺は右のオオカミに襲い掛かると頭上に剣を振り下ろす。
ギャアアア!
オオカミが悲鳴を上げて動かなくなるや否や俺はオオカミが刺さった剣を思いきり振り上げると雪をぶつけたオオカミ目掛けて思いきり投げた。
ギャン!
突然猛スピードでやってくる仲間を避けるすべもなく命中したオオカミは木にぶつかり動かなくなった。その様を見届ける前に俺は直進したら馬車が来るであろう所の丁度窓の下になる位置目掛けて走り出す。雪に足が取られるのがきついが何とか間に合いそうだ。
俺が白い安堵のため息を漏らした瞬間だった。
ウガアアアア!
生命力を侮っていたか1体のオオカミが俺に体当たりを仕掛けてきた。
「ぐうっ」
最後の突撃だったのだろう。傷はなく威力もそれほどではなかった。しかし、致命的なのは今ので俺の態勢が大きく崩れたことだ。今から態勢を立て直してはジャンプをしても間に合わない。馬車はもう目前まで迫っていた。
かくなるうえは、俺が囮になってこのオオカミの群れを相手にするしか……
俺がそう覚悟を決めた時だった。
「トーハさあああああん! 」
ダイヤの声が響いた。みると馬車の窓からダイヤの雪のように白い手が出ている。俺は縋る思いでその手を掴んだ。直後、俺の身体が宙に浮く。
「ダイヤ、もう少しの辛抱だ」
「はい、絶対に放しません」
窓からスペードも俺の手を掴み引き寄せる。
「……タアハ、左手も」
クローバーの声だ。俺はそれに導かれるまま左手を伸ばすと彼女の暖かい手に触れる。
「よし、引き上げるぞ! 」
スペードの声を合図に俺の身体は馬車の窓に近付いて行った。
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