8‐11「約束のキャレー」
クリフトンさんにディールの店まで送ってもらった俺は店長に包帯を巻いてもらっていた。
「これでよしっと、まあこれなら鎧つけていても歩き回れるだろう」
「ありがとうございます、すみません開店中なのに」
店長を見上げてお礼を言う。開店中にこうして店長に世話をしてもらっていたのでディールが今一人で接客を行っている。
「気にすんな、ディールも慣れてるしあのリヴァイアサンを倒したんだろ? そんな男をぞんざいに扱うなんてできるわけねえだろう」
「あ、リヴァイアサンと言えばすみません。ライデンが……」
リヴァイアサンの話題からあのまま突き刺したままのライデンの存在を思い出して詫びる。せっかく実質譲ってもらった剣を持ち帰れなかったというのは心苦しかった。
「それも気にすることじゃねえよ、伝説のリヴァイアサンを倒したとなっちゃ剣も本望ってところだろう」
「そう言っていただけると気が楽になります」
俺の言葉に店長がニカッと笑ったその時だった。
「とりあえずひと段落っす」
額を拭いながらディールがこちらを振り向く。
「おう、お疲れさん」
「ありがとう、ディール」
「いやいや、これくらいお安い御用っすよ」
ディールは照れくさそうに笑って右手をひらひらとさせながら答えるも包帯がぐるぐる巻きにされているミイラ状態の俺と目が合うと途端に心配そうに眉間に皺を寄せる。
「それで、ゴブリンさんは大丈夫なんすか? 」
「うん、大丈夫だよ」
包帯でぐるぐる巻きの顔ながらも笑顔を作ろうと試みる。その成果か再び彼女の顔に笑顔が戻った。
「それはよかったっすけど、これまでもそうだとは聞いていたとはいえこう実際に行動をしてみると改めて何も被害なくリヴァイアサンを倒してきたっていうのはすごいっすねえ、ゴブリンさん達なら本当に魔王も倒しちゃうんじゃないかって気がするっすねえ! 」
「正直に言うと俺もそうなんだ。今でも信じられないくらいだよ、それと今回は何も被害がなかったってことはなくて船一隻とライデンが……」
「だからライデンは気にしなくていいぞ」
店長にぴしゃりといわれてしまう。
「ふふっ、やっぱりゴブリンさんはどこかおかしな人っすねえ」
ディールが笑いながら言った。
「船の件は改めてゴブリンさん達が帰ってきた時のために夜はパーティーをやるって大騒ぎしてた町長に尋ねてみるといいっすね」
「でも、大丈夫なのか? 以前よりは軽そうで日没までまだ時間があるけどよ、随分身体に無理させたんだろ? 」
店長が俺の包帯だらけの身体を見て言う。
「確かに以前よりは楽ですけど、ちょっとそこは分かりませんね」
「まあ、日没までゆっくり休むといいさ、二人はどうやら無傷で帰ってきたのもあって人だかりができてるは、ありゃ当分帰ってこれねえだろうしな」
「ありがとうございます」
そう答えた時直後に「すみません」と声がして二人が立ち上がった。気遣ってくれたのだろう。
「ありがとうございます」
俺はもう一度小さく言うとともに瞳を閉じた。今頃ダイヤ達は金メダリスト並みの質問攻めにあっているのだろうか? スペードは大丈夫だろうけれどダイヤは大丈夫なのだろうか?
俺は顔を赤くしながらも一生懸命に質問に答えようとしている彼女の姿を想像して小さく笑っているうちに眠りへと誘われていった。
♥♥♥♥
俺が目を開けると車内はランプの明かりだけがぼんやりと常夜灯のように照らしていた。状況を把握しようと身体を起こして周りを見ると店長が真剣な顔で本を読んでいるようだった。
「あ、お目覚めのようだね、ってもう体起こして大丈夫なのか! ? 」
「……みたいですね」
自分の身体の変化なのに他人事のように答える。どうやら今の俺は『強化の魔法』1回で以前眼に集中させたように特に無理をしなければ一睡すれば回復できるほどまで身体が慣れたらしい。
「とりあえず御無事そうで良かった。それで早速で悪いんだが鎧をくれねえか? 」
そう言うと店長は俺に鎧を着るようにいって着たのを見ると手を取って馬車から出ると鍵をかけて歩き出す。
「どどど、どうしたんですか? それよりダイヤは? スペードは? ディールは? 」
俺がそう尋ねた時だった。目の前に鍋の前で座っている三人の人影が見えた。ダイヤとスペードとディールだった。
「おはようございますトーハさん、ご無事で何よりです」
「ダイヤさん、すごいっすね」
「早かったなあ、でもこっちは準備万端だぜ」
スペードはそう言うと自信満々に鍋の中を指差す。中には俺達の世界で言うシチューであるキャレーがぐつぐつと煮込まれていた。
「念願のキャレーっす! 」
ディールはピョンと飛び跳ねる。
「あれ、でも昨日皆でキャレー食べたんじゃ」
俺が今日初めて食べるという様子のディールにツッコみを入れると彼女はきょとんとして答える。
「ゴブリンさんがつらい思いをしている中食べるわけないじゃないっすか」
「そうだぞ、オレがそんなに食い意地張っているようにみえるのかトオハは」
「一緒に食べましょう、トーハさん」
「あ……」
その答えを聞いてどうしてか視界が滲んだ。見るとダイヤとスペードも穏やかな表情でこちらを見ていた。
「うん、食べよう! 」
俺はそう答えると勢いよく鍋のそばに座り込んだ。それを見ていた店長も肩をすくめながら真向いのディールの隣に座る。
「なんか、トオハがずっと待ち望んでいたみたいだな」
スペードが茶化すように言いながらキャレーの入った器を手渡す。俺はそれを「最初にリクエストしたのは俺だから」と返しながら受け取った。
「「「「「いただきます」」」」」
静かな夜に俺達の声がこだました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます