10-2「格好いいお兄ちゃん」
「それじゃあ、頼んだよ」
「はい、お任せください」
「スペードにしっかりと防寒着を買わせる」
「おいおい、子供かよオレは……」
エントの街に入った俺は店の前で3人と別れる。ダイヤはいざとなると怖いのに加え素早いクローバーと2人の見張りがいれば彼女も今度こそ防寒着を買わないなんてことはないだろう。2人が彼女に合ったものを選んでくれるはずだ。そもそも、俺がたっぷりと雪の恐ろしさを吹き込んだので買わずに済まそうなんて考えはないかもしれないけど……
「さて」
3人が店の中に消えていったのをみてから街に向き直る。考えればこの世界に来てから街の中で一人で買い物をするのは初めてだ。
街中でも兜と浮いてしまう見た目とはいえ万が一兜が取れても身体中に包帯が巻いてあるのでゴブリンだとバレることはないだろう。
ざっくりと東西南北歩いて20分間隔で戻るくらいで良いだろう。
そう決断すると初めての街に心躍らせながら俺は街の中を歩き始めた。
それから店に様子を見に行っては町を見て回るを繰り返して1時間、俺は失敗に気が付いた。
「見て回るものがない」
空を見上げて独り言を口にする。考えてみれば食事は兜の口の部分が着脱可能でできるようにはなったものの待っている間に一人で食べるというのは悪い気がするし特に服もこの体では意味もなく時間をつぶすために寄る書店も魔法が使えないのに魔法関連のものしかないときた。要するに暇なのだ。とはいえ、店の前で待っていて鎧の置物と勘違いされてトラブルになるのも嫌なのでとりあえず歩き回る。すると、一人の子供がうずくまっているのが見えた。
「どうかしたの? 」
かがんで男の子に声をかける。
「ママとはぐれちゃったの」
「わかった、じゃあ一緒に探そうか」
俺はそう答える。まだこの子を母親と合流させるだけの時間はあるだろう。
そうして2人で探すこと数十分男の子が母親と離れた付近を重点的に歩いていると1人の女性が俺達に近寄ってきた。
「ジュン、どこにいっていたの? 良かった……本当に良かった」
女性は男の子を抱き締める。
「ママ、あのねこの格好いいお兄ちゃんに一緒に探してもらったんだ」
男の子がそう言うと女性は俺のほうを見て会釈をすると男の子に視線を移して言う。
「まあまあ、それはそれはちゃんとお礼を言ったの? 」
その言葉とともに男の子は俺を見て微笑む。
「ありがとう」
「どういたしまして」
「本当にありがとうございます」
「いえいえ、見つかってよかったです」
格好いいか、十中八九この鎧のお陰だろうけどそんなこと初めて言われたな……
2人の親子を見送りながら考える。彼らが見えなくなるとともに嬉しさのあまり俺は軽くスキップをしてまだ見ぬ通りを進んでいった。
♥♢♤♧
「お待たせして申し訳ありません、スペードさんにはしっかりと防寒着を購入していただいたのですが時間がかかってしまって……」
男の子を送り届けてから数分、店の前で待っていた俺を見かけると即座にダイヤが謝罪の言葉を口にする。
「別にいいよ、ちゃんと買えたみたいだし」
「意外とおとなしかった……ただ……」
クローバーが言葉に詰まったのをみてスペードが口を開く。
「まあ、悪かったよできるだけ軽くてあったかいの探してたからさ」
なるほど、話は大体わかった。軽くて暖かいというのは食事で言う安くて美味いみたいなもので探すのに時間がかかったということだろう。もしかするとすべて試してみたりもしたのかもしれない。
「まあ、とにかく買えたみたいでよかったよ。それじゃあ改めて北を目指そう」
そう言って歩き出そうとした時だった。ぐぅぅぅ~と俺の腹が虫が鳴く。
「…………っ」
例えで食べ物が出たのは無意識からかこの音の前の危険信号のようなものだったのだろうかは定かではないけれど、どうやら空腹らしい。
「なんだ腹減ってたのか。ならせっかくだから店に飯食いに行こうぜ」
「そうですね、日も登ってお昼ご飯にするのにピッタリの時間ですし」
「……賛成」
こうして、行先は北からレストランへと変更になった。
俺が男性に告げる。するとどういうわけか注文が入ったというのに男性は困惑の表情を浮かべる。
「すまないが、値段が高いからと言って食材が良いとかそういうことではないんだ」
心苦しそうに彼が口にする。
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