8-10「勝利の実感」
リヴァイアサンを撃破して数時間、俺達は船に乗ってブンセの港へと戻った。無念なことに俺は『強化の魔法』のフィードバックで甲板に横になっている。購入したばかりの新品と言える鎧も主に迫りくる歯を押さえようとしたときに負担がかかったのだろう、あちこちが破損していて白い身体が露わになっている。念のために包帯を巻いておいて良かった、と心から提案してくれた二人に感謝をする。
「おお! 帰ってきましたぞ! 」
町長がそう言うとともに一斉に港から歓声が沸き上がるのが聞こえる。その反応を見て船上の皆はようやくリヴァイアサンを倒したんだという事実を実感することができた。
「やっぱり、俺達はやったんだな」
「ああ、作戦は練ってあったとはいえまさかあの怪物を相手に海戦で無事に帰ってこれるなんて未だに信じられねえわ」
「はい。ですが、あんなに大きな魔法だったなんて」
「ああ、流石にオレもヒヤヒヤしたぜ」
ダイヤが巨大な雷撃のことを思い出したようでぶるぶると震える。言われてみると二人の雷撃は見事なものであと少し遅かったら俺も巻き込まれていたかもしれないと思うほどだ。それを考えると思わず俺も身震いする。
あれ?
「待った、どうしてダイヤとスペードが驚いているの? 二人で練習していたんじゃ……」
「まあな、ダイヤが万が一にでも樹とかを目掛けて打ってそれが森を破壊したらやばいってダイヤが言ってな。だから空に向かって打って練習していたんだ」
「はい、それも念のためにかなり上空でタイミングを合わせていたのでまさかあれほどの大きさだったなんて……」
話によると空に飛行機はいないもののタカラスやその他の名前の知らない鳥が飛んでいたりするものだから巻き込まないようにそれに配慮したということなのだろう。そして小さく見えたというのはこうして俺が今見上げているダイヤ達の顔が大きく見えるみたいなことで……とそれは違うか。丁度ここから見た町長達が凄い小さく見えるみたいなものだろう。
そんなことを考えて一人で納得しているうちに船が港へと到着した。船員が錨を下ろしたりしているのがみえる。そんな中、スペードが膝を曲げる。
「よし、じゃあ乗れトオハ。ダイヤは悪いけど俺の荷物を頼む」
「はい」
ダイヤがそう答えた時だった。
「待ちな。幾ら冒険者で力あるって言っても鎧を着てちゃ辛いだろ、そういうのは力仕事が得意な俺たちに任せな」
そう言って制止を促したのはクリフトンさんだった。彼はスペードの横に立つと膝を曲げる。
「あの馬車まで連れてけばいいんだろ? 」
彼の言う通り、俺は今鎧を着ているのだからここは彼に甘えたほうが良いかもしれない。
「お願いします。有難いけどスペード、ここはクリフトンさんにお願いするよ」
「分かったよ、まあせっかくだからな」
そう言うとスペードは立ち上がりダイヤとともに俺がクリフトンさんの背中に乗るのを手伝ってくれた。
「ありがとうございます! よくあのリヴァイアサンを倒してくれました。本当にあなた方には……とそちらの鎧の方は大丈夫なのでしょうか」
ボロボロの俺の鎧に目が付いたようで心配そうに尋ねる。すかさずクリフトンさんが答える。
「ちょっとまずいみたいだ、しばらくは安静らしいからあの店まで運んできます」
そう伝えると囲まれているダイヤとスペードに他の船員をその場に残して馬車へと歩いて行った。
「悪いけど道を開けてくれ」
そう言いながら彼は馬車へと向けて歩き出す。そこから歩くこと数分、あと数十メートルというところで彼はふと立ち止まった。
「ゴブさん、あんた人間なのか? 」
「え」
突然のことで言葉を失う。口の中はすっかり乾ききっている。
「とつぜんどうしたのですか? 」
俺はひとまず胡麻化そうと取り繕うも彼は何か確信があるようで忽然とその場に立っている。
「とぼけても無駄だぜ、さっき見ちまったんだよ。その包帯の隙間の緑色の腕をな」
「そんな」
慌てて腕を見ると僅かとはいえ緑色の腕がむき出しになっている箇所があった。ハッと息を呑む。それは肯定したのと同じだった。
「街中でも兜を被ってたからなにかあるだろうとは思っていたけどよ。まさか本当だったとはな。そのこと、二人や店長は知ってるのか? 」
「はい」
「そっか、なら俺から言うことはなにもねえわ、ちゃんと包帯巻き直してもらいな」
俺の返答を聞くと先ほどまでの緊張感に満ちた声がウソのようにあっけからんとクリフトンさんは言った。
「いい仲間を持ったな」
そう言うとともに彼は再び歩き出す。
「はい」
俺は四人の顔を思い浮かべながらはっきりと答えた。
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