9-10「屋敷の財宝」

 隠し通路を歩くこと数分、薄暗い道をダイヤの出した豆電球ほどの灯りを頼りに進みとある部屋の扉へとたどり着いた。


「前方に人の気配はない」


 鼻と耳を頼りに3人に告げる。念をいれてそれぞれが武器を構える、まずはスペードが剣を構え遠距離であればダイヤが防ぎクローバーが援護するといった布陣だ。


 スペードが一歩部屋に足を踏み入れる。しかし、攻撃は来なかった。


「どうやら罠や敵はいないみたいだね」


 汗を拭いながら声をかけると2人も室内へと足を踏み入れる。


 ダイヤが灯りで素早く周囲を照らすと室内は狭いということが判明した。


「まるで牢屋みてえだな」


「罠? 」


 咄嗟にクローバーが振り返るも鉄格子が降りてきたりする気配はない。


 ふと、ダイヤが照らした光の片隅に何かが見えた。


「ダイヤ! もう少し右を! 」


 そう言うと彼女が気になった部分を照らしてくれるそこには1つの木箱がポツンと置いてあった。


「これは……」


「宝箱か! 」


「ということはこれが隠されていた財宝なのでしょうか」


「んじゃ早速お宝とご対面といきますか! 」


「待った! 」


 宝箱を開けようとしたスペードを制する。


「どうかしたのかトオハ」


 手を止めて彼女が尋ねる。それは彼女が開けようとした時にふとあるゲームでのトラウマが過ったからだ。


「いや、そういえばミミックって敵がいたなあって」


「ミミック? 」


「宝箱の形をしたモンスターでさ、こういうお宝がありそうな場所に潜んでいるんだ」


 勿論、これはゲームの中での話だ。そしてさらにいえば俺は幾度となくミミックに引っかかってはその強さに何度も全滅させられたことがあり軽いトラウマになっていたのだ。


「スウサではそのようなモンスターの存在は耳にしたことはありませんが、トーハさんの世界にはそんなに物騒なモンスターがいらっしゃったのですか? 」


「うん、まあ……」


 話が長くなりそうなのでゲームということは伏せておく。


「じゃあ、どうするんだトオハ何か見分ける方法とかあんのか? 」


「ある、宝箱を壊せば良い」


 またしても辺りに沈黙が訪れる。


「いや、それは……」


「そうですね、中のものまで壊れてしまうかも知れませんし……」


 何だ、俺はまた変なことを言ってしまったのか?


「でも見分けがつかないなら一撃必殺の攻撃を与えてみるしかないでしょ? 」


「トーハさん、流石にそれは……」


「……ねえわなあ」


 2人が顔を見合わせる。どうやらミミックへのトラウマから早まってしまったようだ。確かに、今回は幾らミミックが強いといってもこちらには硬い盾を張れるダイヤを筆頭に頼もしい仲間がいるので問題はないだろう。


「じゃあ、開けるよ」


 俺がそう声をかけた時だった。


「……待って」


 1人の手が上がる──クローバーだった。


「ボク、分かる。その昔お父さんにミミックとその特徴を聞いたことがあるから」


「そうなの? 」


 確認のために尋ねると彼女は首を縦に振る。ということはあの忌々しいミミックはスウサ以外の国では生息している可能性があるということか。


「なんだもっと早く言ってやればトオハも恥晒さずに済んだのに」


 スペードが冗談交じりに言うとクローバーは俯いた。


「ごめん、3人が仲良くて声かけて良いのかわからなくて」


「みずくせえな良いに決まってんだろ! 」


 スペードが彼女に微笑みかける。俺達も彼女と同じように微笑んだ。


 仲が良いやり取りなんて思われていたなんて意外だった。これからは彼女が馴染めるようにしていかなければ、と俺は心に誓うのであった。


「皆ありがとう、じゃあ確かめてみる」


 クローバーはそう言うとダイヤの灯りを頼りに箱の周囲を数周すると顔を上げる。


「問題ない、これは本物」


 これで安全というお墨付きを頂いたわけだ、それでは安心して開けるとしよう……って誰が?


 その時、俺の脳裏にある考えが閃いた。


「じゃあ4人一緒に開けようか」


 俺がそう提案するとダイヤは微笑みながら杖を振る。すると俺の身体が元の大きさに戻る。


「タアハ、そんなに大きかったんだ」


 俺の小さくされていない姿を始めてみたクローバーが見上げて言う。


「俺の本当の身体じゃないんだけどね」


 頰を掻きながら言う。


「それじゃあ開こうかいっせーのせ! 」


 俺の声を合図に4人で宝箱を開く。すると中には1枚の手紙と小瓶に1本の紐が入っていた。


「これが宝……? 」


 パッとみただけでは1本の紐と小瓶とからかわれたような気がするどころか本当にからかわれたのではないだろうか。


「手紙を見てみましょう」


 ダイヤの一言でふと我に帰った俺は手紙に手をかける。紙には次のようなことが書いてあった。


『ゲームクリアおめでとう、少ないだろうけれど報酬にドルチキが入った小瓶とグレイプニルの紐を用意した。どうか納めて欲しい。そして遊んでくれてありがとう』


「良い人だったみたいだね」


「そうですね」


「うん」


「だな、まさかドルチキをくれるなんてな」


「……驚いた」


「はい、小瓶でもこれだけの量は驚きました」


 何故か正体不明のドルチキに想いを馳せている3人、ここはあのフェンリルをも拘束したグレイプニルと同じ名の紐に注目するべきではないのだろうか? それともそんなにドルチキというのは良いものなのかな?


「あの、ドルチキって何? 」


「ドルチキというのはですね、西の国でしか生産されていないといわれていてこちらをかければ食料が長い間保つと言われている素晴らしい魔法の粉ですよ! 」


「金銭的価値だと1粒で船が買えるくらい」


 ダイヤとクローバーの説明によるとどうやらドルチキというのは俺たちの世界でいうコショウのようだ。そういえば昔はコショウが希少品だったらしいけどやはり長持ちするというのは得難いものなんだろうな、と2人の反応を見て思った。魔法を使っても冷凍解凍の塩梅が難しいということなのだろう。

 それにしても1粒で船が買えるというのは驚きだそれなら自宅にあるものを持ってこれれば今頃この世界で大金持ちに……ん?


「1粒で船が買える! ? 」


 驚きのあまり視界が歪む、1粒が船1隻としてそれが2粒3粒……


「この小瓶だけを4人で分けても全員が大金持ちになれるじゃないか! 」


「ああ、それでもお釣りが来るだろうな。だから皆驚いてんだ」


 スペードが言う。


 何ということだ、その気になればこれからは高級装備に身を包み高級食材を食し高級な宿屋に泊まるもはや冒険者なのかも怪しいような生活ができるのか……正直実感がわかないけどそれは一度知ってしまうともう贅沢がやめられない諸刃の剣な気もする。何より……これはクローバーのためだったのだ。


「じゃあ、俺の取り分はクローバーに」


「え、いいの? 」


 クローバーが目をぱちくりとさせる。するとスペードが俺の首に腕を回した。


「何言ってんだ、それを言うならオレ達の取り分だろ? 」


 それを聞いたダイヤが笑顔で頷く。


「ありがとう、それじゃあお言葉に甘えて」


 そう言ってクローバーは俺が差し出した小瓶を受け取るといつの間にか用意していた小瓶に半分を移した。


「半分は今までお世話になった街の人に、半分はこれからお世話になる3人に……これでどうかな? 」


 彼女は笑いながら言った。

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