9‐12「北の首都イナンへ」

 次の都市へと向かうことにした俺達は店長が郵便を受け取りに、ディールがショッピングへ、クローバーは酒場へ行っているので港にてディールの店の馬車の警備をしていた。


「クローバーは今頃話しているんだろうか」


「クローバーさんなら大丈夫ですよ」


 ふとキーホルダーのような状態で空を見上げて呟いた俺にダイヤが答える。「だな」とスペードも頷いた。


「そういや、次はどうするんだ? オーブを探すのか? それとも魔王が生んだ神話のモンスターを倒すのか? 」


 スペードの疑問は最もだった。考えてみればここまでは成り行きで来ていた気もするけれど今回は選択肢は彼女の言った通り2つある。しかし、どちらにしても目的地は恐らく一つだろう。


「首都へと向かおう、首都特にこの国の事情は王様が詳しいだろうから」


 どちらにせよ、情報が集まるのは首都だろうというのが俺の結論だった。ダイヤとスペード曰くこの町近辺にはリヴァイアサン以外のモンスターの名前を聞いていないということもあってそれが良いだろう。


「イナンですね、賛成です。父の日記によると氷の城が名物のようですよ」


 ダイヤがオパールさんの日記を見ながら補足してくれる。


「確かに、東の国の王様みたいにオーブはすでに王様が手に入れているっていうのも考えられるからな」


 スペードも納得の意を示してくれた。あとは……


「クローバー達にも相談しないと」


 そう、今では俺達は4人。いや6人なのだからできれば6人で話し合って決めたいというのが俺の本音だった。


 そんなことを話していると数十メートル先の大通りからこちらに1枚の用紙を手にこちらに向かってくる店長の姿が見えた。何やら浮かない様子だ。


「お手紙が届いていたのですね」


 ダイヤが用紙と店長を交互に見ながら言う。


「おう、良い知らせと悪い知らせどっちから聞きてえ? 」


 そう尋ねられて俺達は顔を見合わせた。2人の視線が俺に任せると告げている。


「良い知らせからお願いします」


 こういうとき、いつもなら俺は悪い話を先に選んでいたけれど今回は異世界に来て心機一転ということで逆にした。


「分かった」


 そう言うと店長は俺達を通り過ぎて馬車に入り木箱を一つ俺達の前に置くと中を開いた。中には銀色に輝く鎧が入っていた。


「注文されていた鎧だ、サイズもピッタリのはずだ。もう粗方成長したってことでこれで大丈夫だろう」


「ありがとうございます」


 お礼を言いながらも馬車に入りダイヤの魔法を解除してもらい元のゴブリンに戻った俺は実際に着用して鎧のサイズを確かめる。彼の言う通りほとんどピッタリだ。鎧も兜も銀製で格好よく普段なら喜びが溢れてくるのだろうけれどこの場合に限っては話が別だ。今の俺は鎧ができたことの喜びよりも悪い知らせのほうへの不安のほうが勝っていた。


「それで、悪い知らせと言うのは」


「それなんだがな」


 俺が尋ねると店長は一度深呼吸をすると意を決したように口を開く。


「すまん、手紙でよ世話になっていた師匠が倒れたらしくてよ、南の国へと戻ることになった。日没に船が出るらしいから送っていけるのはここまでだ」


 日没というとあと1時間ちょっとだ、店長はそのようにディールと店長との旅の終わりを告げた。


「いえ、謝らないでください。師匠が倒れたなんてすぐ行ってあげた方がいいと思います。こちらこそ今まで共に旅をしてくださりありがとうございました」


 確かにこれは悪い知らせだ、でもどこかで予感はしていた。彼らは商人なのだ。彼らには彼らの生活がある。それは冒険者と商人で異なるものだろう。だというのに2人はここまで付き合ってくれたのだ。そのことに関して俺は感謝の気持ちでいっぱいだった。


「そう言ってくれると少しは楽になるな」


「あの、そのことはディールさんには」


「まだだ」


 店長が額に手を当てて言う。話しにくいのだろう、短い付き合いとはいえクローバーが残念に思う姿を想像すると気持ちはわかった。


「ディールには責任持って話をする」


「じゃあオレ達はクローバーだな」


 店長の言葉を聞いてスペードが口にしたその時だった。行き先が別のはずのクローバーとディールが2人仲良くこちらに歩いてくるのが見えた。



「そっか」


 ディール達とはここからは一緒に行かないと話すと彼女はそう言う。


「残念だけど大切な人が倒れたなら行ってあげなきゃ」


 大人しいけれど先ほどまでディールと仲良く話していたりもしたのでショックはあるのだろう。彼女は色々と溜め込んでしまうタイプだと思った。

 そして俺は彼女にいつもこんな話ばかりをしている気がする。


 すぐそばではディールと店長が話をしていた。彼女も大人しく従っているようだ、彼女にとっても師匠は大切な人なのだろう。


 2人の話も終わったようでディールがこちらへと歩いてくる。


「出来れば北の国ではお力になりたいと思っていたっすけど申し訳ないっす! 師匠が! 」


 ディールが涙を流しながら謝罪をする。


「いやいや謝ることじゃないから」


「そうですよ、早く行ってあげてください」


「むしろ師匠倒れているのにまだ一緒に行くなんてなったら怒るぞ! 」


 スペードの言葉にクローバーは強く頷く。


「旅を続ければまたきっと会えるから」


「皆かたじけないっす! 」


 ディールが嗚咽を堪えながら言う。


「おいディール、そろそろ出発みてえだから行くぞ! 」


 店長が馬の手綱を取る。


「了解っす、それではクローバーちゃん、スペードさん、ダイヤさん、それから……」


 クローバー、スペード、ダイヤと視線を移した彼女と目が合う。すると彼女はにっこりと微笑んだ。


「トゥーハさん」


 今までゴブリンさんと呼んでいた彼女に名前に近い呼ばれ方をしたことにビクッと震える。少し違うけれど……そんな俺を笑いながら彼女は馬車に乗り込んだ。


「皆さん、また会おうっす! 」


 その言葉を合図に馬車は船へと一直線に進んでいった。


「じゃあ、俺達も行くか」


 彼女達の乗る船を見送った後踵を返して街のほうをみる。目的地はイナンだ! だけどその前に……


「クローバー、何か欲しいものとかある? 」


 くるりと彼女に視線を向ける。出会ってから彼女に負担を強いることが多かったので何か旅支度がてらお詫びにと考えてのことだ。


「特にない……もう十分だから」


 彼女が答えるもすぐ視線を逸らした。


「ああいや弓はこれがお気に入りで服も十分入っているから」


 焦らなくても良いのになぜか彼女は早口で理由を述べる。


「おっ、オレは肉が食いたいねえ」


 スペードが肩を叩く。今回の騒動で結局行かずじまいだった店に行きたいというスペードの申し出を断ることは俺にはできなかった。


「分かった、じゃあみんなで行こうか」


 俺がそう答えるとスペードがガッツポーズをする。チラリとみるとクローバーも笑っていた。それならばもう迷う理由もない。


「それじゃあ、腹ごしらえをした後イナンへと向かおう」


 そう言うと俺達は店を目掛けて歩き出した。

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