10‐1「雪国へ行くなら防寒は大事」

 イナンの街を目指して数日、俺達は野道を歩いていた。


「しかし、イナンには氷の城って話の割には雪なんて振ってねえなあ」


 スペードがつまらなそうに言う。確かに彼女の言う通りで俺達が歩いているのは一向に元気に緑色の草木が生い茂る道で会って氷の城はおろか雪も見当たらない。


「父の本にはそのようなことは……あ」


 ふとオパールさんの日記を読んでいた彼女が顔を上げる。


「そうです、ディールさんが仰っていました」


 そう言ってダイヤが俺に視線を移す。


「ディールが? 」


「はい、初めてお会いした時に」


 言われて記憶の糸をたどる。そうだ、初めて彼女と森で会った時に馬車に着く前に彼女から色々な国の話を聞いて……確か……


「思い出した、北の国は寒かったとディールは言っていたけれど正確にはこうだった。『スーノは寒いところと寒くないところが極端なんす』」


「極端? 」


 スペードが目を細める。


「うん、関所があってそこを通ると雪の街らしい」


 クローバーが言う、俺達は慌てて彼女を見る。


「知ってたの? 」


「うん」


 俺が尋ねると彼女は頷く。


「そっか、ごめんもっと早くに聞けばよかった」


 情報を知っていても立場上それを話していいのか迷う経験は俺にもあった。まだ馴染んでいないときはこういうこともあるのだ。打ち解けるためにはこちらも積極的に尋ねなければ。


「いや、ボクも早く言うべきだった」


「まあまあ、どちらもそう思い詰めるなって。クローバー、トオハはこういうやつだから遠慮はいらねえんだ」


「そうだった」


「それは褒められているのかな」


 俺が尋ねる、と2人は何も言わずに笑顔を返す。それを見てダイヤも笑う。なんなんだこの3人の反応は……俺は不安にかられ小さく震える。


「まあ、それよりだ。クローバー雪ってどんなんなんだ? その口ぶりなら何か知ってんだろ? 」


 目を輝かせながら彼女が尋ねる。すると彼女は声を震わせて答える。


「そんなに、良いものじゃない」


「そうなのか? 雪合戦とか乗り物乗って滑ったりするんだろ? 」


 その反応を見て俺もゾクリと震える。ディールはこうも言っていた、防寒を怠ってエライ目にあったと……俺の脳裏に彼女の言葉とともにあの電車が止まる大雪の風景が蘇る。あれは電車が止まったのもだけれどとても寒かった、そうそれは遊ぶというものではなく……


「魔法を使えば雪を溶かせるのでしょうけれどそこは環境を大切にしているのでしょうね、適用して氷の城を建てるなんて理念もお美しいですね」


 ダイヤが何やらうっとりとしているけれど氷の城は良いと思うけれど雪に対してはそんなに幻想的なイメージはないというか首都は良くても少なくともそこまでの道のりが……ふと3人の防寒着を確認していなかったのを思い出す。口ぶりからクローバーは、性格的にはダイヤも大丈夫な気もするけれどスペードは……


「スペード、つかぬ事を聞くけど防寒着何を買った? 」


「あ、なんだよ改まって」


 彼女は言葉を切ると自慢げに鼻を鳴らす。


「決まってんだろ、スピード命のスペード様だぜ、遅くなる防寒着なんてのは持ってねえよ」


「よし戻るぞ! 」


 俺が号令とともに引き返すとクローバーが続く、スペードはぽかんと立っていてダイヤはその中間で俺達を交互に見ている。実に分かりやすい反応だ。


「いや、待ってタアハ、ここからなら戻るよりももっとここから近い町がある」


 クローバーがそう言うとダイヤは日記を見る。


「えーっとここをイナンのある北ではなく西に向かったエントという街ですか? 」


 クローバーは頷いた。


「エントも大きな町だから防寒着も買えるはず」


「じゃあ、エントに向かおう」


 そう言ってエントのある西側へと歩き出す。


「いやちょっと待て防寒着なんていらねーっつーの」


 そう言って抵抗するスペード。仕方がないので雪の恐ろしさは道中で解説するとしてこの場はと彼女を担ぐと俺達はエントへの道を歩き出した。

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